開業医の日常使用は9割、ただし漢方薬にまつわる「困ったエピソード」もさまざま
エビデンス情報が増えてきたこととあいまって、西洋医学の医師の間でも「漢方薬」を日常診療において処方する動きが広がりを見せている。
そこでQLifeは全国の開業医にアンケート調査を行って(有効回答200人)、漢方薬が診療所の医療現場でどんな役割を果たし、どんな「困ったエピソード」を引き起こしているのかを浮き彫りにした。
1:日常診療で漢方薬を処方していますか。
日常の診療において漢方薬を使っている医院は、89%にのぼった。「患者の5人に1人以上」に処方している医師も13%いる。逆に、「過去に処方していたが今はしていない」医師も8%いた。年代別にみると、年齢が高い方が「患者5人に1人以上」という積極派が多い。
一方で、「過去に処方していたが今はしていない」医師は若いほど多い。若年層の方が試行錯誤が活発ということか。
主な診療科目別
診療科目別に見ると、特定の科目ではなく、ざまざまな科目において処方されていることがわかった。
特に「耳鼻咽喉科」の処方度合いが高い。逆に「皮膚科」と「その他(泌尿器科・眼科・美容外科など)」は低く、かつ、そもそも処方経験がない医師も多い。
注:「内科系」以外は集計母数が小さく、参考表示
経営状態(収益面)別
注:「経営状態(収益)」=周囲の類似の医院にくらべて「好調と思う」/「不調と思う」/「わからない」から主観的に選択してもらった結果。「※わからない」には「どちらでもない」も多く含まれると考えられるため、参考表示している。
経営状態別に見ると、収益好調な医院の方が、漢方薬使用に積極的だ。
患者層の特徴別
患者層の特徴別に見ると、「更年期の女性が多い」医院で漢方薬の処方割合が高いことがわかる。一方、「高齢者が多い」は相関がみられない。
診療方針(最も重視するもの)別
注:「診療方針」=“あなたは、日常診療において、何を重視していますか。あえて優先順位をつけた場合の、一番上位のものを選んでください”と訊いて、選択肢から単数回答してもらった結果。
診療方針別では、あまり違いが見られなかった。
注: 「医院収益性」「患者の費用負担」「その他」は集計母数が小さいため、グラフでは除外
漢方専門医の身近存在別
注:「漢方専門医の身近存在」=“周囲に、漢方専門医(日本東洋医学会の専門医など)はいますか。一番近いものを選んでください。”と訊いて、選択肢から単数回答してもらった結果
漢方処方ノウハウへのアクセシビリティ別に、積極度合いに違いがあるかを見た。身近に漢方専門医がいる医師の方が、積極的に処方している。
2:患者さんから、「漢方薬の処方が可能か」を質問されたことはありますか。(漢方薬を処方していない医師のみ)
漢方薬を処方していない医師でも、39%が患者から漢方薬処方の可否について問い合わせを受けた経験がある。
3:患者から、漢方薬や漢方薬処方について質問されて、困ったエピソードがありますか。
漢方処方に関して医療現場で起きている実態を垣間見るために、「困ったエピソード」を具体的に聞いた。目立ったのは、以下のような内容であった。
保険適応対応
- テレビ番組をみて来院した患者がいたが、その症状に対する使い方は保険適応がなかった。安易にテレビ報道して欲しくない。自由診療をしている先生には良いが...。実際、病名を登録するのに困ることが多々あり(症状のみのため)漢方を製造している薬品会社も適応症状ではなく、保険適応病名を説明書に載せて欲しい。(女性・45歳・東京・内科)
- 薬事法で薬価がきまっていない生薬を希望されて来院する患者さんに、説明しても理解されないことがある。(男性・51歳・香川・外科/脳神経外科)
- 保険適用ではないですよね?とよく聞かれる。(男性・44歳・東京・整形外科)
作用機序説明
- いつ効果が出るんですか、どんな効果があるんですか、といった質問。適当に答えることもできますが、きちんとした答えをするためには漢方の基礎的知識からお話ししなければなりません。そんな暇はないし、そもそも患者に理解できるとは思えないし…。(女性・47歳・神奈川・内科)
- なぜ効くのか詳しい説明を求められると困る(男性・44歳・香川・内科)
漢方診療の独特さ
- 「気」を現代風に解説できない。(男性・51歳・東京都・整形外科)
- 明らかに「証」が違うのに、どこかで仕入れてきた情報で、この薬が欲しいと言ってくる。(男性・47歳・神奈川県・産婦人/婦人科)
服薬コンプライアンス
- 内服方法として食前が推奨されていますが、内服のタイミングを忘れる方が多いですね。(男性・53歳・大阪・産婦人/婦人科)
- 食間の服用が難しい、味がありまた散剤なので服用しづらい。(男性・59歳・北海道・内科)
- 服用が食間になっているので飲み忘れが多い。食後に服用しても効果に違いがあるのかよく分からない。(男性・65歳・高知・精神科/神経科/心療内科)
「漢方不信」先入観
- 「どこどこの医師が漢方薬は効かないと話していたが、効くのか」と患者に問われることが多い。漢方薬を知らない医師に限って、漢方薬に対して否定的な発言をする。堂々と自慢げに患者さんに対し、メディアに対し発言する。(男性・46歳・青森・整形外科)
- 漢方に抵抗が強い(心理的に)人で、診療所では納得してくれたのだが、やはり一般薬にしてほしいと、調剤薬局の方から連絡があったこと。(男性・26歳・神奈川・内科)
- 一回のんで軽い吐き気を感じたり、便秘や下痢などがちょっと起こっただけで副作用だと大騒ぎをする。一つの漢方薬が合わなかっただけなのに、漢方全てを拒否する。などなど。(男性・47歳・神奈川・産婦人科/婦人科)
「漢方」ひとくくり誤解
- 漢方も千差万別有るが、患者さん側が「漢方」という感じで、ひとくくりにされることがある。(男性・36歳・高知・内科)
- 漢方なら、何もかも良くなると思っている(女性・35歳・滋賀・内科)
不慣れ方剤への対応
- 前医処方の漢方薬がなんだか分からず続けて処方できなかったこと。(男性・44歳・千葉・産婦人/婦人科)
- 他院から処方された漢方をそのまま処方希望されても自分の詳しくない方剤は正直困る。(男性・34歳・奈良・内科)
- 薬剤名が読めない(男性・43歳・北海道・その他)
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