漢方を活かす食養生 No.3 しつこい過敏性腸症候群に
ここでは、食養生を実践するためのレシピや、食養生と漢方の関係について、水嶋クリニック院長で東洋医学研究所所長の水嶋丈雄先生が解説します。
今回は「下痢」です。過敏性腸症候群が引き起こす下痢のときには、摂取した方がよい食物と、摂取してはいけない食物があります。それらを踏まえ実際に行った処方と食事指導について紹介します。
28歳女性が、数年前から毎食後の下痢を主訴に来院されました。検査では異常はなく、過敏性腸症候群と診断しました。桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)を処方し、食事指導は、胃腸を強くする甘味を中心としました。また、甘味の働きを抑制してしまう「酸味」を抑える辛味も有用であることをお伝えしました。これは、1回目にもお伝えした五味の関係の相克関係です。
甘味成分では不溶性食物繊維をとるのは厳禁で、甘味でも水溶性食物繊維の多いものにするのがよいでしょう。水溶性食物繊維の多いものは、
- わかめ 9.0g
- ひじき 22.5g
- 昆布 7.4g
- かんぴょう 6.8g
- 海苔 10.8g
- 切り干し大根 3.6g
- 小豆 1.2g
- 大豆 1.8g
- 大麦 6.0g
- 燕麦 3.2g
- 納豆 2.3g
- モロヘイヤ 1.3g
- ごぼう 2.3g
- おくら 1.4g
そのほかバナナ、リンゴ、桃、寒天、プルーンなどがあげられます。しかしこの中でも消化のよいもの(消化管の停滞時間の短いもの)でないと、かえって下痢のときには負担になります。ご飯類ではおかゆや煮たうどんなどがよく、玄米やコーン、そばなどはかえって消化管の負担となります。そういう意味で同じ水溶性食品の中でも、わかめ、ひじき、かんぴょう、切干し大根、ごぼう、きのこ、ねぎ、たけのこは避けたい食品です。バナナ、リンゴは消化がよいためおすすめです。
さらに、漢方的に下痢に効果のある食品は、甘味を抑える効果をもつ辛味の中から温性・熱性のものはしそ、にら、からし、わさび、大根の葉、山椒、らっきょう、こしょう、にんにく、とうがらしなどがありますが、特にミント、薄荷、しょうがは下痢をとめるのに有効です。ミントが過敏性大腸炎に効果があるという報告もあります。水分摂取も温かいものにして、主食にはおかゆに生姜をすこし加えると効果的です。
今回の患者さんには、こんな料理を紹介しました。
みぞれ鍋
だいこん | 1本 |
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豆腐 | 1丁 |
レンコン | 200g |
鶏ひき肉 | 200g |
薄口しょうゆ | 大さじ1 |
◇だし汁 | |
水 | 6カップ |
煮干し | 10g |
薄口しょうゆ | 大さじ1 |
酒 | 大さじ3 |
塩 | 小さじ2 |
- レンコンはすりおろし、汁ごと鶏ひき肉、しょうゆと合わせる。
- 6カップの水に煮干しを入れ、だしを取る。
- だいこん1本をすりおろし、ふきんでつつみボウルに水をはった中に入れてすぐに引き上げる。これでだいこん臭が抜ける。
- 2の鍋にしょうゆ、酒、塩を入れる。
- 沸いてきたら、6切れに切った豆腐と1の肉団子をいれる。
- 煮ながら汁ごと食べる。
- ※詳しい作り方は文献1)に記載されています。
キャベツと油揚げの煮びたし
キャベツ | 1/2個 |
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油揚げ | 12cmを2枚 |
煮干し | 5g |
水 | 200ml |
みりん | 大さじ2 |
卵 | 4個 |
- キャベツは洗ってざく切りにし、水と煮干しを入れて煮る
- 油揚げはゆでて細切りにし、1に加える
- キャベツが柔らかくなったら、しょうゆ、みりんを加える
- 卵を落とし半熟に仕上げる
- ※詳しい作り方は文献1)に記載されています。
以上のような食品で漢方薬の効果もあいまって、徐々に下痢は改善、1か月後には形のある便通になりました。
- 文献
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- 水嶋丈雄ほか. 食べて元気になる 漢方ごはん. 信濃毎日新聞社, 2008, p.99.
(本記事は医療関係者向けサイト漢方スクエアに掲載された記事を元に、一般読者向けに再編集しております)
医療法人 水嶋クリニック 院長/NPO法人 東洋医学研究所
1981年大阪医大卒。1978年より麻酔科兵頭教授に師事、鍼灸治療を学ぶ。1998年長野県佐久市内に水嶋クリニック・東洋医学研究所開業。2010年WHO伝統医学部門委員、日本東洋医学会評議員、2012年日本プライマリケア学会認定医、2014年厚労省保険部会外部諮問委員。著書に『花粉症・アレルギーを自分で治す70の知恵』(主婦の友社)、『鍼灸医療への科学的アプローチ』(三和書籍)など多数。