国産の生薬を増やすためには?先進的な取り組みを行っている自治体のとりくみ
漢方薬は、生薬と呼ばれる、植物や鉱物などから採取された薬効となる部分を複数組み合わせて作られています。生薬のうち、田畑などで栽培されるものを「薬用作物」といいます。日本で医薬品の原料として使われる生薬は、中国産が全体の約79%を占め、国産の生薬は約11%です1)。近年、中国産の生薬の価格が高騰していることから、国内の薬用作物の需要が高まっています。こうした現状を受け、2020年1月29日(水)に、薬用作物(生薬)産地化を推進するため、全国各都道府県の行政担当が集まり、情報交換会が行われました。
稲作に代わる農産物としての「薬用作物」-福井県高浜町
福井県高浜町では「農業改革を行う中のひとつのツールとして薬草事業」を行っています。福井県は、コシヒカリ発祥の地でもあり稲作が盛んな土地柄ですが、コシヒカリの産地としては新潟県魚沼市が有名で、魚沼産コシヒカリは海外へも輸出されブランド米としての評価を確立しています。一方、福井県産のコシヒカリの成功例は、農家全体から見ると一握りに留まっており、米の価格も年々下がっているといいます。
生薬の国内使用量は年々右肩上がりで増えています。安価で供給が安定している中国産が多く選ばれている現状ですが、国産の生薬の需要は大きいと高浜町は考えているそうです。そのため、高浜町では町をあげて薬用作物の栽培に取り組んでいます。専門家からのアドバイスを受け、栽培技法を確立。栽培を希望する農家に伝え、生産者を増やしています。
現在、高浜町でしか栽培されていない品目は、呉茱萸(ごしゅゆ)と川骨(せんこつ)の2種類。費用対効果を高めるために、薬用作物を用いた商品開発なども行い、薬草事業を推進しています。
町内の飲食店で薬膳メニューの開発-秋田県八峰町
秋田県八峰町は、秋田県の日本海沿いの最北端に位置し、雪はあまり多く積もらない地域です。八峰町では、平成24年度から公益社団法人東京生薬協会や国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所と連携協定を結び、栽培指導員制度を用いて、年に4回、指導員を派遣して勉強会を行っています。現在同町では、全27品目の薬用作物を栽培しています。そのうち出荷まで可能となったのが、ジャーマンカミツレとキキョウの2品目です。それ以外にも4品目の試験栽培が進められています。
ジャーマンカミツレ(カモミール)は花の頭の部分のみをすべて手摘みし、製薬会社へ出荷。また、キキョウは生薬としてだけでなく、食品としても活用しています。町内の飲食店では薬膳メニューを独自に開発し、梨とキキョウの薬膳パスタ、キキョウを使ったスープやきりたんぽ鍋、あんかけなどを提供しているそうです。薬膳メニューを提供している飲食店のひとつでは、売上がここ4年間で最高となり、客単価も前年を上回ったといいます。
これまで、薬用作物には新たな産地が生まれていないという課題がありました。その背景には、生産している農家が栽培技術を独占し、新規参入が難しいという事情がありました。八峰町では、「分母を大きくして、競争を高めることで産業は発展する」と考えており、今後は栽培している畑などの視察も町外からも受け入れ、生薬の普及に貢献していきたいと話していました。