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婦人科領域の漢方薬(2)更年期障害への対処と漢方薬の服用にあたっての注意事項

公開日:2019.12.04
カテゴリー:漢方ニュース

 卵巣からのホルモンの影響を受けるという点で男性とは大きく異なる女性では、月経に関連した疾患やはっきりとした原因は分からないさまざまな症状(不定愁訴)が現れます。このような婦人科の症状に対して、漢方薬による治療が行われています。そこで婦人科領域で比較的訴えの多い「月経困難症」と「更年期障害」に対する漢方治療について、北里大学東洋医学総合研究所の森裕紀子先生にお話を伺いました。第2回は更年期障害への対処と漢方薬の服用にあたっての注意事項です。

多彩な症状を呈する更年期障害、患者の困り具合に応じた治療を

そもそも更年期障害とはどのような状態を指すのでしょう?

 50歳前後の閉経を挟んで前後約5年間、合計約10年間を「更年期」といい、この時期に起こるさまざまな不定愁訴をまとめて「更年期障害」と呼びます。主な原因は女性ホルモンの減少ですが、加齢に伴う身体的変化、精神・心理的な要因、社会文化的な環境因子などが複合的に影響していると言われ、症状は人によってさまざまです。そのためひとつの処方で全ての症状を改善させるというのは難しいことがあります。

その意味では月経困難症とは治療の最終目標は異なるのでしょうか?

 更年期障害の治療は、日常生活でどのくらい困っているかで治療をするかどうかが決まります。例えば更年期障害の典型的な症状の「ホットフラッシュ」は、上半身ののぼせ、ほてり、発汗などですが、この症状を不快と感じるならば治療することが望ましいのですが、症状を感じてもそれほど苦また、月経困難症の場合はでないならば、敢えて治療する必要はないでしょう。

 また、月経困難症の場合は症状そのものの消失を治療目標としますが、更年期障害では日常生活で苦にならない程度まで症状を緩和できれば治療目標を達成したと言えます。

具体的にはどのような漢方薬を使うのでしょうか?

 更年期障害は症状が多彩なため、更年期障害だからこの漢方薬という選択ではなく、それぞれの患者さんが苦しんでいる症状に合わせた漢方薬を選択することになります。

 更年期障害で代表的なホットフラッシュでは、軽度ならば婦人科三大処方の桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)で症状が軽減する人は少なくありません。ただ、桂枝茯苓丸を服用していてもホットフラッシュをまだ強く感じる人で、さらに不安感やイライラを感じる、足が冷えるという症状がある人は加味逍遥散(かみしょうようさん)の方がより適切な選択肢といえるでしょう。

 一方、常に暑さを感じ、水分を多量に摂取し、発汗も多いという人ならば、体の内側から冷やす漢方薬で知母(ちも)、石膏(せっこう)、甘草(かんぞう)、粳米(こうべい)、人参(にんじん)の生薬で構成される白虎化人参湯(びゃっこかにんじんとう)を選択します。ただ、白虎加人参湯の場合、胃腸が弱い人は服用が難しいという難点があります。

白虎化人参湯

 同様のケースで、体形がぽっちゃりしてやや水太り気味のような人では、防已(ぼうい)、黄耆(おうぎ)、蒼朮(そうじゅつ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)で構成される防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)を選択することが望ましいと言えます。

ホットフラッシュ以外の更年期障害の症状について、漢方薬ではどのように対処するのでしょう?

 最初にお話ししたように、更年期障害はとても多彩な症状が現れ、それに応じて多彩な処方を行うので、一概には言えません。その意味では、更年期障害で悩んでいる人は、漢方診療を行う医師を受診して、医師が直接お腹を触って体の状態を見極める腹診や、脈をとってもらったり、問診で生活状況や症状などを話すことで具体的な処方を提案してもらうことが適切でしょう。漢方薬処方に長けた医師ならば、ある程度問診することで、各人にあった処方を選択することも可能なはずです。

漢方薬は西洋薬との併用も可能。服用時は副作用へも注意して

更年期障害に対する西洋医学的な治療では、減少する女性ホルモンを薬で補うホルモン補充療法が良く知られていますが、この治療と漢方薬治療は併用はできるのでしょうか?

 基本的にホルモン補充療法と漢方薬の併用は可能です。ただし、ホルモン依存性のがんの方などホルモン補充療法を行いにくい場合は、漢方薬による治療で対処することが望ましいと言えます。

 一方、更年期障害に伴う精神神経症状で抑うつなどがあり、それが重度で自殺企図などがある場合はむしろ緊急的な西洋医学でのアプローチが必要と考えます。

一般では漢方薬については「副作用がない」という誤解もあるようです。

 それは大きな誤解で、漢方薬にも副作用はあります。例えば、今回お話しした処方の多くに含まれている生薬である甘草の成分では、血圧を上昇させるホルモンであるアルドステロンが上昇していないのに血圧が上昇し、体にむくみが生じる「偽アルドステロン症」を起こすことがあります。このため甘草が含まれる漢方薬を服用している人は、自宅でも定期的に血圧を測定したり、むくみがないかなどに気を付ける必要があります。ただし服用を中止にすれば血圧の上昇もむくみも消失します。

 また、更年期障害の年齢に達すると、脂質異常症などの生活習慣病を指摘され、その改善のためのダイエットを目的として、ドラッグストアなどで、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)や大柴胡湯(だいさいことう)といった体重減少効果があるとされている漢方薬をご自分で購入して服用している人がいます。ところが、これらの漢方薬には長期に服用すると肝機能異常を起こす可能性がある、生薬の黄芩(おうごん)が含まれています。黄芩以外の生薬でも肝機能障害を生じる可能性はあるので、漢方薬を長期に服用している人は医師にこれらの服用の事実を伝えたり、定期的な血液検査で肝機能異常の有無をチェックすることも必要です。

その他漢方薬を服用するにあたって注意点があれば教えてください

 まず、漢方薬は元々生薬を煎じて飲む薬ですが、現在では簡便な服用ができるように煎じ薬を粉末化したエキス製剤が広く使われています。服用する時はお湯にエキス製剤を溶かして温かくして服用する方が、効果が得やすいと考えます。特に冷えの症状がある人はこのことを心掛けてほしいと思います。逆に更年期障害によるホットフラッシュの症状がある人は水で服用しても構いません。

 また、服用は空腹時が望ましいとされています。ただ、空腹時の服用で腹痛などが起きるならば、食後服用に切り替えます。もしも食後服用でも腹痛が起こるのであれば、処方量を減らす、あるいは別の漢方薬を変えることが必要になります。

最近では服用の手間暇もあり煎じ薬の漢方薬を服用する人は少なくなっていますが、煎じ薬のメリットとしてはどのようなことがあげられるのでしょう?

 例えば、先ほどの甘草で血圧が上昇しやすい人では、含まれる甘草の量を減量します。また、ある程度効果が出ているけれど、冷えだけが強いという人では、体を温める作用がある生薬のみを若干増やします。こうした、各人にあわせたオーダーメードな形にできるという点は煎じ薬の大きなメリットだと思います。

 もっとも、当院をはじめとして煎じ薬を処方する医療機関では、医療保険の適応ではない自由診療が多く、保険診療のエキス製剤による漢方薬治療に比べてやや治療費が高めという現実はあります。ただし、医療機関で煎じ薬の処方にかかる自由診療の治療費は、税務申告時の医療費控除の対象になりますので、覚えておいてください。

(聞き手:村上和巳)

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