後期高齢者の慢性硬膜下血腫に効果的な漢方薬とは?
75歳以上の高齢者の「慢性硬膜下血腫」にも、五苓散は有効か
「慢性硬膜下血腫」とは、頭部の軽い打撲などが原因で、脳を包んでいる「硬膜」と脳の表面との間に血液が溜まり、血の塊「血腫」ができて脳を圧迫することで、頭痛や吐き気、体の片側の麻痺やしびれ、認知機能の低下などが起こる病気で、高齢者に多くみられます。
慢性硬膜下血腫の治療では通常、頭部に穴を開けて血腫を洗浄して取り除きます。ところが体力の衰えた高齢者では手術は負担が大きかったり、血腫が認められても症状が軽い場合には、患者さんやそのご家族が手術を望まないケースも少なくありません。また、手術後に再発する患者さんも1割程度いることが知られています。
これまでに、軽度の慢性硬膜下血腫や手術後の再発予防には、漢方薬の五苓散(ごれいさん)が有効という研究が発表されていました。ただし、体の様々な機能が衰える75歳以上の後期高齢者の慢性硬膜下血腫に限定して、五苓散が有効かどうかを検討した研究はこれまでほとんどありませんでした。
三重県の塩川病院脳神経外科の仲尾貢二先生は、こうした後期高齢者での慢性硬膜下血腫に対して五苓散を使用した経験から、後期高齢者に対する五苓散の有効性について、第61回日本老年医学会で発表しました。
五苓散を服用で、「血腫がなくなる」「血腫が小さくなる」が75%
沢瀉(たくしゃ)、猪苓(ちょれい)、蒼朮(そうじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、桂皮(けいひ)の5種類の生薬で構成される五苓散は、一般的に口や喉の渇きのある人や、尿量が減少する人のむくみ、二日酔い、下痢、悪心、嘔吐、めまい、頭痛の治療に使用されます。また、慢性硬膜下血腫でも一部で経験的に使用されてきました。
最近の基礎的な研究では、さまざまな脳の損傷や、脳の病気によっておこる脳のむくみに関わっているとされるたんぱく質「アクアポリン4」の働きを抑える作用が、五苓散にあることが分かっています。この作用によって、慢性硬膜下血腫の血腫を小さくすることができると考えられています。
仲尾先生らは75歳以上の後期高齢者(平均年齢82.5歳)の慢性硬膜下血腫の患者さん20人に五苓散を投与した結果を紹介しました。五苓散を1日5.0~7.5g服用してもらい、血腫の大きさの変化を、頭部のコンピュータ断層撮影法(CT)で測定しました。CTで血腫がなくなったり小さくなったりした人を有効、血腫の大きさが変わらなかった・大きくなった人は無効と判定しました。
この結果、血腫がなくなった人が11人(55%)、小さくなった人は4人(20%)でした。一方、血腫の大きさが変わらなかった・大きくなった(無効)人は5人(25%)でした。無効だった人のうち、2人は血腫が大きくなり、手足のしびれや麻痺といった神経症状が出てきたため、手術を行いました。
五苓散を服用した期間は、血腫がなくなった人では101日、小さくなった人で118日、変わらなかった・大きくなった人では95日でした。また、有効だった人の平均年齢は81.1歳、無効だった人の平均年齢は86.6歳で、無効だった人のほうが、やや年齢が高めの傾向があったと仲尾先生は報告しました。
この結果から、仲尾先生は「五苓散は、後期高齢者の慢性硬膜下血腫に対する手術を行わない治療として、安全で有効な薬剤だといえます」との結論を述べました。(村上和巳)