循環器疾患の漢方治療
夜型生活の「フクロウ型」低血圧には苓桂朮甘湯
循環器疾患で漢方薬が良く使われる病気に、軽症の高血圧症、低血圧症、心臓神経障害、軽症の不整脈、軽症の心不全があります。
低血圧症で最も処方されるのが苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)です。とりわけフクロウ型と呼ばれる、いわば夜型の患者に最適です。一方、同じ低血圧症で胃腸が丈夫ではなく、疲労感や頭重感を訴える場合は半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)を、全身的な冷えがあり疲労感、下痢が起こりやすい場合は真武湯(しんぶとう)を、若年女性で手足のみの冷えや顔色不良、疲労感、腹痛や月経痛が起こりやすい場合は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を、疲労感を訴えやすく足がだるくて寝汗をかき、朝起きれない場合は補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を考慮します。
高血圧は、西洋薬の選択肢が増えたため、漢方薬が必要になることは少なくなりましたが、血圧低下後も頭重感が取れない方には釣藤散(ちょうとうさん)、興奮して不眠傾向の場合は黄連解毒湯(おうれんげどくとう)などが適しています。
心不全は西洋医学の治療が優先されることが多いですが、それで症状が改善しなかった場合に漢方薬の併用で改善することが少なくありません。心不全の西洋医学的治療では水分制限の指導に加え、利尿薬が処方されるため、口乾で苦しみます。このため水分制限を守れないこともあります。そうした中で、よく使われる漢方薬が五苓散(ごれいさん)です。五苓散は、体内の水分が多すぎる場合にも少なすぎる場合にも使う利水剤で、口渇多飲の改善を目標としています。このような場合に五苓散を併用すると、口渇が改善した結果、水分制限が守れるようになります。
心不全の兆候として、心窩部(しんかぶ)がつかえて硬くなっている所見があり、むくみ、尿量の減少が認められる場合は木防已湯(もくぼういとう)を用います。ただ、この漢方薬は軽症の心不全向きで、重症では不向きです。また、体力が落ちて冷えが強い心不全では、真武湯(しんぶとう)が使われます。
動悸や胸痛で使用頻度が多いのが桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)です。体力があまりなく、のぼせたり、足が冷えたりする、おなかをさわると動悸が触れる、悪夢を見る症例などに適しています。加えて、動悸、胸痛の発作に極度の不安を感じてている場合は半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、また、強い不安ほどではないものの、動悸・胸痛の発作がなんとなく心配な場合は香蘇散(こうそさん)をそれぞれ使います。一方、動悸があり、それ以外に多様な症状を訴える場合は加味逍遙散(かみしょうようさん)を使用します。
(2017年6月開催 第68回日本東洋医学会学術総会「漢方入門講座 循環器疾患の漢方治療(岩手県立久慈病院 溝部宏毅先生)」をもとにQLife漢方編集部が執筆)