うつ病治療における、漢方薬の得意分野
第67回日本東洋医学会学術集会で東京都八王子市・青溪会駒木野病院の田亮介先生が、うつ病治療において、向精神薬では十分に改善しない身体症状、向精神薬による副作用のコントロールを目的に、併用療法として漢方薬の有用性が高いことを発表しました。
日本うつ病学会のうつ病治療ガイドラインでは、軽症うつ病で加味帰脾湯(かみきひとう)の有効性が記載されています。「しかし、実践的な漢方薬処方の記載がありませんでした」(田先生)。田先生は具体例として、抗うつ薬による不安、抑うつが軽減した後に残る気力低下などに、追加するかたちで、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、六味丸(ろくみがん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)などを処方することで改善が得られることが少なくないと解説。さらに、抗うつ薬では完全に消失しない身体症状への漢方薬併用に関しては、めまいでは苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、頭痛には呉茱萸湯(ごしゅゆとう)や桂枝人参湯(けいしにんじんとう)、浮腫には防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)などがあることを紹介しました。ほかにもSSRIによる消化器症状の副作用に五苓散(ごれいさん)や六君子湯(りっくんしとう)、便秘に対しては大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)、桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)など、排尿障害に対しては八味地黄丸、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などが有効な場合があると説明しました。
向精神薬の副作用をコントロールする目的で漢方を活用
田先生は副作用のコントロールを重視する理由として、抗うつ薬による治療中の患者のアドヒアランス(患者が作用、 副作用について十分な説明を受け納得した上で服薬する)は半年で35%、1年では半数以上が脱落するというヘルシンキ大学による研究データを提示。
「服薬中断により再発のリスクは高まります。中断の背景には、副作用の問題はもちろん、抗うつ薬は効かない、依存性があるなどという薬に対する誤解もあります。だから副作用コントロールは非常に大事です。その部分に漢方薬は一定の治療効果を得られていると思います。精神科医も漢方の『証』に基づく隋証処方ができれば望ましいですね」(田先生)