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漢方専門医に聞きました!よく見聞きする「虚」「実」ってなに?

公開日:2015.08.26
カテゴリー:漢方ニュース 監修:芝大門いまづクリニック院長 今津嘉宏先生

 漢方医療の場でよく見聞きする用語に「虚(きょ)」「実(じつ)」があります。漢字の字面から、なんとなく「虚」は病気の状態で、「実」は健康の状態だと思っている方も多いと思います。ところがこの「虚実」は、漢方薬を処方する上で大変重要な要素になります。漢方専門医の芝大門いまづクリニック院長の今津嘉宏先生に「虚」「実」を含め、漢方医学における体や病気の状態の見方について聞きました。

体や病気の状態を「虚」「実」で分類する

 漢方医学では、患者さんの状態を「虚」と「実」に分類して治療方針を決定します。「虚」は、病気が起こる前の状態よりも、精神的、肉体的に弱まっている状態、「実」は、体力や病気の勢いが盛んな状態で、病気が起こる前の状態と同じ、あるいは元気になっている状態を言います。

 「虚」に近いと判断された場合は、精神的・肉体的に何かが足りない状態だと考え、それを補うような漢方薬が処方されます。一方、「実」に近いと判断された場合には、過剰になっているものを抑えるような漢方薬が処方されます。同じ病気、同じ症状であったとしても、それぞれの体質や体力などに合わせてオーダーメイドで漢方薬が処方されます。西洋医学のように「頭痛には鎮痛剤」「風邪には風邪薬」という決まった形は存在しません。

 「虚」「実」は、体型や栄養状態、皮膚、胃腸の状態、声などさまざまな体の状態から診断します。例えば血圧が高いか、低いかどうか、筋肉質か痩せ型か、便秘気味か下痢気味かなどです。虚実は季節や環境などにも左右されるので、同じ人であってもその時々で変わってきます。そのため、漢方医は定期的に患者さんの体の状態をチェックしながら、その時の状態に合わせて薬の組み合わせを変えたりします。

 手術後はもちろん、たとえどんな軽い処置であったとしても、体には負担がかかったと考え、術後の状態は虚実でいう「虚」として考えます。食事が思うように取れなくなって栄養状態が悪くなったり、気力が落ちてしまったりと、崩れたバランスを補うための漢方薬が用いられます。

「虚」…「疾患に罹患する前の状態」よりも、精神的、肉体的に弱まっている状態
「実」…「疾患に罹患する前の状態」と同じあるいは、元気になっている状態
体型 痩せ型 or 水太り 筋肉質
活動性 消極的 活発
栄養状態 不良 良好
皮膚 乾燥肌 つや
筋肉 発達不良 発達良好
消化吸収 小食 大食
体温調節 夏ばて、冬の疲労 順応
弱い 力強い
睡眠時 寝汗が多い 寝汗少ない

病気の進行状態を分類する「六病位」

 また、「虚」「実」とは別に漢方医学には「六病位(りくびょうい)」というもので、病気の進行を分類しています。

 病気は通常、太陽病からはじまり、数日で少陽病、さらに数日で陽明病へと移行していき、陰が極まった状態である厥陰病まで転じてしまうと、その多くは死に至ります。

 逆に病気が快方に向かえば、太陽病のほうへ向かい、治癒につながります。

 また、この六病位は「陰」「陽」や「表」「裏」などでも分類され、体力が病毒を上回っている「陽」と病毒が体力を上回っている「陰」、関節や筋肉など、表面に近い部分に症状が現れる「表」と内臓などで症状が現れる「裏」、そして、その両方の「表裏」などでも分類されます。六病位の概念は、急性疾患の病態を診るために作られたものですが、最近では慢性疾患にも広く適用されるようになっています。

【六病位】
進行度 病態 陰陽証 表裏 症状
太陽病期 頭痛、悪寒、発熱、こわばり、関節・筋肉の痛み ほか
少陽病期 表裏 肋骨弓下の抵抗・圧痛、悪寒・発熱が交互に発生、口内異常感、吐き気・嘔吐、めまい、食欲不振、白い舌苔 ほか
陽明病期 持続熱、実性腹満、便秘、せん語、妄行、白または黄色の舌苔、全身の発汗 ほか
太陰病期 虚性腹満、下痢、腹痛、湿潤した白い舌苔 ほか
少陰病期 微脈、水様下痢、四肢厥逆、舌の色が青い、悪寒、心臓衰弱、気力衰微し時に意識朦朧 ほか
厥陰病期 完全未消化水様弁、極度の四肢厥逆、チアノーゼ、胸のうずき、熱感、極度の心臓衰弱 ほか

(監修:芝大門いまづクリニック院長 今津嘉宏先生)

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