漢方専門医に聞きました!よく見聞きする「虚」「実」ってなに?
漢方医療の場でよく見聞きする用語に「虚(きょ)」「実(じつ)」があります。漢字の字面から、なんとなく「虚」は病気の状態で、「実」は健康の状態だと思っている方も多いと思います。ところがこの「虚実」は、漢方薬を処方する上で大変重要な要素になります。漢方専門医の芝大門いまづクリニック院長の今津嘉宏先生に「虚」「実」を含め、漢方医学における体や病気の状態の見方について聞きました。
体や病気の状態を「虚」「実」で分類する
漢方医学では、患者さんの状態を「虚」と「実」に分類して治療方針を決定します。「虚」は、病気が起こる前の状態よりも、精神的、肉体的に弱まっている状態、「実」は、体力や病気の勢いが盛んな状態で、病気が起こる前の状態と同じ、あるいは元気になっている状態を言います。
「虚」に近いと判断された場合は、精神的・肉体的に何かが足りない状態だと考え、それを補うような漢方薬が処方されます。一方、「実」に近いと判断された場合には、過剰になっているものを抑えるような漢方薬が処方されます。同じ病気、同じ症状であったとしても、それぞれの体質や体力などに合わせてオーダーメイドで漢方薬が処方されます。西洋医学のように「頭痛には鎮痛剤」「風邪には風邪薬」という決まった形は存在しません。
「虚」「実」は、体型や栄養状態、皮膚、胃腸の状態、声などさまざまな体の状態から診断します。例えば血圧が高いか、低いかどうか、筋肉質か痩せ型か、便秘気味か下痢気味かなどです。虚実は季節や環境などにも左右されるので、同じ人であってもその時々で変わってきます。そのため、漢方医は定期的に患者さんの体の状態をチェックしながら、その時の状態に合わせて薬の組み合わせを変えたりします。
手術後はもちろん、たとえどんな軽い処置であったとしても、体には負担がかかったと考え、術後の状態は虚実でいう「虚」として考えます。食事が思うように取れなくなって栄養状態が悪くなったり、気力が落ちてしまったりと、崩れたバランスを補うための漢方薬が用いられます。
「実」…「疾患に罹患する前の状態」と同じあるいは、元気になっている状態
虚 | 実 | |
---|---|---|
体型 | 痩せ型 or 水太り | 筋肉質 |
活動性 | 消極的 | 活発 |
栄養状態 | 不良 | 良好 |
皮膚 | 乾燥肌 | つや |
筋肉 | 発達不良 | 発達良好 |
消化吸収 | 小食 | 大食 |
体温調節 | 夏ばて、冬の疲労 | 順応 |
声 | 弱い | 力強い |
睡眠時 | 寝汗が多い | 寝汗少ない |
病気の進行状態を分類する「六病位」
また、「虚」「実」とは別に漢方医学には「六病位(りくびょうい)」というもので、病気の進行を分類しています。
病気は通常、太陽病からはじまり、数日で少陽病、さらに数日で陽明病へと移行していき、陰が極まった状態である厥陰病まで転じてしまうと、その多くは死に至ります。
逆に病気が快方に向かえば、太陽病のほうへ向かい、治癒につながります。
また、この六病位は「陰」「陽」や「表」「裏」などでも分類され、体力が病毒を上回っている「陽」と病毒が体力を上回っている「陰」、関節や筋肉など、表面に近い部分に症状が現れる「表」と内臓などで症状が現れる「裏」、そして、その両方の「表裏」などでも分類されます。六病位の概念は、急性疾患の病態を診るために作られたものですが、最近では慢性疾患にも広く適用されるようになっています。
進行度 | 病態 | 陰陽証 | 表裏 | 症状 |
---|---|---|---|---|
小 | 太陽病期 | 陽 | 表 | 頭痛、悪寒、発熱、こわばり、関節・筋肉の痛み ほか |
↓ | 少陽病期 | 陽 | 表裏 | 肋骨弓下の抵抗・圧痛、悪寒・発熱が交互に発生、口内異常感、吐き気・嘔吐、めまい、食欲不振、白い舌苔 ほか |
↓ | 陽明病期 | 陽 | 裏 | 持続熱、実性腹満、便秘、せん語、妄行、白または黄色の舌苔、全身の発汗 ほか |
↓ | 太陰病期 | 陰 | 裏 | 虚性腹満、下痢、腹痛、湿潤した白い舌苔 ほか |
↓ | 少陰病期 | 陰 | 裏 | 微脈、水様下痢、四肢厥逆、舌の色が青い、悪寒、心臓衰弱、気力衰微し時に意識朦朧 ほか |
大 | 厥陰病期 | 陰 | 裏 | 完全未消化水様弁、極度の四肢厥逆、チアノーゼ、胸のうずき、熱感、極度の心臓衰弱 ほか |
(監修:芝大門いまづクリニック院長 今津嘉宏先生)