漢方のミカタ~漢方専門医が教える症状別 漢方コラム 第3回「長引く咳」
“漢方の味方”漢方専門医の芝大門いまづクリニックの今津先生に、症状別に漢方医学の“見方”や処方される漢方薬などを解説いただきます。
3回目となる今回は風邪を引いた後や喘息などにみられ、じわじわと体力を奪っていく「長引く咳」です。
どんな症状?どんな病気?
咳は、有害物質や細菌などを肺から出すための生理的な反応です。急な咳はウイルス性の気道感染で多くみられます。いつも痰の出る咳をしている場合、細菌による肺炎や気管支炎のほかに鼻汁が下にたれてくる場合(後鼻漏症候群)などもあり、口を大きく開けた時、口の奥に見える中咽頭にねばねばした膿んだ液があるかに注意が必要です。たばこによる慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張症も考えられます。痰のない咳をいつもしている場合は、間質性肺炎・気管支喘息などに注意すべきです。胃食道逆流による咳・痰や薬の副作用による咳(高血圧の薬であるACE阻害薬など)も時々みられます。
【西洋医学のミカタ】
どんな咳なのかをさまざまな角度から調べ、症状に応じたお薬が処方されます
診断には、咳や痰の頻度や程度をよく調べます。咳は、急性あるいは慢性に分けられ、痰を伴うか否かで湿性と乾性に分けられます。痰は、膿んでいるか(黄色くて汚いか)否かと量、血痰かどうかが重要です。こうした咳の情報と合わせて、病院では肺のX線検査、CT検査、血液検査、痰の検査)、肺機能検査といった検査を必要に応じて行い、咳の原因を探っていきます。原因が分かったら、感染症なら抗菌薬の服用、喘息にはステロイド薬の吸入というように、原因に応じた治療を進めていきます。
【漢方医学のミカタ】
「気」「血」「水」のどのバランスが崩れているかを調べ、それにあった漢方薬が処方されます
漢方医学では長引く咳は「気」「血」「水」のどのバランスが崩れているかを重視します。
例えば、風邪の後の長引く咳の場合は「水」のバランスが崩れている状態ですので、体の中の水の状態をよくする漢方薬として、麦門冬湯(ばくもんどうとう)、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)などが処方されます。また、気管支喘息やCOPDなどの場合は気道の状態をよくすることを念頭に、前者では柴朴湯(さいぼくとう)や小青竜湯(しょうせいりゅうとう)が、後者では清肺湯(せいはいとう)、滋陰降火湯(じいんこうかとう)が処方されます。また、咳とともに体力が奪われている患者さんには、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などを処方する場合もあります。
この症状にはこの漢方薬
風邪の後の長引く咳
- 麦門冬湯(ばくもんどうとう)
- 麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
- 五虎湯(ごことう)
- 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
- 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
- 竹じょ温胆湯(ちくじょうんたんとう)
- 参蘇飲(じんそいん)など
気管支喘息
- 麦門冬湯(ばくもんどうとう)
- 柴朴湯(さいぼくとう)
- 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
- 麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
- 五虎湯(ごことう)
- 神秘湯(しんぴとう)
- 苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにとう)など
COPD
- 清肺湯(せいはいとう)
- 滋陰降火湯(じいんこうかとう)
- 滋陰至宝湯(じいんしほうとう)
咳による体力低下
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)など
健康コラム 「私、漢方のミカタです」
~Vol.3 咳対策には漢方薬と西洋薬の使い分けを~
咳には大きく分け2つの種類があります。1つは中枢系の咳。これは、自分で我慢してどうにかできるものではないので、西洋薬で中枢をブロックして咳を止める必要があります。もう1つは末梢性の咳。こちらは、喉に異物が入ったり、引っかかりがあったりすることで起こるもので、漢方薬が得意としているものです。咳の原因が何なのかを正しく知り、それぞれの特性を生かすことが重要です。
咳をした後は、その対処にも注意が必要です。例えば、マスクせずに咳をしてしまい、思わず手でふさいでしまった!という経験はありますよね。喉に炎症が起こっているだけであれば、ふさいだ手を拭くだけで問題ありませんが、インフルエンザなどウイルス感染が原因で出ている咳は、他人にうつしてしまう可能性があるので、よく手を洗うなど対処する必要があります。
咳の原因となるウイルスなどを「うつさないため」に手洗いうがいは重要ですが、「うつされないため」にも重要。不特定多数が一緒にいる環境、たとえば電車での移動や会社、学校などで過ごした後には、しっかりと手洗いうがいをしましょう。そもそも咳をしなくて済む方が良いですからね。
芝大門 いまづクリニック 院長
参考リンク:芝大門 いまづクリニック