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<漢方にまつわる気になる本を紹介> 東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム[著]山本高穂・大野智

公開日:2024.09.30
カテゴリー:漢方ニュース

東洋医学を取り巻く状況の大きな変化

鍼灸や漢方薬などの東洋医学については、従来「どのくらい効くのか」を検証する臨床試験は行われてきたものの、「なぜ効くのか?」「どのように効くのか」は十分に解明されないまま、「よくわからないけど効く」という状況で長く利用されてきた歴史的背景があります。

しかし近年、東洋医学の原典に書かれた理論とは異なるアプローチで東洋医学をとらえる、研究するという手法が注目を集め、そのメカニズムの解明が進んでいるのをご存じですか。

2024年5月に刊行された『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』では、東洋医学の位置づけや科学的解明が進む現状の説明とともに、最新医学によって解明された東洋医学のメカニズムと、その臨床効果に関する国内外の豊富なデータを紹介しています。さらに「人に効く」ことの検証方法についても具体的な例でわかりやすく説明しています。

なぜメカニズムの解明が求められるのか

「どのくらい効くのか」のエビデンスに加え、「なぜ効くのか」「どのように効くのか」の解明が求められる理由は何でしょうか。本書ではこの問いに対して明快な答えを提示しています。

その背景には、医薬品の開発プロセスにおける基礎研究の重要性があります。創薬では薬の候補となる化合物を作り、その可能性を調べる「基礎研究」が重要な役割を担っています。漢方薬には未知の成分が含まれている可能性があるため、西洋医学的な手法で東洋医学を分析・評価することで新たな発見につながる可能性があります。このため、漢方薬の基礎研究は重要な意味を持っているのです。

さらに、現代医療の主流である西洋医学との融合という側面もあります。西洋医学では要素還元論的な考え方に基づくメカニズムの解明が重視されています。時代の要請により、東洋医学についても同様のアプローチが求められるようになりました。つまり、東洋医学の知恵を西洋医学の枠組みで理解し、説明することが求められているのです。

「『どれくらい効くのか』を説明する臨床試験と『なぜ効くのか』『どのように効くのか』を説明する基礎研究はどちらが優れているというものではなく、医学の発展のために両輪で進めていく必要があると理解してほしい」と、島根大学医学部附属病院 臨床研究センター長・教授 大野智先生は本書の中で述べています。

腸内細菌の「上質なエサ」になる漢方薬

大建中湯(だいけんちゅうとう)は、便秘や下痢といった消化器症状、腸炎、さらに腸の手術後の回復や術後イレウス(腸閉塞)などの術後合併症に対して多く使用される漢方薬です。臨床試験では、術後イレウスの発症を抑える効果や便秘の改善などが報告されています。そのメカニズムが、理化学研究所生命医科学研究センターの佐藤尚子先生らの研究によって近年明らかになりました。

以前より、腸内細菌による代謝産物(排泄物のようなもの)が腸の免疫機能を高めたり炎症を抑制したりしていることは指摘されていました。佐藤先生の研究により、腸炎を起こしたマウスに大建中湯を投与することで代謝産物が増え、それによって腸の粘膜が増えてバリア機能が高まっていたことが明らかになったのです。この研究の背景には、近年の解析技術の進歩により、腸内細菌や免疫細胞のはたらきを細かく、安価に分析できるようになったことがある、と東洋医学をはじめ、自然科学や健康・医療分野の番組を多く手がけてきたNHK チーフ・ディレクター 山本高穂氏は本書で指摘しています。

東洋医学と西洋医学で異なるアプローチとその統合

「科学」という言葉が存在していない数千年前から、「草の葉や根を食べたら、症状が改善した」というような経験的アプローチを積み重ねることで発展してきたのが漢方薬です。また、東洋医学として、体全体のバランスを整えることを目的とする全身的アプローチが特徴としてあげられます。

一方で、西洋医学は科学的アプローチを基に発展しており、西洋薬は特定の症状や疾患に対して明確な作用機序を持つのが特徴です。

近年、西洋医学の診断手法や治療法と漢方医学の考え方を組み合わせて、より効果的な治療法を模索する取り組みが行われています。大野先生は、「今後、東洋医学的診断方法(望診・聞診・問診・切診)についても、本書で紹介したように西洋医学的な視点で検証していくことで、漢方薬の新たな活用方法や適応症の拡大に繋がる可能性があるかもしれない」と東洋医学の展望について本編集部にコメントをお寄せくださいました。

日本は、漢方治療や鍼灸に公的医療保険が適用になり、かつ西洋医学とも併用できるという、世界でも珍しい医療制度を持つ国です。
「それぞれの医学のメリットや強みを取り入れて、よりよい治療や健康の維持・向上につなげてほしい」と著者らは書いています。

山本氏は、「東洋医学の番組について、毎回多くの問い合わせをいただく。最近は気圧や天気の変化による心身の不調、いわゆる「気象病」への漢方薬やツボ押しのセルフケアについて大きな反響があった。視聴者の関心の高いメンタル不調への漢方薬や、頭痛を改善するツボ押しのセルフケアなどは本書でも紹介しているので、ぜひ手にとってほしい」と本編集部に語っています。

東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム
著者:山本高穂/大野 智
出版社:講談社
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000390699

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