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漢方薬での体質改善で本当に痩せる? 東洋医学と西洋医学のアプローチとは

公開日:2024.05.29
カテゴリー:漢方ニュース

漢方薬が得意とする「体質改善」ですが、近年では東洋医学・西洋医学問わず使われるケースが多く見受けられます。また、「体質」というのは広い意味を持つ言葉であるため、「体質改善法」の定義もさまざまなものが存在しているようです。今回は、漢方外来を通じて多くの患者さんの体質改善に寄与し続けている国際医療福祉大学 成田病院の並木隆雄先生に、東洋医学(漢方医学)の観点からの体質改善について、またそのためのポイントなど多方面からお話を伺いました。

体質改善と健康の正しいイメージ

「一般に体質とは、西洋医学的には遺伝的要素と環境的要素からなる現在の心身の状態といえます。東洋医学的にいえば、『先天の気と後天の気(※)からなる~』と言い換えられます」(並木先生)

改善という言葉から『善く改める』のは間違いありませんが、ここで誤ったイメージを持ってしまうと、誤った健康観につながるおそれがあります。

「“改善”とか“善くする”と聞くと、より上を目指し、プラスを積み上げるのが健康という感覚になるかもしれませんが、真の健康とはそうしたものではありません。心身に余分なものがなく、また、足りないものもない、いわゆる中庸こそが健康な状態、理想的な体質であり、過不足のあるバランスの崩れた状態を中庸に戻す(=体質改善)ための治療こそが東洋医学、漢方の本質です」(並木先生)

つまり、東洋医学における正しい健康のイメージは『プラスマイナスゼロの状態』といえるでしょう。

(※)私たちの心と体を動かしているエネルギー(気)には、両親から受け継いだ生まれながらに授かったものと、生まれたのちに日々の食事や呼吸などから得られるものがあり、前者を先天の気、後者を後天の気という。

実年齢以上に老いが進みやすい現代社会 正しく歳を重ねることが重要

体質改善は何らかの病気や不調がある人のみに必要なのでしょうか?

「日々齢を重ねるにつれ、私たちの身体の機能は衰えていきます。そうした老化現象による心身バランスの乱れを考慮すれば、体質改善は、持病(慢性疾患など)や未病(病気までいかないが健康でもない状態)がある方だけでなく、ほぼすべての人に必要だといえるでしょう。
そこで漢方治療に対し、アンチエイジング的な効果を期待される方もいるかもしれません。しかし、漢方は抗うためではなく、言うならば、『適正に年を重ねるための医学』だといえます。過剰なストレスにさらされ、暴飲暴食や夜更かしに走りがちな現代社会に生きている私たちは、実際の年齢以上に老化が進行しやすいといえます。つまり、若返りを目指す前に、まずは年齢相応の体質を取り戻す(改善する)ことが重要だといえます」(並木先生)

元来、東洋医学では男性が8歳ごと、女性は7歳ごとに、年齢に応じた大まかなライフステージの変遷があると定義されています。近年ではさまざまな技術も上がり、老いに抗う方法を考えてしまいがちですが、正しく老いることの重要性にもっと着目すべきかもしれません。

「効果が弱め」だからこそ体質改善に向いている東洋医学

『漢方薬は効き目が弱い』というのはいまだに聞かれる声ですが、実はそのことこそが体質改善にうってつけだと並木先生は指摘します。

「風邪など急性の病気に対する漢方薬は即効性が高く、短時間で効果を表すものもあり、一概に効き目が弱くはありません。ただ、長期に症状が悪化した慢性病などは、基本、治る(体質改善)までに相応の時間がかかる傾向にあります」(並木先生)

ここで並木先生は西洋薬と漢方薬の比較を示します。

「穏やかな効き目で体質を改善しながら効果を出す漢方薬に比べると、西洋薬は、原因療法以外はあくまでも対症療法という位置付けですが、症状を抑える作用は強い傾向にあります。もちろん、どちらが良い悪いではなく、病気の種類や状態などに応じた使い分けや併用により、相互に補完し合うものといえます。例えば、早急に検査値を改善する(下げる)必要がある場合などは西洋薬が有効なケースでしょう」(並木先生)

西洋薬は、生活習慣にかかわらず効果が出やすいものが多く、厳しい食事制限等をせずに検査値を下げることも可能なケースがあります。

「だからといって生活習慣を変えなくてもいいわけでないのは当然ですが、良くも悪くも飲むだけで効果が出る西洋薬では、わざわざ生活習慣を改善しようという意識、モチベーションは比較的上がりづらいでしょう。一方で、マイルドな作用の漢方薬は、単体でなく、生活習慣の改善とセットになることで真の効果を発揮するといえます」(並木先生)

漢方治療はその特性上、生活習慣の改善の重要性をより実感しやすく、薬だけでは成し得ない本質的で根本的な体質改善につなげやすいといえます。

「昨今はテレビなどで、漢方で痩せる、飲むだけで体質改善といった少々行き過ぎた商品宣伝もされているようで、実際、そうした広告を見た方が『痩せる漢方が欲しい』と来院されることもあります。ただ、そういうケースでも、頭から否定せず、他の患者さんと同じく、痩せるには漢方だけでなく生活習慣も重要といったお話をしています」

後編では引き続き並木先生に体質改善について伺います。

(取材・文 岩井浩)

並木隆雄(なみき たかお)先生
千葉大学大学院医学研究院 特任教授
国際医療福祉大学成田病院予防医学センター 病院教授(漢方外来担当) 
千葉大学医学部卒業後、千葉大学医学部附属病院、帝京大学附属市原病院心臓血管センター、千葉県立東金病院内科部長を経て、千葉大学大学院医学研究院先端和漢診療学准教授、千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長、同診療教授を経て現職。日本東洋医学会認定漢方専門医・指導医・理事、日本循環器学会認定循環器専門医、日本内科学会認定総合内科専門医、日本不整脈心電学会認定不整脈専門医、医学博士。

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