「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会2022」ポストコロナ時代における漢方薬の役割とは
2023年2月20日(月)、KKRホテル東京において「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会2022」(以下、ビジョン研)が行われました。
超高齢社会の日本で漢方が国民の健康と医療に貢献し続けるためには、漢方医学の研究や医学教育の推進、漢方製剤等の有効性や安全性、品質に関わるエビデンスの集積など解決しなくてはならない課題があります。ビジョン研はこれらの課題解決に向けた検討を進めることを目的に東洋医学会と日本漢方生薬製剤の共催で2016年8月に立ち上げられたもので、これまで、7回の研究会と1回のフォーラムが開催されています。
5類への変更で起こるメリット・デメリットとは
今回のテーマは「『コロナ禍における漢方薬の役割』~ポストコロナを見据えて~」。
2019年12月に中国の武漢市で一例目の感染者が報告された新型コロナウイルス感染症は、またたく間に世界的な流行となり、私達の生活を大きく変えました。
新型コロナウイルス感染症の治療においては、新しい治療薬等が開発される中で、漢方薬にも注目が集まりました。
基調講演では、大阪大学大学院医学系研究科感染制御医学講座教授の忽那賢志(くつな さとし)先生より「新型コロナウイルス感染症の現状について」と題した報告がありました。
今も感染が続く新型コロナウイルス感染症について、変異株やゲノム解析結果の推移、現在の感染の状況についてのお話がありました。また、5月から5類の扱いになった場合に、行政や保健所の負担が軽減される、公費負担でなくなるため医療費が削減できるなどのメリットがある反面、受診控えが起こることで適切な治療が受けられずに重症化する人が増える懸念があるなどのデメリットについても解説がありました。さらに、オミクロン株以降の再感染のリスクの高さから、長期的集団免疫獲得は期待できないと忽那先生は指摘します。医療者は引き続きハイリスク患者への対応を重視していく必要があると、座長の鳥羽研二先生(東京都健康長寿医療センター 理事長/国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐)が締めくくられました。
漢方薬の新しいエビデンス、新規製剤への研究成果
次の講演では「提言進捗」として、東北大学病院 総合地域医療教育支援部・漢方内科 特命教授の髙山真先生が「『COVID-19 漢方治療レビュー』急性期・遷延症状におけるエビデンス」、北里大学東洋医学総合研究所客員研究員の小田口浩先生が「エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)の開発状況について」、国立医薬品食品衛生研究所生薬部長の伊藤美千穂先生が「日本の天然物医薬品の品質と規制科学研究について」の講演を行いました。
髙山先生の講演では、COVID-19に関する東洋医学会主導の臨床研究について、漢方治療による症状緩和、重症化抑制に関する多施設共同後ろ向き研究、後遺症の治療、柴葛解肌湯(さいかつげきとう)の多施設共同ランダム化比較試験における研究成果等が紹介されました。本研究では、漢方薬が発熱の緩和や重症化の抑制に効果がある可能性が明らかになったことが発表されました。COVID-19における漢方治療は、急性期から罹患後の症状(後遺症)まで幅広く対応できる可能性があることが髙山先生の講演で示されました。
小田口先生の講演では、葛根湯や麻黄湯に含まれているエフェドリンアルカロイドという血圧上昇等の副作用を引き起こす成分を除去した新規生薬エキス製剤「EFE製剤」の開発状況について解説がありました。EFE製剤は、健康成人を対象にした安全性試験において、有害事象全般の発生頻度を低く抑えることが明らかになったということです。現在は医師主導の治験が行われており、今後は製剤化に向けて期待される一方、天然物エキスを使用した治験薬における品質の問題についてはガイドラインの策定を行うこと、また漢方・生薬製剤開発には資金面の課題があり、AMED(国立研究開発法人日本医療機能評価機構)や企業の支援が必要であること、また麻黄の安定供給体制の確立が必須であることなど、課題と対策等も示されました。
漢方薬が高齢者の自立を促す一助に
伊藤先生は講演にて、日本における天然物医薬品の品質管理についてお話しされました。生薬や漢方等の天然の由来物を日本では医薬品として用いていますが、化学薬品等と同じ分類の医薬品として取り扱う国は多くありません。その理由について、日本が天然医薬品に関する品質管理において、高度な技術力を持ち、高い均質性が保たれているからだと指摘しました。
特別講演では、東京大学大学院医学系研究科老年病学教授の秋下雅弘先生を座長に、「ポストコロナ時代における漢方薬の役割」と題し、順天堂大学大学院医学系研究科泌尿器外科学教授の堀江重郎先生からお話がありました。
堀江先生からは、漢方薬がフレイルやサルコペニア等の老年症候群や、長寿遺伝子でサーチュイン1、さらには寿命に関連する染色体部位であるテロメアや認知症患者の認知機能に及ぼすよい影響について、エビデンスに基づいた解説がありました。六君子湯をはじめ、各症状に適した漢方薬を用いることでさまざまな高齢者の症状に対応でき、ポストコロナ時代における高齢者の自立を保つことができると結論付けました。