第24回市民公開漢方セミナー「ウィズコロナ時代のウィズ漢方〜Long COVID漢方外来からのメッセージ〜」配信動画レポート
日本漢方生薬製剤協会(日漢協)が主催する第24回市民公開漢方セミナーが2月19日(土)〜3月20日(日)までYouTubeで動画配信される形で開催されました。今後、日漢協HPにて4月1日より公開されます。
今回のテーマは「ウィズコロナ時代のウィズ漢方〜Long COVID漢方外来からのメッセージ〜」です。
講演を行ったのは、順天堂大学医学部総合診療科学講座 福井由希子先生、同大医学部漢方先端臨床医学講座 原田佳尚先生、同大医学部総合診療科学講座・漢方先端臨床医学講座 齋田瑞恵先生の3人です。
順天堂大学医学部付属順天堂医院では、昨年10月より、新型コロナウイルス感染症の後遺症に長期にわたって苦しむ患者さんのために「Long COVID漢方外来」を開設しました。3人の先生方はこの外来の診察をご担当されています。
新型コロナウイルス感染症の流行からまもなく3年が経とうとしていますが、感染症の症状が改善した後も、倦怠感や頭痛、味覚・嗅覚障害や脱毛などの症状に苦しんでいる方が多くいらっしゃいます。
新型コロナ後遺症の症状は多岐にわたる
福井由希子先生
新型コロナウイルス感染症後遺症(Long COVID)は、上記のような症状が、感染後から2か月以上続く状態のことをいいます。同院の外来では感染後2~3か月の患者の初診が多く、「記憶力の低下」や「脱毛」「気分の落ち込み」「嗅覚障害」「倦怠感」など、後遺症の中でも比較的長引きやすいと考えられる症状を訴える患者さんが日々受診されているといいます。
福井先生は「複数の症状に悩んでいる人が多く、中には倦怠感や嗅覚障害、しびれ、筋肉痛、頭痛、不眠といくつもの症状が併発して起こっており、1年経過してもその症状が続いている場合もあります」と話します。
新型コロナウイルス感染症そのものに対する治療法も確立されていないため、後遺症についても、症状に対しての治療(対症療法)が中心となっていますが「漢方薬は治療の選択肢のひとつになる」として、いくつかの実例を挙げて解説されました。実際に、同外来で使用している漢方薬は、20種以上あるそうです。漢方処方にあたってのポイントとして福井先生は「その他の疾患を除外する」こと、「処方する漢方薬は、患者さんによって異なる」ことを挙げ、症状だけで画一的に選択するのではなく、患者さんの体質に合った漢方薬を正しく選択することの大切さだと述べ、不安な場合はぜひ後遺症外来を受診してほしいと締められました。
感染症と漢方の歴史は長く、科学的証明も
原田佳尚先生
原田先生からはウイルス感染症と漢方治療の歴史について講演がありました。
西暦220年頃、張仲景によって編纂された『傷寒論』は、当時流行した「傷寒」いわゆる感染症の診断方法から漢方薬による治療法までが書かれたものです。現在使われている漢方薬の多くが載っています。
また、1918〜1920年に世界的に猛威を振るったスペインかぜについても、漢方薬による治療で死者が出なかったという記録がある1)といいます。
新型コロナウイルス感染症に対しても、感染症に対する治療法として長く使われてきた漢方薬をうまく西洋薬と組み合わせて使うことで、西洋薬では得られなかった効果が期待できると述べ、患者さんにとっても医療者にとっても大きな希望になるのではないかと締められました。
齋田瑞恵先生
さらに、齋田先生からは、漢方薬の臨床研究と後遺症についての解説をいただきました。現在、さまざまな研究から科学的証明がされ、漢方薬の有効性が示されてきています。インフルエンザ2)や感冒(かぜ)3, 4)に対しての有効性も証明され、現在は新型コロナウイルス感染症に対しての臨床研究も行われています。
また、Long COVID漢方外来での診察において、新型コロナウイルス感染症の発症から6か月経過しても全患者の61%で何らかの症状が持続していることや、軽症で診断された患者でも後遺症の症状がみられることを紹介し、医療者がコロナ後遺症を認識し患者に寄り添った治療を実践することの重要性を述べられました。
こうしたことからも「治療の選択肢として、漢方薬を知っていることは大切」だとし「後遺症のような多岐にわたる症状を治療するには漢方の出番。ぜひ専門家のもとで、漢方薬を試してほしい」と話されました。
セミナー動画はChapter1〜7に分かれており、気になる内容だけの閲覧も可能です。
登録不要ですので、ぜひアクセスしてみてください。
日本漢方生薬製剤協会webサイト
https://www.nikkankyo.org
- 参考
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- 矢数格:漢方一貫堂医学, 医道の日本社, 神奈川, 1984
- Yoshino T, et al. BMC Complement Altern Med 2019; 19(1): 68
- 本間行彦ほか. 日東洋医誌 1996; 47(2): 245-252
- 本間行彦ほか. 日東洋医誌 1995; 46(2): 285-291