<治験情報>軽症COVID-19治療に向けた「エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)」医師主導治験Phase2を開始−北里大ほか
将来的に新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者などで予防的な投与も
北里大学、国立医薬品食品衛生研究所、株式会社ツムラの研究グループは2020年7月に採択された国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業において、軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対する新規生薬エキス製剤・エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)の有効性及び安全性を探索的に検討する医師主導治験Phase2を開始することを2021年12月に発表しました。
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(EFE)は、生薬の麻黄(まおう)から副作用(興奮、動悸、血圧上昇、排尿困難、不眠など)の原因となるエフェドリンアルカロイドを除去した新規の生薬エキス製剤です。
日本では従来、風邪やインフルエンザなどの感染症の初期の治療に、麻黄湯(まおうとう)や葛根湯(かっこんとう)、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)などの麻黄が入った漢方薬が用いられてきました。実際に、麻黄には、抗インフルエンザ作用があることがわかっています1)。しかし、麻黄には前述したような副作用があるため、循環器系障害、高血圧症、腎障害がある人や体力が衰えている人、高齢者への投与に対しては、注意を要する薬でもありました。
EFEの作用機序について、同研究グループの研究開発代表者及び治験調整医師である北里大学東洋医学総合研究所所長 小田口浩先生はこう話します。
「EFEは、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に結合し、外から入ってきたウイルスが宿主細胞表面へ結合するのを阻止します。例えば、咽頭や気管の細胞に新型コロナウイルスが感染した場合ですが、まずウイルスがこれらの細胞表面に結合し、その後、細胞膜と融合して、ウイルスが細胞内へ侵入します。細胞内ではウイルスの複製が開始されて、その後、たくさんのウイルスが細胞外に放出されます。放出されたウイルスは近くの健康な細胞に感染し、複製を繰り返して増えます。EFEは、新型コロナウイルスが、次の健康な細胞表面へ結合することを阻止します。これによって、ウイルスの増殖が阻害されると考えられます(図)。
図 EFEによる新型コロナウイルス増殖抑制のしくみ
北里大学東洋医学総合研究所所長 小田口浩先生 ご提供
EFEの作用機構を考えますと、将来的には、EFEは濃厚接触者や医療従事者、ワクチン接種が困難な方などに、予防的な投与が可能になるかもしれないと考えています」
小田口先生の主導のもとに実施される本治験は、EFEのCOVID-19患者に対する安全性を確認するために、入院管理下で実施するPart1と、有効性及び安全性を探索的に検討するために、主に自宅療養者を対象として実施するPart2の2部構成。2021年6月から国立国際医療研究センター病院、藤田医科大学病院、北里大学病院でPart1が実施され、安全性評価委員会で軽症COVID-19患者に対する認容性が確認されたことから、2021年12月よりPart2を開始。Part2は主に自宅療養者が対象で、プラセボ対照二重盲検、ランダム化、多施設共同Phase2比較試験として実施します。治験実施機関は、田園調布ファミリークリニック、東海大学医学部付属八王子病院などです。
日本での先駆け「バーチャル治験」の実施
またこのPart2治験では、バーチャル治験と呼ばれる、新しい手法を取り入れた治験が行われます。これは、ウェアラブルデバイスやオンライン診療などのオンライン技術を利用して、医療機関への来院に依存せずに実施するものです。
「バーチャル治験の実施は、米国では進んでいますが、日本はこれからではないかと思います。バーチャル治験は自宅から治験に参加できる仕組みなので、治験実施病院から離れていても参加できる、日常生活を送りながら参加できるなど、被験者にとってメリットが大きいうえに、IoT(Internet of Things)を使うことで被験者の生の状態をデータとして把握できる、コストダウンできる、多くの被験者を短期間に集めやすいなど、治験実施施設にとっても有益なシステムです。特にCOVID-19については医療機関のキャパシティ不足などの理由で自宅療養を余儀なくされる患者が多数存在していることを考えると、治療薬開発にあたってバーチャル治験は有用な手段です。しかし、バーチャル治験には下記の通りいくつかの課題もあり、今後これらを解決するインフラが整備されることを期待しています」(小田口先生)
小田口先生によると、現在、ウェアラブルデバイスは医療機器として承認が取れていないために、自宅療養中の被験者の安全確認のためのみに用いますが、医療機器として承認されれば、取得したデータを治験の評価に使うことも可能になると思われます。また、遠隔での採血や採尿を採取する方法の開発、電子版署名などを用いて同意書を取ることができればさらにバーチャル治験が進むとも期待を寄せていました。
この治験は、必要に応じて対面診療も組み合わせたハイブリッド型バーチャル治験となりますが、被験者の安全性の確保や感染リスクの低減という面でメリットが大きく、国内におけるバーチャル治験の先駆けとして注目されます。
- 参考
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- N Mantani, et al. Antiviral Res 1999; 44(3): 193-200