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江戸時代から伝わる先人の知恵を生かし健康にー市民公開漢方セミナー 並木隆雄先生講演レポート

公開日:2021.03.30
カテゴリー:漢方ニュース
 日本漢方生薬製剤協会が主催する市民公開漢方セミナー。第23回目となる今回は、新型コロナウイルス感染症拡大の現況を踏まえ、2020年2月1〜28日までの期間限定の動画配信という新しい試みで開催されました。
 今回は「新しい生活様式にも役立つ先人の知恵−養生訓を参考にして」をテーマに、千葉大学医学部附属病院和漢診療科診療教授の並木隆雄先生がご講演されました。講演の内容をご紹介します。

 この1年、新型コロナウイルスが日本中に蔓延し、不安な日々を過ごされている人も多くいらっしゃると思います。その中で最も不安なのは、自分や家族がいつか新型コロナウイルスに感染してしまうのではないかということだと思います。
 感染症においては、当然、ウイルス自体の感染力も問題になりますが、人間側が持つ抵抗力、いわゆる免疫力が、感染するかどうかを決めることもあります。

漢方医学での「健康」とは

 WHO(世界保健機関)では健康を、「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と定義しています。
 一方で、漢方医学でいう「健康」とは、バランスがとれていることをいいます。
 これは、例えば「冷えすぎず、熱しすぎず、ちょうどいい加減の寒熱のバランス」のようなことで、シーソーがどちらにも傾かず、平行になっている状態のことをいいます。この過不足なく、偏りのない状態を漢方医学では「中庸」といいます。体を中庸に保つことが健康で、外敵からも身を守れるといわれています。そのために、漢方医学では、昔から養生が大切にされてきました。養生とは、バランスの崩れや不調和を小さいうちに修正して健康を保つ方法のことです。

 では、バランスの崩れをどのように見つければいいのでしょうか。
 漢方医学の考え方のひとつに陰陽があります。
 身の回りのものはすべて陰と陽に分けられるというもので、月(陰)と太陽(陽)、女性(陰)と男性(陽)、夜(陰)と昼(陽)などとあらゆる事象を二つの相対するタイプに分けて考えます。これは、人の体質に対しても当てはめることができます。

 例えば、若くて活動的、暑がりで体格もいい方は陽証、痩せ型で疲れやすく、冷え症などがある場合は陰証と判断し、同じ風邪をひいた場合でも、その方それぞれに合った漢方薬が処方されます。つまり、漢方医学は体質を考えた医学なのです。

図 陰陽の医学的概念

養生を考える

 次に養生について考えていきます。
 養生は、広辞苑(第6版)には、「生命を養うこと。健康の増進を図ること。衛生を守ること。摂生(そのほか、物にも用いる言葉もある)」と記されています。対象が人の場合は、健康に注意して元気でいられるよう努めること、病気や怪我の回復に努めることという意味になります。
 江戸時代は、健康という言葉がなく、養生という言葉で表現され、養生本ブームもありました。そのブームの中で、ロングセラーとなったのが、1712年に刊行された『養生訓』です。『養生訓』は、貝原益軒が83歳のときに、実体験に基づいた健康法を記したものとして出版され、大ブームとなりました。

 そこに書かれていたのは、日頃からバランスのとれたおいしい食事を取ることで病気を予防し、治療しようとする「薬食同源」の考え方です。

 『養生訓』では、熱すぎる・冷たすぎる飲み物は避け、飲食は控えめに、夜食は避けて夕食は軽くという現代にも通じる考え方が記されています。
 また、腹八分目にして、怒った感情のまま食事をしないとも書かれています。これは、食事をした後に消化をする際、副交感神経が働くのですが、怒ったままの状態だと交感神経が優位に働くため、消化がうまく行われないということなのです。当時は、自律神経のことはよく解明されていなかったと思いますが、経験からこうしたことがわかっていたのですね。

 これ以外にもさまざまなことが書かれていますが、ポイントは、夏には夏の旬のもの、冬には冬の旬の食べ物を食べることです。夏が旬のものには、熱中症や夏バテを緩和させてくれるものが多く、また冬が旬の食べ物は、体を温めてくれる働きを持つものが多くあります。
 どれかひとつの食材ばかりを食べ続けるのではなく、食事も「バランスよく」、偏りがないようにすることが、健康につながる食事の考え方です。

冬を乗り切る温かくする生活習慣

 体を温めるために大切なことは、基礎代謝を上げることです。
 基礎代謝とは体温維持や心臓や呼吸など、人が生きていくために最低限必要なエネルギーのことで、特に筋肉量は体温維持に関係しています。筋肉量が減ると、体温維持のため脂肪がその分増加してしまいます。

 そのほか温かく過ごすための生活習慣を5つ、ご紹介します。

1.運動をする

散歩やジョギング、縄跳びなどが芯から温まります。
特に、食後の運動(食後30分〜1時間)は、糖が体脂肪に変わる前にエネルギー源として消費することでのダイエット効果や、糖を消費することで血糖値・中性脂肪を下げる効果があることが近年わかってきました。息切れするような強すぎる運動ではなく、散歩程度がおすすめです。

2.衣服は薄着を避けること

お腹・足首を冷やさないよう、薄着を避けレッグウォーマーなどを上手に使い防寒対策をすること。また、住環境も、窓の近くにベッドや布団を置かない、過度の湿気を避けるなどの注意をしましょう。

3.食事はなるべく温かいものを取ること

三大栄養素のうち、特に体を温める効果があるのはタンパク質です。タンパク質を多めに取るようにするとよいでしょう。しかし、刺身は体を冷やすことがあるので要注意です。冷たいものになりがちな酢の物、アイスクリームや、冷たいヨーグルト、大量の果物などは極力避けましょう。
また、意外にも、水の飲みすぎは胃腸によくないと養生訓に書かれています。常温でも多量に取ることはよくありません。排尿は約40度のお湯を体の外に出すことでもあるので、体の熱を奪ってしまうことにも繋がります。冷え症の方は水の飲みすぎにも注意し、喉が乾いたときに飲むことを心がけましょう。

4.入浴は、シャワーではなく湯船に浸かること

千葉大学医学部附属病院和漢診療科の八木明夫医師の研究で、全国の18市町村に居住する要介護認定を受けていない高齢者約1万4千人を対象に、入浴する頻度と新規要介護認定の関係を3年にわたって調べたところ、週に7回以上入浴する高齢者は、週に0〜2回の人に比べて、要介護認定のリスクが約3割減少していることがわかりました1)。シャワーではなく、湯船につかることが大切です。

5.ストレスの確認

ストレスがあると、交感神経が高ぶります。その結果、血管が収縮するために、冷え症がさらにひどくなってしまいます。ストレスを上手に発散しましょう。

 こうした江戸時代から伝わる先人の知恵は、新しい生活にも役立つものです。今回ご紹介したことを参考に、ぜひ日ごろから病に負けない体づくりを意識してみてください。

参考
  1. Yagi A, et al. J epidemiol 2019; 29(12): 451-456

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