【六君子湯】機能性ディスペプシアの消化管運動機能異常に対する効果/論文の意義
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機能性ディスペプシアの患者さんで、消化管運動機能の改善効果が証明された−六君子湯(りっくんしとう)
食後のもたれ感やみぞおちの痛みなどが長く続くにもかかわらず、内視鏡検査やX線検査などではっきりとした異常が見つからない病気を「機能性ディスペプシア」といいます。これまで、動物を使った研究などの結果から、六君子湯がこの機能性ディスペプシアに効くのではないかと期待されていましたが、今回、実際の患者さんでも本当に効果があることを、楠裕明先生(川崎医科大学総合臨床医学講師)らが明らかにしました。2010年米国消化器病週間(DDW)で注目されたこの研究成果は、その後、日本内科学会の英文誌『Internal Medicine』に掲載されました。
背景: 「機能性ディスペプシア」の消化器症状は、消化管運動機能異常が原因となるものも多いが、その治療薬といわれるものはまだない
胃もたれや胃痛を訴え「慢性胃炎」と診断されたものの、内視鏡やX線などで検査してもその原因がはっきりとわからないという場合があります。その一部は、最近では「機能性ディスペプシア」と呼ばれます。比較的新しい病名なので、あまり知られていませんが、なんと日本人の4人に1人がこの病気をもっているという研究結果もあります。
原因はわからなくても、食後に胃がもたれたり、少しの食事で満腹感を感じてそれ以上食べられなかったり、みぞおちが痛んだりという状態が長期間続くのは、患者さんにはとてもつらいことです。そのため、これらの症状をどうやってなくすかが、機能性ディスペプシアの治療で最も重要なのです。
今のところ、これらの症状は、食物が胃に入ってきたときに胃が十分に拡がらないとか、その結果、食物が胃から十二指腸に必要以上に早く送り出されてしまって、その刺激で胃の動きが止まってしまう、などといった消化管の運動機能の異常と関係するのではないかと考えられています。
『六君子湯』は、「人参(にんじん)」、「甘草(かんぞう)」、「生姜(しょうきょう)」、「蒼朮(そうじゅつ)」、「茯苓(ぶくりょう)」、「大棗(たいそう)」、「陳皮(ちんぴ)」、「半夏(はんげ)」の8つの生薬から構成され、胃腸の働きをよくする作用があることが知られています。実際、食欲不振や胃の不快感、胃もたれなどの治療に使われており、機能性ディスペプシアにも効果があるのではないかと期待されてきました。
これまで、動物やその細胞を使った実験では、『六君子湯』が消化管運動機能の異常を改善することがわかっていましたが、機能性ディスペプシアの患者さんでそのような効果があるかどうかは、あまり検討されていませんでした。
楠先生は過去の研究で、体表から超音波を当てて行う検査法(体外式超音波法)が胃や十二指腸の運動機能を調べる際に非常に役立つことを報告しています。そこで今回、その検査法を使い、機能性ディスペプシアの患者さんで本当に六君子湯が消化管の運動機能を改善するのかどうかを調べてみました。
比較的新しい病名ということもあり、機能性ディスペプシア治療薬と言われる薬剤はまだないため、実際の患者さんで『六君子湯』の作用を確認したこの研究成果は、広く注目されました。