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慢性便秘は漢方で治す

公開日:2014.07.29
カテゴリー:症状別得意分野

QOLや健康を感じる基本要素が損なわれる慢性便秘

 多くの女性が悩む慢性便秘。一般的に排便回数(週3回未満)や排便量が減少したり、残便感や腹部膨満感、排便時の強いいきみなどの症状を呈した状態のことを指します。現在、その有病率は全人口の約14%と言われており、女性で多く見られますが加齢と共に男性の割合も増加、高齢になるに従って男女比は逆転することがわかっています。ひとたび便秘になるとコントロールはできても完治することは難しく、特に女性の場合重症化(月2回以下の排便回数)してしまい手術が必要となる場合もあります。
 慢性便秘は死に至ることはないものの、QOLが低下してしまうと共に、人間が健康だと感じる三要素(快眠・快食・快便)をも損なうため、幸福を感じづらくなってしまう悩ましい疾患です。ただし便秘は排便量や排便回数など個人差が大きく、その診断基準も曖昧なため、客観的な指標で改善を目指すよりも、患者さんが訴える症状を改善することがまず優先されます。そうすることでQOLが改善、患者さんの満足度向上にもつながっています。
 現在、慢性便秘の治療は西洋医薬的な薬剤が少なく、慢性便秘の多数の患者さんが適切な治療を受けられていないことが問題となっています。特に市販薬を用いて改善しようとしたことで、依存・乱用傾向が出現、下痢の状態でないと満足感を得られなくなったり、何十錠もの薬を服用しなければ排便できないなど、より改善が難しい状況に陥ってしまう場合も出ています。
 慢性便秘治療の基本は、

  1. 便性状の正常化
  2. 排便回数の是正(刺激性下剤の適正使用)
  3. 排便困難症の改善
  4. 便秘周辺症状の改善

 の4点です。
 排便回数の是正には大腸刺激性下剤を使用しますが、あくまでも頓用とすることが重要です。安易な大調刺激性下剤を連用すると体制・習慣性・依存性が生じ、前述のような状況になり、快便が得られなくなってしまいます。また、用量の調整や腹部膨満感や腹痛など便秘関連症状への対応も難しいことから、患者さんの満足度は大変低いと言えます。

漢方薬は慢性便秘に対する有用性が認められ、患者さんの満足度向上に大きな期待が

 慢性便秘に対しては漢方治療が非常に有効です。その利点のひとつとして、便秘関連の漢方薬は種類が豊富であることと、便秘に有効な「大黄(だいおう)」という成分の含有量の違いで大腸刺激作用の強弱を選択できることから、患者さん一人一人にあったお薬を服用することが可能です。また大黄を含まない漢方薬でも便秘や腹部膨満感など関連症状の改善が認められており、重症の患者さんに対しても時間をかけながらコントロールしていくことができます。

 漢方薬による治療のポイントをまとめてみますと以下のようになります。

硬い便 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
排便困難症 麻子仁丸(ましにんがん)
排便回数の是正 大黄を構成生薬とする防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)、麻子仁丸(ましにんがん)、大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)
便秘周辺症状の改善 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)、桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)

プロフェッショナルの【眼】

慢性便秘の漢方治療のメリットは、漢方薬の種類が豊富であること、豊富なオプションや関連する腹部症状にも対処できること

横浜市立大学附属病院 消化器内科 教授
中島淳 先生

 慢性便秘の漢方治療のメリットは、関連する漢方薬の種類が豊富で、患者さんにとっても豊富なオプションを選択でき、便秘関連の腹部症状にも対処できることです。例えば、各漢方薬に含まれる大黄(だいおう)の含有量の違いで、大腸の刺激作用の強弱を選択できますし、大黄を含まない「大建中湯(だいけんちゅうとう)」や「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」は、急激な腹痛を起こすことなく便通を改善できます。
 また慢性便秘にともなって起こる下腹部痛や腹部手術後などによる下腹部の痛みにも大建中湯は奏功します。大建中湯には、消化管運動亢進作用や腸管の血流を増加させる作用、炎症を抑える作用などがあり、短時間で下腹部痛の改善効果を得ることができます。また3284例を対象にした大規模な安全性調査でも副作用が少なく、安全性が高いことがわかっています。
 排便量や排便回数は個人差が大きく、その診断も難しいため、便秘治療のゴールは客観的指標の改善よりも、患者さんが訴える症状の改善を優先することが必要となります。漢方薬で慢性便秘を治療することは、便秘薬の習慣性や耐性の低減も期待できますので、一朝一夕で対応が困難な慢性の便秘患者さんに対しても時間をかけて外来で調整できます。まずは医療機関を受診し、ご自身の症状などに合った漢方薬を医師と共に見つけることが大事です。

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