ハートクリニック練馬春日町 岡英孝院長
~漢方薬の新時代診療風景~
漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。
数ある治療法のひとつとして漢方薬を
ハートクリニック練馬春日町は、循環器や消化器を中心とした内科クリニックです。風邪やインフルエンザ、花粉症から、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、不整脈や心不全、胃炎、胃潰瘍、喘息など内科系の病気の治療をしています。
治療には漢方薬を取りいれることも多いのですが、漢方を特別なものと考えているわけではありません。数ある治療法のひとつとして、患者さんに最適だと考えたときに取りいれています。
漢方を用いた治療で私がいちばん興味深いと思っているのが、西洋医学と異なる診断の仕方や治療計画の考え方です。腹診、舌診、虚証、実証といった、患者さんの全体をみて、体質などを考慮して治療を考えるところは、現代の医療にも取りいれるべき点ではないかと考えています。
私自身も診療のときは、患者さんが診察室に入ってくるときの様子から、座って話すときの視線、表情、言葉の出し方などをよくみて、漢方医学で言うところの「証」を探れるよう努力しております。まず、「患者さんは何がつらくてここに来たのか」「何を求めているのか」をきちんと理解したいと思っています。例えば、患者さんはくも膜下出血を心配して来たのだけれど、直接そう言わず「なんだか頭が重い」と言うことがあります。「胸が重い」とか「何かが心配」といった漠然とした表現から患者さんが心配していることを探り、話を聞き込み、何がいちばんつらいのか、どうしたいのかを理解するよう心がけています。
今、コンピュータがどんどん進化していて、頭脳も医療もコンピュータにはかなわないと言われていますが、人の微妙な表情や表現を理解することは、きっとまだコンピュータにはできません。やはり人と人とが向き合うことが必要だと思うのです。
さまざまな病気を診た経験が役に立つ
実は、もともと医師という職業や漢方に興味があったわけではなく、高校生の頃はコンピュータプログラマになりたいと思っていました。感情的にならず、常に冷静にプログラミングに打ち込むイメージに憧れていたのだと思います。今思えば、自分には向いていないと思うのですが。それで、進路に迷ったときに友人に勧められて有名な占い師にみてもらったら、(1)理系に進む、(2)北に行く、(3)国公立と私立のどちらに行くかははっきり見えない、と言われたのです。その後、受験雑誌で見つけた、北九州市の産業医科大学を進路に選ぶことになり、「なるほど!」と納得しました。
大学に入ってからは、私自身が14歳のときに大動脈弁閉鎖不全症という心臓の病気をしたこともあり、関心を持っていた循環器を専門に選びました。
また、専門は循環器でしたが、開業前に新宿海上ビル診療所で院長をしていたときには、さまざまな病気の人を診て、適切な診療科の医師に紹介する仕事もしていたので、専門以外の病気にも遭遇し、さまざまな勉強をさせていただきました。その経験は結果的に、開業してから自分の知識や技術として役に立っています。
漢方医からのアドバイスがきっかけ
漢方に出会ったのも、新宿海上ビル診療所に勤務していた時期でした。漢方外来があり、大学などから漢方の専門医が大勢来られていたので、お会いしたときに診療でなかなか良くならない患者さんについて相談していました。すると、「もしかして、その患者さん下痢っぽいとか、口が渇くという症状を訴えてない?それならこういう処方をしてみたら?」とアドバイスをいただいたのです。循環器の病気でも漢方薬が治療選択肢の一つになり得ることに気づき、目の前がパッと開けた気がしました。そういった経験から漢方に関心を持ち勉強を始めました。
私自身がいちばん勉強になったと感じたのは、食事や飲み会などで同席した先輩先生方との雑談でした。「こういう症状にはどうするのがいいのでしょう」と問うと、「例えば、もし便秘っぽいならこの処方、下痢っぽいならこの処方を試してみたら?」「もしかしたらその人は虚証なのかもしれないから、こっちじゃなくて今度はこれを使ってみたら?」などとアドバイスがもらえる。それを帰ってから自分で調べてみて、そのアドバイスを骨子として自分なりに考えて肉付けして処方すると効果がみられたり・・・。漢方薬を診療で使っている先生方の生の声が聞けたので、勉強になることが多かったですね。
西洋医学では解決できない「つらい」に対応
例えば、めまいがすると病院を受診して、検査をしても異常がない場合、西洋医学では、「異常ありません。どうぞお帰りください」となることも。患者さんが、病気があるかないかを調べて安心したいだけならそれで目的は達成できたことになりますが、実際につらい症状は改善されていません。そういった場合に、一歩踏み込んでその方の体調や体質、生活習慣などを聞いた上で漢方を処方すると効果が現れることがある。西洋医学では対応しきれないところに効く、それが漢方治療のいちばんの魅力であり強みであると思います。
つらい症状があったら、まずは検査をして病気がないかを確かめることは重要です。手術などが必要な病気ではないことがわかった上で、つらい症状を改善するために漢方薬を使うことは有用だと思います。とくに、めまいや耳鳴り、冷え性、アトピー性皮膚炎、立ちくらみ、不眠など、慢性的な症状に、漢方治療は適していると思います。
一方で、緊急性のある病気、例えば、不整脈や心筋梗塞などの治療では私は漢方を選択することはしません。西洋医学で治したほうが早くよくなると診断した場合には、そちらで対応します。
これからも、西洋医学と漢方薬による治療を併用し、患者さん一人ひとりの症状に応じて最適と思える治療法を選択しながら、かかりつけ医として地域の方々の健康をサポートできればうれしいなあ・・・と考えています。
ハートクリニック練馬春日町
医院ホームページ:http://heart-clinic.info/index.html
都営大江戸線「練馬春日町」駅から徒歩2分。遠方から通院する患者さんも多いとのことで、駅から近く便利。日曜日の午前中も診療をおこなっています。
詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
内科、循環器科、消化器科、呼吸器科
岡英孝(おか・ひでたか)院長略歴
1990年 中国労災病院
1991年 関東労災病院
1997年 新宿海上ビル診療所
2000年 同診療所院長
2008年 ハートクリニック練馬春日町開設
■所属・資格他
日本医師会認定産業医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本内科学会内科認定医、人間ドッグ学会、日本東洋医学会等