山田皮フ科クリニック 山田晴義院長
~漢方薬の新時代診療風景~
漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。
皮膚科の病気でも漢方の効果を実感
この地に皮膚科のクリニックを開設して13年目です。学生さんからご高齢の方まで幅広い年齢層の患者さんが来院されますが、子育て世代が多く暮らしている土地柄か、患者さんで最も多いのはお子さんです。診察する疾患も、アトピー性皮膚炎やとびひ、水イボなどから、ニキビ、しみ、ヘルペス、円系脱毛症、床擦れ、乾燥性湿疹、じんましん、皮膚がんまでさまざまです。
当院では、漢方薬を取りいれた治療をおこなっています。一般的なニキビの治療では、抗生物質の飲み薬と塗り薬が処方されますが、ホルモンバランスの変化で、生理前になるとニキビができたり、悪化したりすることがある女性の患者さんには、当帰芍薬散や桂枝茯苓丸などの漢方薬で血行を良くして、ホルモンバランスを整えるようにします。そうすることでニキビが改善することがあります。また、男性のニキビの治療では、熱や炎症をしずめる働きをもつ清上防風湯も有効と考えられます。
アトピー性皮膚炎でも、黄耆建中湯や補中益気湯とステロイド剤を併用することで症状が改善することもあります。ほかにも、肌のくすみや円形脱毛症、多汗症の治療に漢方薬を使うこともあります。
先輩医師に誘われ3年間漢方を学ぶ
私が皮膚科専門医になることを選んだのは医学部で学んでいたときです。最初に外科系と内科系に分かれるとき、「即断即決」という外科の雰囲気はどうも向いていないと感じ、内科系を選びました。素直にそのまま内科医になろうかとも思ったのですが、大学病院の内科は、呼吸器なら呼吸器内科、循環器なら循環器内科というように、器官によって細分化されています。しかし私は、身体全体ではなく、「人の一部分だけを診る」やり方がどうも腑に落ちず、全身を診て、じっくり患者さんと向き合い、考えて診療できる皮膚科を専門にしました。
漢方に興味を抱いたのは、大学にいたころ、皮膚科の先輩医師が、特発性色素性紫斑という病気に温清飲という漢方を使ったらよくなったという症例を見て、「漢方って効くんだな」と感じたのがきっかけです。その後、消化器科の先輩医師から誘われて、代々木の遼寧中医薬大学附属日本中医薬学院で3年間、中医学を学びました。私の場合は、たまたま先輩の診療を見たり、誘っていただいたりして漢方を学ぶ機会を得られたのですが、今はその縁に感謝しています。
漢方は、使えば使うほど奥が深いと感じます。まだまだ勉強が必要なので、製薬会社主催の漢方の勉強会に参加したり、尊敬する漢方医の先生に教わりに行ったりと、今も勉強は続けています。
1つの薬でさまざまな症状に効く
中医学では診断のとき、患者さんの症状だけでなく、その人の体質や体調、病因といった「証」で診断しますが、皮膚科では、肌に出ている症状を証と結びつけることができます。例えば、くすみなどの色素沈着がみられたら、お血(血の巡りがよくない)と診断するなど、目で見える症状から考え、診断できるところが皮膚科のいいところだと思っています。
ただし、女性のニキビは、生理や更年期といったホルモンに関係していることもあるため、皮膚症状だけでなく、問診で体の状態についても詳しく話を聞いています。
漢方薬の魅力は、西洋医学のように、頭痛ならこの薬、下痢ならこの薬と、1つの症状に対して1つの薬ではなく、1つの薬でもさまざまな作用をもたらす可能性があるところだと思っています。漢方薬は、身体の不調を整えることで症状を改善するので、用いることで皮膚の症状だけでなく、生理痛や生理不順、冷えや肩こりなど、別のつらい症状がよくなったという人も多くみられます。自分の診立てで患者さんの皮膚の症状や、プラスαとしてのつらい症状が改善されたときには、やはり嬉しく思います。
もちろん漢方薬も薬なので、「漢方薬だから安全で副作用もない」とは言えません。例えば、皮膚科でよく使われる黄連解毒湯では間質性肺炎や肝機能障害などの副作用に注意が必要ですし、甘草では高血圧やむくみなどがみられることがあります。そのため、定期的に症状や効き具合、副作用などをきちんとチェックしつつ使っています。
「ニキビと漢方」をライフワークとしての研究に
私は長年、生理前後にニキビが悪化することと漢方薬の関係について関心を持っており、診療をしながら研究を続けてきました。生理不順など、ホルモンバランスが原因で起こるニキビの治療に漢方薬が有用であることを立証したいと考え、治療成果のデータを集めています。エビデンスが得られれば、「ニキビに漢方は効く」と証明でき、もっと多くの人の役に立てるかもしれません。私自身のライフワークとしてこれからも研究を続け、いつかエビデンスを示せるようにまとめたいと考えています。
漢方薬を用いた治療は、西洋医学のように確固たるエビデンスが示されていないものもありますが、何千年もの間使われ続けてきたものなので、「効果はある」と私は考えています。エビデンスが重要であるのと同じく、長年漢方薬を用いて診療をしてきた医師としての経験も侮ることはできないと思うのです。実際に、漢方薬を使うことでニキビやアトピー性皮膚炎などの病気がよくなった患者さんはたくさんいます。いちばん大切なのは、患者さんのつらい症状が改善されること。そのために、エビデンスと経験、両方の力を合わせて、皮膚科医として地域のみなさんの健康に貢献していきたいと考えています。
山田皮フ科クリニック
医院ホームページ:http://www.y-hifuka.com/
JR横浜線「八王子みなみ野」駅から徒歩5分。耳鼻科や歯科、整形外科、眼科などのクリニックが入る「みなみ野クリニックセンター」の中にあります。
詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
皮膚科
山田晴義(やまだ・はるよし)院長略歴
1993年 国家公務員等共済組合連合会立川病院
1995年 読売新聞社・読売診療所皮膚科科長
1997年 墨田区錦糸に山田皮膚科クリニック開設
2002年 中国政府公認国際中医師(漢方医)試験でA級ライセンス取得
2003年 八王子市に山田皮フ科クリニック開設(移転)
■所属・資格他
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医