喜平橋耳鼻咽喉科 村川哲也院長
~漢方薬の新時代診療風景~
漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。
開業してから講演会などに積極的に参加
もともと漢方に興味はあったのですが、大学時代は漢方を学ぶ機会も、使う機会もありませんでした。2007年に耳鼻咽喉科のクリニックを開業してから、耳鼻科領域や呼吸器系、小児、アレルギー、皮膚科領域における漢方の講演会に参加するようになり、自分でも漢方を勉強して診療に取り入れるようになりました。
最初は難しくて薬の名前もわからなかったのですが、使っていくうちに耳鼻科の病気でも、漢方薬が治療の選択肢を広げられることがわかってきました。
例えば、高齢者のめまいや耳鳴りは、本来の治療法ではなかなか治らないことが多いのですが、漢方薬で治ったり、かなり改善されたりすることがあります。耳鳴りがあるときに、吐き気やおなかの状態、頭痛、ストレスなど、ほかにどのような症状があるかによって、「残業続きでストレスがあるならこの漢方薬」、「頭痛もするならこの漢方薬」など、使い分けることで長く続いていた症状がよくなることがあるのです。
また、鼻血には黄連解毒湯が有効です。大人の場合、鼻血の治療ではレーザーで傷口を焼いてふさぐこともありますが、血液が固まりにくくなる薬を飲んでいる患者さんだと、レーザーを使うと傷口が広がってかえって出血が増えてしまいます。そういう場合には漢方薬を使うことで安全に治療することができます。
西洋薬との併用でも、治療効果の向上を実感
花粉症やアレルギー性鼻炎にも漢方薬を使いますが、わりと効き目がマイルドなので、症状がとても重く、「1日にティッシュ1箱使ってしまう」という人には向かないかもしれません。ただ、妊婦さんや授乳婦さんなどには安心して飲んでいただけるかと思います。
また、インフルエンザのときに、抗ウイルス薬とあわせて麻黄湯を処方することがあります。麻黄湯は、発熱や寒気、頭痛、せき、関節痛をともなう風邪や、気管支炎などに有効とされる漢方薬です。抗ウイルス薬を服用すると薬剤耐性ウイルスが出現する問題などがありますが、麻黄湯ならそういう心配もありませんし、効果にも差がなく、使うことで早く熱が下がることがあります。
副鼻腔炎でも、抗生物質やたんを取り除く薬(去痰薬)とあわせて辛夷清肺湯を使うことで、早くよくなることがあります。辛夷清肺湯は、鼻づまりや慢性鼻炎、蓄膿症などに効果があるとされている漢方薬です。このように、漢方を使う場合は単独で使うより、西洋薬と併用することで、より効果がアップすることが多いと感じています。
思いもよらぬ効用に驚くことも
西洋薬と漢方薬では作用機序が異なり、西洋薬はどちらかというと、「ここに効く!」というピンポイントの効果のある薬ですが、漢方薬は、体の中のいろいろなチャンネルを動かし、いくつものスイッチを押す薬だと思うのです。ですから、当初の予定とは異なる、思わぬ効用がみられることもあります。
例えば、鼻血で黄連解毒湯を処方したら、これまでずっとつらかった体のかゆみがなくなったので、鼻血が止まった後も引き続き処方してくださいという患者さんがいました。また、風邪で葛根湯を処方したら肩こりがよくなったから、続けて飲みたいという人もいます。このような「副産物」も漢方のメリットの1つだと思います。
一方で、漢方薬も薬なので、思わぬ症状が出ることもあります。過去には、耳鳴りで柴胡湯を長く使っている人が、咳が長引き間質性肺炎を起こしていたということや、扁桃炎で桔梗湯を処方した人がアナフィラキシーショックを起こしたこともありました。いずれも漢方薬が原因という確証はありませんし、多くの場合は安全に使える漢方薬ですが、つねに「もしかして」ということは想定し、チェックは怠らないようにしています。
喜平橋耳鼻咽喉科
医院ホームページ:http://www.kihei.jp/index.html
西武多摩湖線「一橋学園」駅より徒歩15分。西武新宿線「花小金井」駅からバス「国分寺駅北口」行き、JR・西武線「国分寺」駅からバス「公立昭和病院」「花小金井駅南口」行き、「警察学校」下車、徒歩1分。緑に囲まれたクリニックで、待合室にはウイルスや花粉を除去する空気清浄機能が完備されています。
詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
耳鼻咽喉科、気管食道科、アレルギー科
村川哲也(むらかわ・てつや)院長略歴
1997年 香川労災病院耳鼻咽喉科
1999年 防衛医科大学校耳鼻咽喉科学講座
2001年 自衛隊札幌病院耳鼻咽喉科、耳鼻咽喉科麻生病院
2002年 防衛医科大学校医学教育部医学研究科入校
2004年 カリフォルニア大学バークレー校ローレンスバークレー研究所に留学
2006年 熊本市民病院耳鼻咽喉科
2007年 医療法人社団玉翠会喜平橋耳鼻咽喉科開設
■所属・資格他
日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本気管食道科学会専門医、日本レーザー医学会専門医、日本アレルギー学会、耳鼻咽喉科臨床学会、日本鼻科学会、日本咽頭科学会、補聴器相談医