陳瑞東クリニック 陳瑞東院長
~漢方薬の新時代診療風景~
漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。
患者さんの変化に漢方の効果を実感
私は在日台湾人の二世ということもあり、子どものころから祖父のいる台湾に遊びに行くことも多く、薬草や漢方は身近な存在でした。ただ、私が医師になったころはまだ、漢方は「昔の医学」という見られ方で、私自身もその領域に入っていこうとは思っていませんでした。当時は一人前の婦人科医としてメスを握り、がんを治せるようになることを目指して日々格闘していましたね。
そんな私が漢方を使うようになったきっかけは、新人のころ、研修先の病院で出会った一人の患者さんでした。ある日、外来にビックリするような女性が来たのです。服装は乱れ、髪はバサバサ、化粧っ気もまったくナシ。精神的にかなりつらいというお話でした。婦人科的な診断では更年期障害でしたが、もしかするとうつ病なども併発しているかもしれない。その時に加味逍遙散という漢方薬を処方したのです。現在では婦人科の領域でごく一般的に用いられる、更年期障害などの特に精神的な症状に効くと考えられている薬です。「これを飲んでみて2週間後にまた来てください」と処方し、その後その患者さんが来院されたのですが、別人のようになってました。髪も整い、化粧も服装もきちんとした清潔感あふれる中高年の女性で、カルテを見ても最初は誰だかわからなかったくらいです。話をするうちに思い出して、本当に驚きました。根掘り葉掘り話を聞くと、薬を使い始めて4、5日で急に元気になって家のこともできるようになり、「そういえばずいぶん長い間髪も切っていなかった」と美容院に行き、そうこうしている間にふだん通りの生活に戻ってしまったとのこと。わずか2週間で、です。漢方薬の効果を目の当たりにした最初の出来事でした。
いちばんの先生は目の前の患者さん
研修終了後は主に婦人科のがんを専門に研究・治療をするようになり、抗がん剤と漢方薬を併用する治療法を試みていました。抗がん剤はがん治療に欠かせないものですが、使い方を誤ると副作用ばかり大きくなり、かえって患者さんの寿命を縮めてしまいます。抗がん剤をうまく使うためには、患者さんの体調を整えることが欠かせません。漢方薬を使って患者さんの体力や気力を補うことで、抗がん剤を長く上手に使えることができると考えたのです。
がん治療に漢方薬が使えることは、私が当時がんの専門施設にいたからわかったことですが、現在、クリニックでもがん患者さんへの最新の遺伝子診断や漢方併用治療をおこなっています。がん以外でも、更年期や子宮内膜症など婦人科領域、低血圧症、肥満、ストレスや精神的な症状など、若い方からご高齢の方までの幅広い分野で漢方を用いた治療をおこなっています。
漢方については様々な先生に教わりましたが、いちばんの先生は患者さんだと思っています。仮に、1日100人の患者さんを診るとすれば、100人の先生に教われるということ。医師の腕を上げてくれるのは患者さんなのです。
長年多くの患者さんを診た経験から、診察室で患者さんと話をするうちに「この患者さんにはこの漢方薬かな」と感覚的にわかるようになりました。もちろん、脈診や望診など、漢方医学の診察もおこないます。でも、人が人を診るのですから感じることも重要。医師としての直感といいますか、「感知する力」も大切だと思います。
自分の体の変化を知り正しく使うことが大切
私にとっての漢方薬の魅力は「まだまだわからないことも多い」ところ。長く使っていても、新たな発見や予想外のことが起こるのが面白いですね。一方で、薬局で売られている漢方薬を十分な知識がないままに使う人が多いことに懸念も感じています。例えば、やせる薬と思われている防風通聖散。使い方を誤ると下痢をしてしまいます。下痢をするということは腸を無理に動かすわけですから、必要な栄養が吸収されないし、皮膚も傷んでしまう。きれいに年を重ねるためのアンチエイジングという考えは間違っていないし、そのために漢方を活用することもできるのではと私も思っていますが、そのためには薬をちゃんと知り正しく使うことが重要です。薬を飲むことで起こる体の変化を、きちんとご自身も意識して感じとることも大切だと思います。
独自の健康法で体調を整える
クリニックでは、最新医療のひとつとして遺伝子診断を取り入れています。血液検査で遺伝子を調べることで体質がわかり、その体質に合った治療法や健康法を考えることができるという方法です。実は、私自身も遺伝子を調べ、自分がどのような体質なのか知っています。遺伝子的にみると私はひどい体で、糖尿になりやすい、コレステロールが高くなりやすい、太りやすいなどメタボの要因が全部そろっている。実際にそうだったのです。そこでいろいろ考えて、「朝、昼の炭水化物摂取をしない」という、ちょっと極端な対処法を実践しています。
これからも、遺伝子を用いた診断や治療など、科学的な根拠に基づく「今の時代にこそできる医療」と、がん治療や漢方医学など、長年積み重ねてきた経験を活かした医療をうまく併用しながら、患者さんと向き合っていきたいと考えています。
陳瑞東クリニック
医院ホームページ:http://www.chin-cl.com/
東京メトロ千代田線「赤坂」駅より徒歩2分、銀座線「溜池山王」駅より徒歩3分、丸ノ内線「赤坂見附」駅より徒歩7分。
赤坂会館地下1階でエレベーターを降りると目の前がクリニック入り口です。
詳しくは医院ホームページから。
診療科目
婦人科、内科
陳 瑞東(ちん・ずいとう)院長略歴
1983年 同大学医学博士
1984年 米国National Institute of Health
1985年 癌研究会附属病院婦人科
1997年 陳瑞東クリニック開設、癌研究会付属病院婦人科顧問
2008年 陳瑞東クリニックを赤坂に移転
■所属・資格他
日本更年期医学会評議員、日本産婦人科学会認定医、日本骨粗鬆症学会評議員、日本臨床細胞学会指導医、日本東洋医学会専門医、日本癌治療学会、Member of American Association for Cancer Research