レディースメンタルクリニック カナリア 岡本香奈院長
~漢方薬の新時代診療風景~
漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。
幼いころから描いていた「医師になる」という夢
いつごろから医師を目指したのかははっきり覚えていませんが、数年前にタンスの奥から出てきた小学生の時に将来の夢を描いた作文には「お医者さんになりたい」と書いていました。しかし、中学、高校生の頃は語学への興味が強くなり、狭い日本にとどまらず海外で何かをしたいと考え、国際弁護士や国連職員などを目指そうと思った時期もありました。大好きな語学の勉強を生かし海外でできる仕事をと模索する中で、ただ海外に行くというのではなく、資格や技術を身に着けて海外に出る方が良いのではないかと思うようになりました。専業主婦ながらいろいろな資格をもつ母の「手に職をつけたほうがよい」という助言も影響したと思います。
大学在学中も海外への興味が強く、国際保健や地球を歩く会というバックパッカー旅行の成果をまとめるようなサークルに入って、さまざまな国を訪れました。4年生の時には国際保健協力フィールドワークフェローシップに参加し、フィリピンの医療活動の実際に触れ、WHO西太平洋地域事務局(WPRO)、JICA事務所やNGO等を訪問し、益々海外で働きたいという意識が高くなりました。しかし初めて受けた医師の国家試験に落ちてしまったことで、親と「親の目が黒いうちは海外で働くのは禁止」という約束をして現在に至っています。
「患者のための医院とは何なのか」を考え開業へ
いつか海外で働きたいという希望や、自分は経営に向かないだろうなという思いから、医師になった当初は開業に興味はありませんでした。しかし、民間の精神科病院に勤務していた時に、症状のかなり重い患者さんと一緒に、軽いうつ状態や更年期障害などの女性患者さんが座っている光景に違和感を覚えてはいました。さらに何人かの患者さんから「私もあんな風になるのでしょうか」、「待合室にいる時間がつらいです」などと言われたことから、入院を必要としない軽症の患者さんがどうすれば気軽に相談できるのかと考え、開業に踏みきることにしたのです。開業にあたり、症状の程度、性別を限局し、完全予約制にして待ち時間を短くする工夫をしました。
西洋薬以外の治療を希望する患者さんも多く、中医学、バッチフラワーレメディなどの勉強を生かし、治療には漢方薬と併せて中医学にのっとった栄養指導や生活指導も取り入れています。開業時も今もそうですが、女性のための心と身体のケアをテーマとして、心身ともに健康に美しく生きたい女性のために必要なさまざまな治療を行える場所、情報を得ることができる場所を目指しています。通院が少しでも楽しくなるように、2週間に1回ネイルをいろいろなデザインに変えたりもしています。寿司ネタの柄にしたこともあるんですよ。
また精神科病院の多くは月曜から金曜までの9時から17時までの外来となっており、働きながらの通院は難しく、かなり悪化しないと受診しなかったり、治療を中断してしまう患者さんも少なくありません。産業医の経験からも働きながら受診しやすいようにと、当院では、隔週で土曜と日曜も診察し、また火曜日は20時半まで診察と、診療時間を変則にしました。
完全予約制にしているもう一つの目的は、自分の心身の健康です。年に何回か、休暇をとって海外旅行に出かけています。医師が心身共に健康であることで患者さんに安心して相談してもらえると考え、日頃も漢方を服用したり、食事に気を付けたり、趣味を楽しんだりはしていますが、私にとって一番の元気の源は海外旅行です。
クリニックのマークはカナリアとスズランです。カナリアは大体の方が想像されるように、自分の名前の香奈からとりました。スズランは私の大好きな花で、花言葉が「幸せを送ります」です。私も少しでも皆様に幸せを贈ることができればと思い、日々診療に取り組んでいます。
対症療法に疑問を持ち、知識を得るため国際中医師を受験
漢方に興味をもったきっかけは、中学2年生の時に目にした雑誌です。友人と読んだ雑誌に冬虫夏草の記事があり、記事を書かれた先生に手紙を送り、「日本冬虫夏草の会」を紹介していただいて入会しました。同時期にこれまで冬虫夏草が発見されたことなどない、自宅近くの畑でセミタケという冬虫夏草が大量に発見され、不思議な縁を感じました。冬虫夏草を通じて他の漢方薬や薬草などに興味が広がりました。大学では漢方の授業はありませんでしたが、西洋医学を学べば学ぶほど、自然治癒力や自然療法への興味が強くなり、漢方だけでなく民間療法や食養生、ツボ療法などの本をよく読んでいました。
中医学の勉強を本格的にしようと思ったのは、西洋薬と同じように漢方薬を対症療法的に処方するやり方を目にして、それに疑問を感じたことがきっかけです。最近は漢方薬の情報も増え、処方される先生も増えていますが、私が医師になった頃は「漢方薬はエビデンスベイスドではない」とか「プラセボと変わらない」といった否定的な意見も多く耳にしました。反論するだけの知識と資格がほしいと思い、国際中医師の試験を受けるために日本に分校のある中医大学を探しました。いろいろな学校の中から学費が安かったことで浙江中医薬大学を選びました。ここは人数が少なくアットホームで、先生に質問がしやすい環境がありがたく、卒業後も自分で対処できない症例の相談をさせてもらっています。
当院ではクリニックで漢方による診療を希望される方には、専用の問診票に記入していただくとともに、診察室に入られるときからよく観察するようにしています。中医学の診察の基本である『望診』『聞診』『問診』『切診』を総合して病気を捉えるようにするためです。初めて中医学の診察を受ける患者さんは、脈診で両腕の脈を診ることや舌診で舌を出してと言われることに戸惑われることもあり、最近は何のための診察かを説明して診察するようにしています。
また漢方薬の処方に併せて、食事や生活の指導もしています。例えば寒証の人には、体を温める食べ物を勧めたり、日常生活で湯船につかって血行をよくしたり、体を冷やさないような服装や工夫を勧めます。漢方薬の効果を高める目的もありますが、自分の体質や体調を知ってもらうことと、自分のために何かしていることを実感してもらうためでもあります。そうすることで漢方の飲み忘れも減っているような気がします。
時には中医大学の先生に相談することも
女性専用のクリニックですので、更年期障害、月経前症候群や不妊などの相談が多いです。精神的な問題はなく、漢方の処方だけを希望して来られる方もいらっしゃいます。
ひとつケースをあげますと、月経が2年間止まっている15歳の高校生は、当院に来られる前に婦人科での検査で異常が見つからず、当帰芍薬散を処方され、服用しても改善がなかったので「ストレスではないか」と言われ当院に来られました。本人はストレスに感じていることは特になく、部活も楽しんでおり、なぜ心療内科の受診を勧められたのかもわからないと言っていました。漢方のために診察に来られる患者さんもいることを説明し診察。寒凝お血タイプの無月経と診断し、温経湯を処方しました。その翌月から2か月続けて少量の出血があり、お血が続くため桂枝茯苓丸を追加したところ、3か月後には経血量が増え、その後も毎月順調に生理が来るようになり、1年後に通院終了となりました。娘の無月経が治ったからと、現在はお母さんが更年期障害の治療のため通院されています。
すべての方が最初の処方で速やかに症状が改善する訳ではありません。なかなか改善しない場合には舌診の写真をメールで送って、中医大学の先生に相談することもあります。
医に食を取り入れることも考案中
今後も女性が心身ともに健康でいるためのお手伝いをしていきたいと思っています。治療の場としてだけではなく、健康のための多くの情報を得られる場所にしたいです。自分自身の知識を増やすために、できるだけ勉強会に参加したり、他科の医師や代替医療を行っている方々と交流したりしていきたいと思います。
昨年、中医学と食事についての講義を頼まれ、第1回は食べ物の陰陽と題して行いました。私自身料理が大好きで、日々の食事にも薬膳の考えを取り入れています。今後は医食同源についてもう少し知識を深めて、講義したり、実際に食事を作ったりする会でも開ければいいなと構想中です。
レディースメンタルクリニック カナリア
医院ホームページ:http://lmc-canary.com/
北九州モノレール「守恒」駅から徒歩約10分(タクシー約3分)、西鉄バス「南方一丁目」停留所 徒歩約3分、西鉄バス「徳力新町」停留所 徒歩約3分。
女性医師による女性のためのクリニックです。
院長も職員も軽装の制服で癒しを目的としたアットホームな雰囲気でお出迎えします。
詳しい道案内は、医院ホームページから。(写真提供:レディースメンタルクリニック カナリア)
診療科目
心療内科・うつ病・精神科
岡本香奈(おかもと・かな)院長略歴
2001年 福島労災病院勤務
2002年 産業医科大学病院勤務
2003年 小倉蒲生病院勤務
2004年 三菱重工下関造船所(産業医)
2007年 レディースメンタルクリニック カナリア開院
■資格・所属学会他
日本医師認定産業医、精神保険指定医、日本精神神経医学会精神科専門医、国際中医師試験A級認定