コロンビア内科 小谷晃司院長
~漢方薬の新時代診療風景~
漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。
「社会のなかで自分の役割」を探す
私は京都で生まれ、名古屋で育ちました。北海道に来たのは大学からです。サラリーマンの子供ですが、幼いころから「自分が必要とされているという実感とともに生きたい」という気持ちが強く、大人になったら調理師か医師になりたいと思っていました。美味しいご飯を作る人も病気を治す人も周囲から感謝されますからね。特定分野の専門医ではなく、全人的に診られる医者を志向したのは高校時代に文系だった影響もあるかもしれません。
そのため大学卒業後は、ゼネラリストになろうと麻酔科に進みました。麻酔科医は、患者さんの全身の容体を最適な状態に管理するのが仕事で、知識は内科も外科も広く習得しますし、救急の現場では総合的な判断を素早く行う訓練を積みます。
麻酔科の領域で海外赴任も含めて10年ほど修行した後に、転機が訪れました。内科の研さんを積もうと急性期と回復期の病棟を半々の割合で勤務したときです。リハビリテーションで元気になって自宅に戻っていく患者さんの姿を目の当たりにしたり、退院後の患者さんを訪問診療する経験を重ねるうち、「こんな風に患者さんの日常に寄り添ってQOLを支える世界もあるのか」と大きなやりがいを感じました。
ガラパゴス医にはならない
病院で仕事をしていると簡単に同僚医師に相談できるし、新しい治療法の情報も自然と入ってきます。ところが開業医になると雑務も含め何でも自分でこなさなければなりませんから、忙しくて院外に出る機会が減ってしまいます。よほど能動的に勉強することを意識しないと、過去の医学知識だけでやりくりしてしまいがちです。
私はキャリアの節目節目で、新しい分野を学ぶ機会に恵まれました。訪問診療を本格化する時には褥瘡(じょくそう)など皮膚科領域を勉強したし、循環器分野は北大の筒井教授(循環病態内科学教授、卒後臨床研修センター長)が主宰する卒後研修プログラムに通いました。それもあって、当院ではエコーもX線もホルター心電図計も使っています。
今でも月に1回は大学に出入りして、講義を聞いたり症例相談をするようにしています。また同窓会の幹事を買って出たり、地域の開業医の先生達での勉強会を年に1~2回は開催するようにしています。
つながりを大切に、連携を大事に
医師にとってネットワーキングが重要なのは、生涯学習の面に留まりません。患者さんに適切な医療を提供するためでもあります。一つの症状を別の専門家が診たら違う病気が見つかったというエピソードは枚挙にいとまがありません。
たとえば、患者さんから奥様が胸の湿疹で皮膚科にかかっているが治らないと相談されて同級生の乳腺外科医に紹介したら乳がんだとわかったり、精神科で睡眠障害とされていた患者さんが当院で睡眠時無呼吸症候群とわかったり、なかなか歯周病が治らない患者さんがいると歯科医師から言われて検査をしたら糖尿病が見つかったり、やはりドクター同士が助け合うことのメリットは非常に大きいことを実感しています。そして、医師同士にメリットがあることは患者さんにもメリットがあることです。
開業以来、そうした想いでネットワークを作ってきました。基幹病院に勤める同級生やご近所のクリニックの協力を得て立ち上げた「さっぽろクリニックネットワーク」は5年目の現在も地域が一つの総合病院のように機能する「バーチャルホスピタル」としての進化を続けています。そのなかで私の役目は、専門家への橋渡しを的確に行うことと、逆に器質的な診療から漏れ落ちた患者さんを細かくフォローすることです。何でも相談できる医者像は、「社会のなかで役立つ人間」を志した私の原点に通じます。
漢方薬の魅力
西洋医学のなかでの漢方薬の存在も、これと類似の要素があるかもしれません。違うアプローチをとることで救える患者さんがいるのです。
きっかけは、麻酔科医として仕事をしている頃でした。ペインクリニックと呼ばれる領域では、検査をしてもどこも悪くない、でも確かに痛い、いやそれは単に精神的ストレスだと片付けられ、辛い想いをされている患者さん達に多く出会いました。そのような患者さんに漢方薬を処方すると、効果が現れる方がいるのです。特に呉茱萸湯(ごしゅゆとう)や五苓散(ごれいさん)など頭痛関連の薬などは、必ずしも漢方独特の「証」等々の知識がなくても西洋薬を使う時と同様に症状別に処方しても効果が得られて大変助けられました。
あと、驚いたのは当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)ですね。婦人科の手術をした人などで、上半身は温かいのに下半身に強い冷えを訴える患者さんがいます。漢方的に、おなかを切ったことで「気の流れが上下で途絶え、停滞している」と考えて当帰四逆加呉茱萸生姜湯を処方すると著効します。こうした漢方薬の技術についても、前述のネットワークが役立っており、詳しい先生から継続的に勉強させてもらっています。
10年後の夢
地域のなかで、医者として一定の役割を果たせるようになりました。でも実は、いつも心のなかで悶々と残っているものがあって、それは訪問診療を実現できていないことです。開業当初は「午前に外来、午後に訪問」という経営スタイルも考えていましたが、やはり緩和ケアを行うとなると急変に対応する責任があります。こちらの都合で訪問時間帯を区切るわけにはいきません。となると、一緒にやってくれる医師と2人態勢を組まないと回りません。
ところがここは札幌の中心街で、半径5百メートルのなかに内科だけでも10件あるような過密地帯です。専門分野に秀でた有名医もいます。そのなかでこのクリニックの存在意義は、患者さんの声に緻密に粘り強く耳を傾ける診療スタイルにあると思っています。他院と同じような診療スタイルの医師と組んでもクリニックとしての経営は立ち行かなくなるでしょう。理念や診療スタイルが私と合致する人でないと、パートナーとして引き入れることは難しいと感じます。
そんな医師とはそうそう巡り会わないでしょうけれども、10年後くらいに私の子供達が巣立って収支をそれほど心配しなくても良くなったら、ガラリとスタイルを変えることで訪問診療にもう一度取り組んでみたいという気持ちがありますね。
札幌時計台前 コロンビア内科
医院ホームページ: http://scmed.web.fc2.com/index.html
待合室の大きな窓からの時計台の眺めは最高で、患者さんの気持ちも少し晴れるかも。定刻に鳴る鐘の音も聞こえる。
詳しい道案内は、医院ホームページから。
診療科目
内科、循環器科、漢方内科
小谷晃司(おだに・こうじ)院長
1990年 市立砂川病院
1991年 幌南病院(現・KKR札幌医療センター)
1992年 新日鐵室蘭病院(現・製鉄記念室蘭病院)
1993年 苫小牧王子病院
1994年 札幌北楡病院
1995年 OregonHealthSciences大学病院(客員講師)
1996年 手稲渓仁会病院
2001年 喬成会ふれあいクリニック(副院長)
2010年 コロンビア内科開院(院長)
■資格・所属学会他
日本在宅医学会認定専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本医師会認定産業医