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司生堂クリニック 松田弘之院長

公開日:2013.07.03
カテゴリー:外来訪問

~漢方薬の新時代診療風景~
 漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
 近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
 漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。

患者さんの話しをじっくり聞いて治療法を選択

 司生堂クリニックは、内科・漢方内科・アレルギー科のクリニックとして2000年に開業。それ以来、「病気を診ずして病人を診よ」を信条に、西洋医学と東洋(漢方)医学、それぞれの長所を活かしたきめ細やかな医療を目指しています。
 漢方の考え方はちょっと複雑で、「陰・陽」や「虚・実」、「気・血・水」、「表・裏」「寒・熱」「乾・湿」「五臓六腑」などさまざまな概念がありますが、西洋医学と最も異なる特徴は、「心身一如」といって、「人は心と身体で生きている」という考えを基礎に診断と治療を行っているところだと思っています。
 それにも通じますが、漢方医学では、患者さんの話しをじっくり聞く必要があります。特に初診の患者さんだと30分~1時間ぐらいかかるため、あまりたくさんの患者さんは診られないのが現状です。今は毎日、だいたい30人ぐらいの患者さんの治療をおこなっていますが、ひとりひとりの患者さんの体の症状はもちろん、心の状態や必要により生活背景までていねいに見ることを心がけていますね。
 来院される患者さんは、30~50代の女性が多いのですが、自分の体に入れるものへのこだわりから、「なるべく自然由来のものを」という考えで漢方を求める患者さんもいれば、例えば頭痛やめまい、耳鳴りなどの症状で、これまで何年もさまざまな医療機関に行ったけれどよくならず、最後の砦としてまさに「藁をもつかむ思い」で漢方に頼る患者さんもいます。そういう患者さんを何とかしたい、何かお役に立ちたいと思って診療にあたっていますし、漢方がそういう患者さんを救える可能性は少なくないと思っています。
 ただ、なかには漢方医学について誤った認識をお持ちの患者さんもいらっしゃいます。漢方は万能ではありませんので、例えば、糖尿病や高コレステロールの患者さんでも「漢方の薬を飲んでいれば、それまでの食事療法をやめて自由に何でも食べてよくなる」とか、「どんな病気にも最も効果的」とは言えません。また、私は漢方医であると同時に内科医でもありますから、患者さんにとって最善の治療法を提供したいと考えております。「例えば名古屋に行くのに、鈍行電車でも一般道路を使っても確かに行くことはできますが、新幹線や東名高速があるなら、それを使ったほうがずっと早いですよね。つまり、漢方よりも西洋医学の方が適切だと思えば、この病気の場合は、漢方よりも西洋医学のほうがスムーズな治療効果が期待できると思いますよ」とお話しすることもあります。

「漢方の視点」で見て初めて気づいたこと

 実は、私自身も漢方について本当に正しい認識を持つまでには時間がかかりました。今のような漢方を取り入れたクリニックを開業するまでには紆余曲折があったのです。実家が漢方薬店を営んでいたため、もともと漢方に興味はあり、学生時代から漢方に関するセミナーや研究会に参加していました。でも、当時はあまり身を入れていなかったせいか、漢方独特の理論を理解できず、正直言うと、あまり信憑性を感じられずにいました。
 その気持ちが変化したのは、大学の派遣病院で腎臓病による人工透析患者さんを大勢受け持ったときです。腎臓病は全身の病気なので、患者さんは体のあちこちにトラブルを抱えていて、回診のたびに「頭が痛い」「関節が痛い」「めまいがする」などなど、さまざまな症状を訴えていました。でも、血液だけでなく、X線、CTやエコーなど、検査をしても原因や有効な解決法が見つからない。そんな患者さんのために何かできることはないかと思ったときに頭に浮かんだのが「漢方」だったのです。
 たまたま、そのころ一緒に働いていた同僚に漢方に詳しい心臓外科医がいて、「それなら本気で漢方を勉強してみたら」と勧められ、今の「師匠」を紹介してもらいました。勤務していた慈恵医大の先輩で、東洋医学会の理事で漢方を中心としたクリニックを開業していた先生のもとに1年半ほど通い、勉強させてもらうことになったのです。と言っても手とり足とり教わるのではなく、その先生の横にぴったりついて、患者さんとの会話に耳を傾け、診察する様子の一挙手一投足を見て、カルテ横から覗き込み、知識や技を「盗ませていただいた」という感じでした(師匠もそうやったそうです)。
 そうやって実戦的に勉強しながら漢方的な発想で頭を整理してみたら、西洋医学とはまったくちがう分類が可能となり、西洋医学の視点で見ている時は「なんだこりゃ」と思っていた漢方の概念が、徐々に理解できるようになったのです。漢方的にみると、患者さんが訴えてきた「頭が痛い」「関節が痛い」「めまいがする」という症状がバラバラに起こっているものではなく、いろいろとつながっていることに気付いて、処方してみると改善し、患者さんから喜ばれ、思わず「すごい!」と感激したりして、ますます漢方にのめり込むようになりました。

「努力が必ず人のためになる」それがこの仕事の魅力

 漢方医学では、西洋医学のように「この病気にはこの薬」と決まっているわけではなく、じっくり話を聞いた上で、その方の訴えや症状、体質などから治療法を探していきます。つまり、私の能力、医師としての腕がそのまま患者さんに反映されるということになるので、治療の成果がみられないとしたら、それは私の未熟さのせい。なかなか症状がよくならない患者さんを目の前にして自分の力不足を痛感することもあります。反対に、「何十年も悩んでいた頭痛がすごくよくなった」とか「日常生活がすごく楽になった」などと言っていただけると本当にうれしく、そんな時にこの仕事の醍醐味を実感します。
 もともと、医師を目指したきっかけは、両親から常々言われていた人のためになる仕事、人に喜ばれる仕事をしたいという思いからでした。実家がここ、東京の巣鴨で漢方薬店を営んでいたため、子どものころから祖父や父が多くの患者さんと接するのを見ていたことも理由のひとつだったと思います。
 昔は、弁護士に憧れたこともあったのですが、あるとき、弁護士は必ずしも正しい人ばかりを助けるわけではない、ということに気付いたのです。こういう言い方が正しいかは分かりませんが、社会的には「悪い人」でも弁護しなければならないこともあり、その結果、本当に正しい人たちが不利益を被る可能性もありますよね。多分医師という職業ならば、自分が全力で取り組んだことは必ず人のためになる。それが最大の魅力だと思い、医師になる道を選びました。

患者さんのために、これからも学び続けたい

 患者さんによりよい治療法を提供するためには勉強が必要です。とくに漢方をやっていると、整形外科や皮膚科、脳外科など、内科領域以外の患者さんもたくさんいらっしゃいますので、「科が違うからわからない」では申し訳が立ちません。今も、診療後や休みの日にはさまざまな勉強会に参加していますし、母校東海大の非常勤講師として学生に教える仕事もしており、そこで学べることは本当に多くあります。
 学生のころは勉強が嫌いでしたが(笑)、今は勉強が楽しい(?)。知りたいことが多すぎて、喉が渇いたり、お腹が空いたりするのと同じように知識を欲している感じがして、それはやはり、患者さんの役に立てればという思いのせいだと思います。
 ただ、診療や勉強会等で忙しすぎる日が続くと、やはりストレスからか心身のバランスがとれなくなってくることも。そんなときは、自分の好きなことをして、なるべくリラックスすることを心がけています。もともとは体を動かすことは好きで、学生時代は空手部や山岳部に所属していましたが、今はなかなか時間がとれません。それでも、時間をみつけてなるべく外に出て、あちこち散歩するようにしています。とくに、商店街を歩きまわって活気を感じたり、美味しそうなものを見つけたりするのが好きですね。また、お酒と読書も気分転換には有益ですね。仕事や日常のことは考えず、目の前のことに没頭して楽しむ。そういう時間を持つことで、また元気に患者さんと向き合うことができるのだと思っています。
 これからも、勉強は続けていきたいです。自分の知識、能力、技術をもっともっと高めて、よりスムーズに、より多くの患者さんに、「このクリニックに来てよかった」と喜んでもらえるような治療をしたい。なにも難しいことを考えているわけではなく、ただ、ひとりひとりの患者さんの役に立ちたい、喜んでもらいたい、そのためにスキルアップしていきたいという気持ちです。

司生堂クリニック

医院ホームページ:http://www16.ocn.ne.jp/~shiseido/

JR・都営地下鉄「巣鴨」駅より徒歩4分。
にぎやかな巣鴨地蔵通りの中ほどにありますが、院内は静かで落ち着いた雰囲気のクリニックです。
詳しい道案内は、医院ホームページから。

診療科目

内科、漢方内科、アレルギー科

松田弘之(まつだ・ひろゆき)院長略歴
1983年 東海大学医学部卒業 東京慈恵会医科大学にて内科研修医
1985年 東京慈恵会医科大学第2内科学教室(現、腎高血圧内科)入局
2000年 司生堂クリニック開設
2006年 東海大学医学部非常勤講師
2010年 日本臨床漢方医会理事
■資格・所属学会他

医学博士、日本内科学会認定医、日本腎臓学会専門医・指導医、日本東洋医学会専門医、日本医師会産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

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