かぜをひいたときの漢方の使い方
マスクやうがい・手洗いなど、かぜの予防を始めている人も多いのではないでしょうか。かぜは、誰もが一度はかかったことのある身近なものかと思いますが、こじらせると重い病気を引き起こすことがあります。かぜを引きやすいこれからの季節、味方につけたいのが漢方薬です。使い方のポイントなどを、野木病院副院長/筑波大学附属病院臨床教授の加藤士郎先生にお伺いしました。
ただのかぜと思わずしっかり対策を
かぜは、主にウイルスによって、鼻やのどに急性の炎症を起こす病気の総称です。かぜの原因となるウイルスの種類はなんと200種類以上にものぼります。そのため、咳やくしゃみ、のどの痛み、鼻水・鼻詰まり、発熱、寒気……と、かぜの症状は多岐にわたります。冬は、多くの人がかぜをひきますが「かぜは万病のもと」といわれるように、無理をすると持病が悪化したり、合併症を引き起こすこともあります。お年寄りや子どもはウイルスに対する抵抗力が弱いためにかぜをひきやすく、また、特にお年寄りは発熱などの自覚症状にとぼしいため、気づいたときには気管支炎や肺炎を併発していたというケースや、かぜをきっかけに慢性閉塞性肺疾患や心臓病などの持病が悪化するケースもあります。抵抗力が弱いと、一度治っても、別のウイルスによって再びかぜをひいてしまうこともあります。
かぜには大きく、急性期と遷延(せんえん)期というふたつの段階があります。急性期は、発症してまもない時期のことで、鼻水やのどの痛み、咳などの症状が強く現れます。この期間はだいたい3日程度で、普段元気で体力がある人であれば、ほとんどがこの期間でよくなります。よくならない場合は、遷延期に入ったと考えられます。いわゆる「かぜが長引いている」状態です。遷延期では、ウイルスの活動がなかなか弱まらず体も疲弊してくるため、微熱や全身の倦怠感、食欲不振、長引く咳などの症状も出てきます。2週間経ってもよくならない場合は、かぜをきっかけに別の病気が発症している可能性があります。合併症として多いのは、ウイルスや細菌に感染して起こる気管支炎や肺炎、副鼻腔炎、中耳炎などです。
西洋薬と漢方薬のちがい
かぜの際に使われるお薬は、西洋薬の場合、急性期でも遷延期でも同じものが処方されることがほとんどです。ひとつの症状に対してひとつの薬が基本となるので、咳が出れば咳止め、鼻水が出れば抗アレルギー薬、熱が高ければ解熱剤といった形で、症状ごとに薬が追加されます。一方、漢方薬は、かぜの段階、症状、その人の体力などに応じて飲む薬が変わります。そしていくつも飲む必要はなく、その時々に応じてひとつの漢方薬で対応することができます。
漢方薬にできること
かぜ薬として有名な漢方薬に葛根湯(かっこんとう)があります。葛根湯は、体力があり、かぜのひきはじめに、寒気がしたり、発熱や頭痛があるときに用います。体を温めて、発汗を促してくれるはたらきがあります。お年寄りや持病のある人など、体力が低下している場合は、葛根湯ではなく、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)や小青竜湯(しょうせいりゅうとう)のほうが効くことが、さまざまな研究で明らかになっています。麻黄附子細辛湯は日頃から足や腰の冷えが強く、かぜをひいてもそれほど熱が出ない人に、小青竜湯は体力が中程度もしくはやや虚弱な人で、鼻水の出るかぜにかかったときに有効な漢方薬です。
長引いたかぜによく使われる漢方薬には、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)と麦門冬湯(ばくもんどうとう)があります。補中益気湯は、長引くかぜによる微熱や全身の倦怠感、食欲不振の症状を改善してくれます。体力が低下している人の体質改善にもよく用いられる漢方薬です。かぜが長引きやすい人は、もともと体力がない場合が多く、補中益気湯を服用しているとかぜをひきにくくなる効果があることもわかってきています。
麦門冬湯は、咳やたんなどの症状によく用いられる漢方薬です。長引くかぜの咳で特にたんの切れがよくないときや、声がれがあるときにも効果があります。気管支炎の治療薬として使われることもあります。
漢方薬は、植物などからできた生薬を2種類以上組み合わせてつくられたもので、ひとつの漢方薬でさまざまな症状に対応することができます。体全体のバランスを整えて、本来、体がもっている病気に対抗する力を高めることで、かぜの改善へと導いてくれます。かぜをひいたときは、十分な睡眠とバランスのよい食事をとり、さらに自分にあった漢方薬を活用してみるとよいでしょう。
野木病院副院長/筑波大学附属病院臨床教授
1982年獨協医科大学卒業。2009年野木病院副院長、筑波大学非常勤講師。同年、筑波大学付属病院総合診療科に漢方外来開設。2010年から筑波大学付属病院臨床教授。