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後編:疲れ目、肩こり、イライラ…スマホやPC、タブレットによる「VDT症候群」に対する漢方薬の使い分け

公開日:2024.12.20
カテゴリー:病気と漢方

現代病の1つともいえるVDT(Visual Display Terminals)機器を長時間使用することで生じる「VDT症候群」について、前編ではおもに定義や背景、大まかな治療方針などをご紹介しました。後編では、より具体的な治療における漢方薬の選択や効果の目安、職場環境・生活習慣の改善についてのアドバイスを紹介します。引き続き青山杵渕クリニック院長で産業医も兼任される杵渕彰先生にお話をお伺いしました。

VDT症候群の治療で効果を上げている漢方薬の紹介

まずはVDT症候群の治療における漢方薬選びのポイントについて伺いました。

「基本的に、VDT症候群では複合的な症状が生じますが、その背景は、①精神的ストレスが存在する場合、②長時間のVDT作業による肉体的疲労のみの場合、の2つに大別されます。先に(前編で)お話ししたように、職場や作業、生活環境の変化も相まって、現在は①の患者さんのほうが多い傾向にあります」(杵渕先生)

症状の背景(要因)に精神的ストレスが存在する場合の処方例

「当クリニックに来院される患者さんで特に多いのが、このタイプです。その中でも、主訴が頭痛で、眼の疲れと不眠を併発しているケースが最も多く見受けられます。
診察によってVDT作業との関連やストレスの有無・強度を把握しつつ根本的な原因を探りますが、このケースでは、根底にストレスがあり、それが目の疲れに移行し、目からくる頭痛を発症している、といった方が非常に多く見られます。
漢方医学では、肝(肝臓という臓器自体に加えて肝臓の働きも含む東洋医学的な捉え方)は眼に関係し、肝の機能低下はすなわち目の機能低下につながるとされています。また、肝はストレスに弱く、メンタル面の不安定な状況は肝の機能低下につながります。
これらのことから、症状の背景にストレスの関与が考えられる患者さんには、肝の機能悪化を改善し、メンタル面の安定を図る処方、抑肝散(よくかんさん)が第一選択となります」(杵渕先生)

長時間のVDT作業による肉体的疲労のみの場合の処方例

「こちらは、かつて主流だった患者さんのタイプです。人間関係等の過剰なストレスはなく、純然たる長時間のVDT作業による首、肩、腰等の痛みに加え、眼の疲れなどの症状を伴うケースです。
このような方々には「補剤」と呼ばれる、人参や地黄などの元気を補う生薬が配合された漢方薬が効果を発揮します。具体的には、腰痛などに加えて眼の症状がある場合は、足腰の痛みに有効な八味地黄丸(はちみじおうがん)をベースに、眼の機能回復に働く枸杞子と菊花を加えた杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)がいいですね。しかしこちらは医療用漢方エキス製剤がなく、保険適用になるのは煎じ薬のみとなりますので、煎じ薬での処方が難しい場合は八味地黄丸で代替します。
また、眼精疲労など精神・肉体の両面から強度の疲労状態にある方の場合、術後の体力回復などにも用いられる十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)が有用なケースも少なくありません。
このほか、なかなか取れない首筋やうなじなどのこりに葛根湯(かっこんとう)を用いることもあり、長期の服用になる場合は麻黄(まおう)が入っていない桂枝加葛根湯(けいしかかっこんとう)を用いています」(杵渕先生)

効果実感までの一般的な目安と服用中止のパターン

「VDT症候群では、処方した漢方薬が適していれば、効果は比較的早期に現れます。多くの場合、症状を問わず、早ければ2週間、遅くとも1か月以内には、何らかの変化(回復の兆し)が見え始めます」(杵渕先生)

症状がなくなるまでの期間については、タイプによって異なるとのことです。

「職場・生活環境の変化にもよりますが、精神面が根本的な原因の場合は半年以内には『先生、かなり楽になってきました』と、服用継続の必要性について尋ねられるケースが多くあります。一方で、メンタルに起因しない肉体的な痛み、こりなどが主訴の場合は、職場・生活環境が変わらない限り、完全に症状が収まるのは難しいケースが多いと言えます」(杵渕先生)

想像以上に重要な、職場・生活環境での改善ポイント

VDT症候群の予防や緩和・改善に役立つ職場・生活環境の改善に関するアドバイスを伺いました。

「例えば不眠改善(治療)のひとつとして、就寝前3時間、難しければ2時間以降はパソコン、スマホを見ないのが理想的です。ブルーライトが体内時計(覚醒と睡眠のサイクル)に影響するという報告1)があり、実際、スマホの普及とともにVDT症候群罹患者も若年化しています。また、ブルーライトが問題であるため、紙の本であれば就寝前に読んでも問題ありません」(杵渕先生)

また、多くの症状の緩和・改善に「歩くこと」が重要であるとのことです。

「1日30分程度しっかり手を振って歩く。これを週4回ほど継続して行うことで、血流改善等の効果から、不眠だけでなく、身体の痛みやこり、眼の疲れ、メンタル面ほか多様な改善効果があることは、理論だけでなく、患者さんの診療を通して実感しております」(杵渕先生)

さらに、当たり前と思われがちながら、実は効果がある行動についてご教示いただきました。

「非常にシンプルながら、皆さんが思う以上に効果が高い改善ポイントに『休憩を取ること』があります。これに関しては実際、厚生労働省のガイドライン2)にも、『一連続作業時間は1時間を超えず、その間に10分程度の休憩』等の記載があります。その程度かと思われるかもしれませんが、このポイントを実践できている方は驚くほど少ないのが実情です。しかし効果は想像以上ですので、ぜひお試しいただきたく思います」(杵渕先生)

(取材・文 岩井浩)

参考
  1. 綾木雅彦ほか.住総研研究論文集 2016; 42: 85-95
  2. 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン│厚生労働省<2024年10月21日閲覧>

杵渕 彰(きねぶち あきら)先生
漢方医学研究所 青山杵渕クリニック 所長

岩手医科大学卒。東京都立松沢病院(都立広尾病院兼務)、東村山福祉園、柏木診療所、財団法人日本漢方医学研究所所属 日中友好会館クリニック所長などを経て、2001年4月に青山杵渕クリニック開設。日本精神神経学会専門医。日本東洋医学会専門医。日本医師会認定産業医。

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