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男性の更年期症状、治療までのステップと漢方治療

公開日:2024.04.08
カテゴリー:病気と漢方

株式会社ツムラが20~60代の男女600人を対象に行った調査1)では、男性の8割が「対処方法がわからない」と回答。さらに自覚症状がある40~60代の男性の約6割が「更年期症状を周りに言いにくい」 「更年期症状があっても認めたくない」と回答しています。前回ではいまだに誤解の多い男性の更年期症状のメカニズムと症状について、順天堂大学大学院教授の堀江重郎先生に伺いました。本記事では、漢方をはじめとする男性の更年期症状に対する治療について、引き続き堀江先生に詳しく解説いただきます。

更年期症状の治療 STEP0
いつ、何科を受診すべきか?

男性更年期の症状に関する正しい認識を持つうえでは、例えばパートナーのかかわりも大切です。
堀江先生は、「男性更年期について、医学的なことに触れる前に、まずは日々の中で相手を褒め、感謝することから始めるのがよいでしょう。可能であれば、一緒に外出したり、何かアクティビティをしたりするのもおすすめです。それだけで症状が軽くなる可能性もありますし、病気や受診のことも説明しやすくなります」と話します。

治療開始の目安としては、症状による社会生活上の障害があるか否かでの判断になります。「特に落ち込みの症状がつらそうであれば、それは治療できるものであると伝えていただくのが有効でしょう。また、『自分も女性の更年期を経験したのでわかるので一度診てもらいましょう』などと声掛けするのもよいと思います」(堀江先生)

受診先は、基本的に泌尿器科ですが、注意すべきポイントもあります。

「基本的に泌尿器科で問題ありませんが、専門分野が広いため、男性更年期に詳しくない先生がいるのも事実です。そこで、前もって医療機関のwebサイト等を調べて『更年期』『メンズヘルス』について書かれているところを受診するのがいいと思われます。より専門性を重視するのであれば、日本メンズヘルス医学会のwebサイトに掲載されている、テストステロン治療認定医の一覧から探すという方法もあります」(堀江先生)

更年期症状の治療 STEP1
まずは問診、検査から

医療機関を受診した際の具体的な治療の流れはどのようなものなのでしょうか。
「まずは問診を行います。男性の更年期症状の専門医がいる医療機関では、国際的基準となるAMSスコアという問診票を用いるのが現在のスタンダードな方法で、おおよその症状の程度がわかります。そしてテストステロンの測定、さらに他の病気の可能性についての検査も行います」(堀江先生)

更年期症状の治療 STEP2
薬物治療のファーストチョイスは漢方薬

治療にあたっては、まず生活習慣の見直しをベースに、症状の程度に合わせて薬物治療を併用します。

堀江先生は特に、ビタミンとミネラルの欠乏について指摘します。
「基本の問診、検査以外に、私の場合、特にビタミンDと亜鉛の欠乏にも注意しています。両者ともにテストステロンの産生に必須なうえ、現代は鮭の塩焼きや貝類の味噌汁が食卓から激減した影響などで、摂取量が大きく低下しているからです。日本の成人男性の7割もがビタミンD欠乏または不足とする報告もあります2)。更年期症状の予防もしくは治療において、ビタミンDや亜鉛の摂取は非常に重要です。食事でとりきれない場合はサプリメントでの摂取を勧めています。また、腸内環境を整えることも、テストステロンの産生によい影響を与えますので重要です」

「生活習慣においては「適度な競い合い」「運動の習慣化」を意識し、「夜更かし」「ストレス」に注意が必要です。例えば、適度に体を動かし、仲間と接しながら貢献を評価し合えるボランティア等への参加は、活動自体の有意義さはもちろん、心身にとっても非常に有用だといえます」(堀江先生)

薬物療法に関しては、まずは漢方薬での治療を推奨しているとのことです。

「症状があまり重くない場合、私はまず漢方治療を推奨しています。なぜなら、実は漢方医学(東洋医学)は更年期症状の改善に古来より用いられているからです。漢方医学では、男性は8歳ごとに人生のステージが変化し、40歳から腎虚(じんきょ)と呼ばれる心身の活力の衰えが始まるとされています。これはまさに男性更年期の考え方にも通ずる考え方で、それに対する明確な治療法が漢方にはあります。また、漢方薬は現代の臨床研究でも有効性が確認されている点も漢方を推すポイントです」(堀江先生)

漢方薬はタイプに応じて処方されます。

「薬物療法のファーストチョイスである漢方の中でも、万能薬的な位置付けとなるのが補中益気湯(ほちゅうえっきとう)です。人参や黄耆などの生薬を含む補気剤(ほきざい)と呼ばれる処方で、気(元気、やる気)などを補ってくれます。さらに近年、私たちが行った臨床研究で、補中益気湯がテストステロンの産生・分泌を増やすことがわかっています3)
メンタル症状やストレスが強いケースでは、交感神経の昂ぶりを鎮め、心身の安寧に働く 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)が効果的です。この漢方もテストステロンを増やすことがわかっていて、精神症状が中心で、比較的若い(30~40代)方には効果的です。
このほか、男性ホルモンの一種であるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)を増やす作用のある八味地黄丸(はちみじおうがん)が有効なケースもあります。頻尿や足腰のだるさなどを伴うケースでは効果的な処方ですが、胃腸に負担がかかりやすく、高齢の方には勧めづらい面もあります」(堀江先生)

このほか、症状が重い場合やテストステロンの量が明らかに少ない場合には、テストステロンを補う、ホルモン補充療法を行うこともあります。

「ただ、治療して回復しても、また元の生活に戻ることは避けなければいけません。自分の生活を振り返り、無理をしていないか、自分が褒められるような場面とは何かを考えて生活を見直す。そしてふだんから家族や友人を大事にすること、ボランティアや趣味の集まりに参加したり、行きつけの店をつくったりするなど、自分を認めてくれるコミュニティや友人を作っておくことが非常に大事ですね」(堀江先生)

(取材・文 岩井浩)

参考
  1. 株式会社ツムラ│「男性の更年期に関するイメージと実態調査(2022年11月実施)<2024年2月14日閲覧>
  2. Yoshimura N, et al. Osteoporos Int 2013; 24(11): 2775-2787
  3. 熊本友香ほか. 日東医誌 2013; 64(3) 160-165

堀江重郎(ほりえ しげお)先生
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科学 教授
泌尿器科漢方研究会 代表幹事
東京大学医学部卒業後、日米で医師免許取得。2003年より帝京大学医学部主任教授(泌尿器科学)、2012年より現職。日本メンズヘルス医学会理事長。

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