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【便秘に効く漢方薬とは?】便秘の種類や服用時の注意点も紹介

公開日:2022.02.03 更新日:2024.11.11
カテゴリー:病気と漢方 監修:川崎医科大学 検査診断学(内視鏡・超音波)教授

便が何日も出ない、お腹の張りが続く、排便時に痛みが出る――。多くの人が悩んでいる「便秘」。しかし、誤った市販薬の使用によって、便秘を悪化させてしまう人は少なくありません。ここでは、便秘の定義や種類、便秘でよく使われる漢方薬とその正しい使い方などについてやさしく解説します。

便秘とは?

便秘の定義

便秘というと、何日も排便がなかったり、便が固くて出しにくかったりするのをイメージされるかもしれません。しかし、頑張っていきまないと便が出ない、便を出し切れていない感じや直腸や肛門が詰まっている感じがする状態も便秘の一種です。参考までに日本消化管学会による「便秘」の定義を示します。

便秘は、「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義される。

(日本消化管学会 編. 便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症. p2, 南江堂,2023)

便が出しきれていないような感覚(残便感)が常にあるときは、毎日便が出ていても便秘である可能性があります。また、すっきり便が出ずお腹の張りがずっと続いている状態も便秘かもしれません。

便秘によって日常生活や身体に支障が出ている場合を「便秘症」と呼びます。

便秘症の診断基準(チェックリスト)

便秘症には診断基準があります。診断基準を分かりやすい表現にしたチェックリストを下記に示します。6つの項目のうち2つ以上が当てはまるようなら、便秘症の治療が必要かもしれません。

6つの項目のうち2つ以上が当てはまる場合は便秘症の可能性あり

(※マークの項目は、排便4回に1回を超える頻度で起こる場合にチェックしてください)

(日本消化管学会 編. 便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症. p8, 南江堂,2023[Rome Ⅳ診断基準]を参考に編集部が作成)

ただし、この基準に当てはまらなくても、十分かつ快適に排便ができていない状態が続き、日常生活に支障が生じている場合は、便秘症と診断されることがあります。

便秘症のデメリット

便秘症になると、お腹の張りや腹痛が生じたり、食欲が低下するなどさまざまな症状が生じたり、そのことで憂鬱な気分になることもあります。また仕事に支障が生じたり、家族や友人などとの普段の付き合いにも差し障るといったように、生活の質(QOL)が低下しやすくなるとされています。さらに、排便時の過度ないきみは心臓や血管に負担をかけることが分かっています。

また、半年前から便秘の症状が出ていて、さらに3か月以上、上のチェックリストの6項目のうち2項目以上が当てはまる状態が続いているようなら「慢性便秘症」になっているかもしれません。慢性便秘症による腸内環境の悪化は、心血管の病気(狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など)や腎臓の病気(慢性腎臓病や腎不全)など、さまざまな病気の病態にかかわっている可能性があると考えられています。

なお、便秘が大腸がんを引き起こすかもしれないと心配される方もいらっしゃいますが、今のところ慢性便秘症が大腸がんのリスクとなるという報告と、その逆の報告が出ているため、結論は出ていません。便秘症だからといって大腸がんを過剰に心配する必要はありませんが、定期的に大腸がんの検診を受けることはおすすめします。

便秘の種類

症状で分類した便秘の種類

便秘のうち、慢性便秘症にはいくつかのタイプがあります。まず、症状によって便が出ない「排便回数減少型」と便が出せない「排便困難型」とに分ける方法があります(図1)。排便回数減少型では、腸の機能(動き)低下などが原因で排便回数の減少が見られます。一方、排便困難型は、便が硬いことや、肛門周辺などの排便に関係する筋肉が弱ることなどで便が出しづらくなっているタイプです。

図1 症状で分類した便秘の種類

原因で分類した慢性便秘症の種類

慢性便秘症をその成因から分類する方法もあります(図2)。腸の機能に問題があって起こる「一次性」のものと、病気や薬剤によって二次的に引き起こされている「二次性」のものがあります。

図2 原因で分類した便秘の種類

一次性慢性便秘症

腸の機能に問題があって起こる一次性便秘は、大きく「非狭窄性器質性便秘症」と「機能性便秘症」に分けられます。

腸の内腔が狭窄するほどではないけれども、病気(慢性偽性腸閉塞症や直腸瘤など)による腸の運動障害で便秘が起こっているのが非狭窄性の器質性便秘症です。

一方、腸の形に変化は見られないものの、腸の機能に異常があって便秘になっているのが機能性便秘症です。機能性便秘症は腸内を便が移動する速さでさらに細かく分類されており、速さが正常であれば「大腸通過正常型便秘」、速さが遅ければ「大腸通過遅延型便秘」となります。また、腸の形に異常は見られないのに、便をうまく排出できない場合は「機能性便排出障害」と呼ばれます。ちなみに過敏性腸症候群(便秘型)は機能性便秘症と重複していることが多く、完全に切り離して考えることは難しいと言われています。

排便回数減少型の機能性便秘症

ダイエットのため極端に食事の量を減らしたり、食物繊維が足りていなかったりすると、排便の回数や量が減って便が大腸に滞り、便秘になることもあります。

無理なダイエットをする若い女性や、野菜(食物繊維)をあまり食べない人などに多く見られます。

排便困難型の機能性便秘症

便が硬いことや、肛門周辺などの排便に関係する筋肉が弱ることなどが原因で直腸にある便が快適に出しづらくなるのが排便困難型の便秘です。

浣腸を頻繁にしたり刺激性の下剤を高頻度で使ったりしている人は、肛門の近くにある恥骨直腸筋(直腸の端を支えたり、肛門を閉めたりする筋肉)が疲弊していることがあります。恥骨直腸筋は通常、いきむと緩んで排便をスムーズにさせるのですが、疲弊した状態になると、いきんでも緩まなくなるため便が出なくなってしまうことがあります。

さらに「薬の量が足りないから便が出ないのかも」と勘違いして、便秘薬を飲み続ける人もいます。そうすると、どんどん腸の働きが悪くなって、便秘がさらに悪化してしまいます。

骨盤底筋群(骨盤の下にあって内臓を支える筋肉)の機能異常で、便が出しにくくなることもあります。この場合は薬ではどうにもならず、専門の施設で治療を受ける必要があります。

月経前の機能性便秘症

女性の機能性便秘にはプロゲステロンという女性ホルモンの作用も関係しています。このホルモンには大腸の平滑筋を緩める作用があり、腸のぜん動運動が弱まるため、月経前は便秘を起こしやすくなります。

二次性慢性便秘症

大腸がんや腸管炎症などで腸の内腔が狭窄してしまうと便が通れずに便秘になります。このことを狭窄性の器質性便秘症と呼びます。病気で腸の形が変わったために起こる便秘です。

また、便秘が起こりやすくなる病気があることも知られています。例えば糖尿病、甲状腺機能低下症、強皮症、パーキンソン病などです。副作用として便秘が起こることがある薬剤(抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗精神病薬、オピオイド鎮痛薬など)もあります。

便秘への効果が期待できる漢方薬

便秘治療には西洋薬の新しい薬がたくさん出ていて、治療の選択肢は増えています。それらは明確なエビデンスもあり、迷わずに使うことができます。ただし、西洋薬の場合は作用点が1つか2つ――つまり、1つの薬には1つか2つの効き目というのが基本です。

腸の機能に問題が発生している「機能性便秘」の場合、いくつかの症状を抱えることが多くあります。また、腸と胃の調子は関連すると考えられており、どちらかに不調が出るともう片方も不調になったり、片方を治療するともう片方も治ってきたりすることもあります。いくつかの生薬の組み合わせでできている漢方薬にはたくさんの作用点があり、一剤でさまざまな症状に対応することが可能です。西洋薬ではコントロールできないような症状までカバーできる可能性があるのが、漢方薬のメリットです。

便秘治療によく使われる漢方薬

漢方薬は同じ病名でもタイプによって使い分ける(同病異治)のが特徴です。人によって便秘のタイプや体型や体質、年齢も異なるため、それぞれに合った漢方薬を選ぶことが大切です。

大建中湯(だいけんちゅうとう)

大建中湯は術後の腸閉塞の予防あるいは治療に用いられている漢方薬です。便秘にも有効な漢方薬で最も汎用性が高く、消化管の運動促進作用があります。お腹の張りがある人にも有効です。マイルドな整腸作用を持ちます。また、便意を感じやすくする効果も報告されています。大建中湯に西洋薬をプラスして使うケースもあります。

大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)

大黄甘草湯は便秘に対する基本処方に位置づけられています。大黄(だいおう・刺激性下剤、主成分はセンノシド)の含有量が多く、大量に摂取すると腸の働きを低下させることもあり、注意が必要です。甘草を含み、甘くて飲みやすいのが特徴です。

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

防風通聖散はBMIでいうと25以上、ややふくよかな人に適しています。大黄を含みます。芒硝(ぼうしょう・主成分は硫酸ナトリウム)による腸のぜん動運動の亢進作用が期待できます。

桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)/桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)

過敏性腸症候群の便秘タイプには桂枝加芍薬大黄湯または桂枝加芍薬湯が適しています。芍薬という生薬の働きによって腸の平滑筋の緊張がやわらぎ、排便を促す効果が期待できます。腹痛の軽減も期待できます。

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)/調胃承気湯(ちょういじょうきとう)

イライラを伴う便秘症状がある人に適した漢方薬として、桃核承気湯および調胃承気湯があります。いずれも大黄と芒硝を含み、腸に刺激を与えるとともに腸の運動を促進します。特に、比較的体力があり、のぼせて便秘しがちな女性には桃核承気湯が向いています。

潤腸湯(じゅんちょうとう)

潤腸湯は高齢者の便秘によく使われる漢方薬です。腸管内の水分量を促進し、腸内で便が通過しやすくします。また、大黄による刺激で排便を誘発します。

麻子仁丸(ましにんがん)

麻子仁丸も高齢者の便秘に適した漢方薬です。麻子仁に含まれる油によって便を軟らかくします。腸管の過緊張やけいれんに伴う便通過の遅延、コロコロ便や乾燥した便が出るときによいとされています。

漢方薬の服用時の注意点

安全なイメージを持たれることも多い漢方薬ですが、使い方を間違えると副作用が起こります。西洋薬に比べるとはるかに少ない量ではありますが、漢方薬にも刺激性下剤の成分は使われています。例えば大黄という生薬は刺激性下剤の一種で、大量に摂取すると腸の働きを低下させることもあり、注意が必要です。また、大黄や芒硝は子宮収縮作用があるので妊婦は飲まない方がいいでしょう。

便秘を治したいがために、自己判断で市販の漢方薬を数種類飲んでしまうと、大黄など注意が必要な生薬が重複してしまい、知らぬ間に過剰摂取してしまうことがあります。

また、漢方薬は水(白湯)か服薬用のゼリーで飲みましょう。お茶、ジュース、牛乳などは薬の吸収や作用に悪影響を及ぼすことがあります。添付文書(薬の説明書)をよく読んで、用法用量を守りましょう。

便秘の漢方薬についてよくある質問

漢方薬はどのくらいで便秘に効きますか?

効き目が実感できるまでの期間は、含まれる生薬によって異なります。服薬してから24時間以内に排便を得られるときもありますし、数週間かかるときもあります。もちろん症状や体質によっても変わってきます。思ったように効果が出ない場合は、継続して飲むべきか、他の薬に変えるべきかを自己判断せず、医師や薬剤師に相談してください。

便秘の漢方薬は市販のものでいいですか?

市販の漢方薬のほとんどは、安全性を考慮して生薬の配合量を医療用医薬品(医師が処方する漢方薬)よりもあえて少なめにされています。
便秘が少し気になるから漢方薬を手軽に試してみたいという方は、まず市販薬から試してみてもいいでしょう。一方、多少の手間や時間がかかっても、よく効く可能性の高い漢方薬を飲みたい場合は医療機関に受診することをおすすめします。なお、便秘の診療には基本的に健康保険が使えます。

病院に行く目安は?

「たかが便秘で病院に行くのはやりすぎだ」と思う人がいるかもしれませんが、信頼できる医療機関(専門医)を受診した方が結果として便秘改善の近道になることもあります。市販の便秘薬で様子を見ていたけれど、どうにもならなくなり来院される患者さんは少なくありません。

期間の目安としては「半年」がひとつのポイントになります。例えば、1週間に2回くらいしか便が出ない状態が半年以上続いている、便秘薬を日常的に服用する状態が半年以上続いているという場合は直腸筋の疲弊による難治性の便秘になっている可能性もありますので受診をおすすめします。
また、コロコロしたウサギの糞のような便しか出ない場合や、週の排便回数が「常に2回以下」という場合、お腹の張りや残便感といった症状を半年以上にわたって頻繁に感じる場合も、早めに受診したほうがよいでしょう。

なお、下記のような症状がある場合は狭窄性器質性便秘症(大腸がんや腸管炎症などの病気による便秘)である可能性があるので、なるべく早く医療機関を受診してください。

  • 排便習慣が急激に変化した(例:それまでは出ていたのに突然便が出なくなった、ずっと便秘だったのに、突然下痢をするようになった)
  • 血便が出た
  • 下着に血液が付着している
  • ダイエットをしていないのに、6か月以内に3㎏以上体重が減った
  • 発熱や関節痛を伴う
  • お腹を触るとゴツゴツする部分がある など

(日本消化管学会 編. 便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症. p55, 南江堂,2023を参考に編集部が作成)

参考文献
  1. 日本消化管学会 編. 便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症, 南江堂,2023

眞部紀明(まなべ のりあき)先生
川崎医科大学 検査診断学(内視鏡・超音波)教授

1993年、広島大学医学部卒業。消化器内科を専門に研究を行い、2018年より現職。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化管学会胃腸科専門医・指導医、日本消化器がん検診学会認定医、日本食道学会食道科認定医、日本超音波医学会専門医、日本ヘリコバクター学会ピロリ菌感染症認定医。

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