漢方について相談できる病院検索 漢方について相談できる病院検索

コロナ禍のストレス対策 Vol.2 病気になる前の未病の段階で対処をしておく

公開日:2021.07.26
カテゴリー:病気と漢方

 長期化する新型コロナウイルス感染症の流行は、私たちに多くの変化をもたらしました。その変化や先の見えない状況のもと、多くの人がストレスを抱えています。小さなストレスだと思っていても、それがやがて体の不調を引き起こすこともあります。
 Vol.1では、修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治先生に、ストレスが心や体に与える影響についてお話しいただきました。Vol.2では、引き続き渡辺先生に、自分や周りの人の心と体を守るための対策と予防法をお伺いします。

冷えや肩こり、眼精疲労もストレスの影響

 Vol.1でもお伝えしたように、交感神経の働きが優位になるとき、末梢血管が収縮するため、血流も滞ります。血流が滞ると、冷えや肩こり、眼精疲労や頭が重いなど「病院へ行くほどではないけれどなんだか調子が悪い」といった症状が現れます。これは漢方医学でいう「未病」の状態です。未病とは、その字が表す通り「未だ病気になっていない」、健康と病気の間のことを指します。そもそも健康と病気の間はグラデーションのようになっており、明確なボーダーラインはありません。未病のうちに対処をすれば健康に戻ることができますが、そのままの状態を続けていると病気のほうへと近づいていってしまいます。

未病のうちから対処できるのが漢方のよいところ

 西洋医学では病気になってから治療をするのが基本ですが、漢方医学では病気になる前の未病の段階から漢方薬などで対処をしていくことが可能です。強い不安感や、不眠に悩んでいるようであれば、抑肝散(よくかんさん)や酸棗仁湯(さんそうにんとう)、夜中に目が覚める、強い倦怠感があるようであれば桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、めまいや頭が重いなどの症状があれば五苓散(ごれいさん)、息苦しさがあれば半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、口内炎にも効く半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は気分が落ち込んでいるときにも有効です。

 このように、漢方薬にはメンタルにも効くものがさまざまあります。しかし、西洋薬のように「頭痛にはこれ」「腹痛にはこれ」などと一律に決まっているわけではありません。10人いれば、不調の質は10人それぞれ違います。そのため、漢方医学では同じ症状でも、その人によって治療法や服用する薬も異なります。例えば「不眠」と一言でいっても、イライラして眠れないのか、鬱々として眠れないのかでは異なります。症状そのものよりも、症状を引き起こす体や心の状態、つまり大本(おおもと)を改善することを目的として治療を行うのが漢方医学なのです。

「養生」で「内なる正気」を高める

 慢性的なストレスは体や心の不調をもたらします。外出する機会が減れば運動不足になり、友人たちとの交流が減ればコミュニケーション不足になります。こういう時代だからこそ、日々の習慣で「内なる正気(せいき)」を高めてほしいのです。
 「内なる正気」とは、漢方医学で、体が持つ抵抗力や免疫力のことをいいます。漢方医学では、漢方薬での治療はもちろん、病気を予防する生活習慣である「養生」も重視します。そのために大事なのが、運動、入浴、食事です。
 ハードな運動をする必要はありません。ウォーキング程度の軽い運動で大丈夫です。まず、外に出るところから始め、駅までの道をウォーキングしてみるなど、小さな目標からチャレンジしてみるとよいでしょう。運動によって血流がよくなり、心身もリラックスできます。また、入浴はぬるめのお湯(夏は38度前後、冬は40度前後)に20〜30分、ベッドに入る30分〜1時間前に入るのがベストです。お風呂自体にもリラックス効果がありますが、ベッドに入る30分〜1時間前に入浴で体温を上げておくと、寝る頃にちょうど体温が下がって寝つきがよくなります。
 また、最近では夏でも冷房が強く、体が冷えている方が少なくありません。暑いからといって、体を冷やすような食べ物を摂りすぎないようにすることも大切です。

自分の居場所を作ることでストレスを解消

 患者さんの中には、在宅勤務やオンライン授業などが普及し、家族との時間が増えた一方で、長い時間一緒にいることでのストレスも大きくなっています。ひとりになれる時間を持つのも、とても大切なことです。ほかの人に干渉されない、自分のための時間を意識的に作ってみることを勧めています。
 一方、コミュニケーションの不足から孤独感を感じ、ストレスをためてしまっている人もいます。そういう人にはビデオ通話や電話などででもよいので、誰かと連絡を頻繁にとってみることを勧めたりします。同じ抑うつ状態でも、その人の事情からその根本を見極め、薬を出すだけでなく、その解決法を一緒に考えるのも漢方医学の役割だと思っています。
 また、新型コロナウイルスへの不安や人間関係のストレスはもちろんですが、暑さや寒さ、騒音や花粉などの物理的なこともストレスとなって、体や心に影響を与えることも忘れないでください。
 一番はストレスを避けるよう心がけること。そして、ストレスに負けないよう、日々の生活習慣を見直したり、漢方薬を上手に使ったりすることで「内なる正気」を高めておくことが大切です。

渡辺賢治(わたなべ・けんじ)先生
修琴堂大塚医院院長

慶應義塾大学医学部卒業、同大医学部内科学教室、米国スタンフォード大学遺伝学教室で免疫学を学ぶ。帰国後漢方を大塚恭男に学ぶ。
慶應義塾大学医学部漢方医学センター長、慶應義塾大学教授を経て2019年より修琴堂大塚医院院長、慶應義塾大学医学部客員教授。

記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeとしての意見・見解を示すものではありません。
記事内容・画像・リンク先に含まれる情報は、記事公開/更新時点のものです。掲載されている記事や画像等の無断転載を禁じます。

外部サイトへ移動します

リンク先のウェブサイトは株式会社QLifeが運営するものではないこと、医療関係者専用であることをご了承ください。