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病気を患う高齢の両親などが不安で、抑うつ気分が悪化した50代の男性

公開日:2011.11.22

病気を患う高齢の両親などが不安で、抑うつ気分が悪化した50代の男性

 ひょろりと背の高い52歳男性。奥さんとはしばらく前に離婚し、今は娘さんと二人暮らしをしている。
 仕事のストレスがこうじて家から出るのが億劫となり、不安焦燥が募って、不眠になってしまった。近所の精神科でうつ病との診断を受けた。いったん休職して治療に専念し、お薬としてはトレドミンとコンスタンを最大量、そして少量のドグマチールの服用を始めたところ、少しずつ生活リズムも改善され、家事もこなせるようになった。ところがその時点で受診を自己中断してしまった。そうこうしているうちに父親が脳梗塞で倒れ、認知症の母親の病状も悪化したため、再び眠りが浅くなり、抑うつ気分が悪化して、もはや仕事を続けられない事態となってしまった。
 やむなく退職し、私が勤務している別のメンタルクリニックに初診で来院。当初は他のドクターが担当していた。新しい抗うつ薬であるリフレックスが追加投与され、若干眠りが深くなったものの、疲れるとお腹が壊れてしまう、だるさが抜けないという状態が継続。そんな中、そのドクターが転勤したので今度は私が担当することになった。
 上記症状に対し、私は補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を追加。3週間もすると、「比較的良い。寝込むことも無いし、数日でお腹も治った。逆に便秘になってしまった」と言うようになり、一日二回の内服に減量した。すると、これが適量だったようで、彼の表現を借りると「ライフサイクルが戻った」。私から見ると、まだまだ元気が足りないように見えたが、本人がこの処方で続けて欲しいと希望したため半年経過観察とした。
 ところがしばらくすると、ご両親に関する不安がまたも頭の中で堂々巡りするようになってしまい、抑うつ気分・不眠が再燃してきた。そこで補中益気湯を中止。代わりに、抗不安作用を持ち、心配症で取り越し苦労からエネルギーを消耗してしまう性格の持ち主によく使用する、加味帰脾湯(かみきひとう)へ変更した。この処方変更は奏功し、「割と眠れるようになった。家事も出来る。何と言っても、いつもは夏バテするのに今年は持ちこたえる事が出来たのが大きい。父母のことも、娘と協力して支えている」と嬉しそうに話していただけるようになった。補中益気湯を内服していた時よりも、表情が明るく、顔色も血色良い。かつては診察室に入ってきた途端に部屋の空気が重苦しくなった患者さんとは思えない回復ぶりである。
 補中益気湯を処方していた時は、本人の自覚症状は良く、確かに体力面での改善が見られたが、私としてはもう一息だなぁという印象を持っていた。ところが加味帰脾湯に変更してから、精神面に大きな変化が見られた。補中益気湯と加味帰脾湯は、『漢方製剤 活用の手引き』(長谷川弥人他編)という冊子で「鑑別を要する主な処方」(注:鑑別=しっかり見分けること)として挙げられている。実際に2剤を変更してみて精神神経症状への効果の違いを実感し、その通りだと感嘆した症例であった。西洋薬は変更していなかったが、今後は徐々に西洋薬を減量していきたいと思っている。

小松桜(こまつ・さくら)先生
愛世会愛誠病院・漢方外来
2000年順天堂大学卒業。順天堂医院メンタルクリニック科で2009年まで勤務。
不定愁訴や過量服薬、副作用出現の患者さんに対し、向精神薬のみでの対応では加療困難なケースもあり、漢方に興味を持った。
現在の施設で本格的に学ぶようになり、2010年より漢方外来勤務。精神科専門医。

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