「顔のほてり」や「汗のかきやすさ」を訴えて来院した50代女性
「顔のほてり」や「汗のかきやすさ」を訴えて来院した50代女性
50代の女性が顔のほてりを訴えて来院した。最近顔のほてりを自覚するようになり、また汗もかきやすくなっていると言う。本人は「更年期障害かしら」と心配していた。婦人科の医師ではないので更年期障害の診断は出来ないが、漢方薬ならお試しで出すことができると伝えると、ぜひ試してみたいと言うので、エキス剤の加味逍遙散(かみしょうようさん)を1回2.5グラム1日3回毎食前に処方した。2週間後再診すると「ほてる感じがなくなって、汗も出なくなった。もっと飲んでいたい感じ」とのことであった。しばらく内服を続けていると「肩の張りが良いみたい」とも言ってくれた。この患者さんの場合は加味逍遙散がよく効いた。ある意味、加味逍遙散の典型的な効き方なのかもしれない。以前、義母が更年期にさしかかった頃、婦人科の医師から加味逍遙散の処方を受け、それまで困っていた“ほてり”や“めまい”がかなり楽になったという話を聞いた。このように、更年期障害らしい症状に加味逍遙散が著効する経験はしばしばする。しかし加味逍遙散が無効なこともある。
40代の女性で、顔のほてりのために他院を受診し、加味逍遙散の処方を受けたが全く効果を感じないと言って来院した患者さんの場合は、エキス剤の桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)1回2.5グラム1日3回毎食前の処方が有効で「飲んで2日くらいでほてりがとれた」と喜んでくれた。このように同じ症状でも、同じ薬で楽になるとは限らないのが漢方薬の不思議なところである。
更年期障害のような症状は漢方的に“血”の問題ととらえることが多い。“血”の問題を解決してくれる薬には沢山の種類が存在する。その沢山の薬の中から目の前にいる患者さんに最も合っていると思われる薬を選択して処方する。また患者さんにも、「体に合っている薬を一緒に探しましょうね」と話している。しかし残念ながら合っている薬を見つけることが出来ないこともある。
50代の女性で、やはり顔のほてりを訴えて来院した患者さんの場合、他院で加味逍遙散も桂枝茯苓丸も処方されたことがあったが、両方とも効果を感じることが出来なかったそうである。そこで別の“血”の薬を幾つも試してみた。もちろん合っていそうな薬から順番に処方していったのだが、ことごとく「これは効かない、これは不味くて飲めない…」と撃沈してしまった。結局、比較的効果があったのはエキス剤の白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)という“冷やす”薬であった。しかし「白虎人参湯も短時間しか効かない」という。今では「外出するときだけ、直前に飲むようにしています」とのことであった。「一緒に探しましょうね」と言いながらも見つけることが出来なかった。体に合う薬を探すことは、非常に難しいことであると実感させられた経験であった。
愛世会愛誠病院・下肢静脈瘤センター
血管外科の外来で漢方薬を使うようになってから、本格的に漢方を学ぶようになり、2010年より血管外科と漢方内科を兼務。
日本外科学会専門医、日本脈管学会専門医。