便通を調整しながらの処方で、3年来の湿疹・かゆみに対処
便通を調整しながらの処方で、3年来の湿疹・かゆみに対処
「3年前から季節によって顔に湿疹が出来てかゆくなる」という57歳の女性。冬から春の終わり頃までかゆみが出て困っていると言う。加えてウォーキングで林の辺りを歩くと、鼻水が垂れてくるとのこと。近くの皮膚科に受診したところ、「花粉のアレルギーじゃない?」と言われ、アレルギーの薬を処方されたが、飲んでもあまり効果を感じなかった。そこで漢方薬を試してみたくなったらしい。
前額部(おでこ)と、両側の耳の下に、赤く小さな湿疹がいくつも出来ていた。かゆいため、無意識のうちに掻いてしまうようだ。
頭から首にかけての湿疹なので、まずはエキス剤の治頭瘡一方(ぢづそういっぽう)を1か月分処方した。1日3回(1日7.5g)飲んでもらったところ、「始めの3日くらいは調子よさそうに思ったけど、その後は効いていない気がする。3回飲むとお腹が痛くなって下痢をする。1回にしておくと便通が良い」とのことであった。
漢方では、「皮膚疾患の治療に便秘は大敵である」と言われる。そこで治頭瘡一方には、下剤としてよく用いられる生薬の大黄が含まれている。今回の下痢はそのためかもしれない。あまり下痢をしては可哀想なので、処方を変更することにした。
湿疹に対して良く用いられる十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)のエキス剤を1日3回(1日7.5g)2週間分処方した。十味敗毒湯には大黄などの、いわゆる下剤の生薬は含まれていない。しかしながら便通を良くするために、マイルドな下剤であるエキス剤の麻子仁丸(ましにんがん)を、1日1回(2.5g)から始めてもらった。便通に対する効き目が不十分であれば、麻子仁丸の量を増やすように伝えた。
十味敗毒湯を飲みだしてから、皮膚の赤みはとれたと言う。しかし、かゆみが治まらないで困るとのこと。便通については麻子仁丸を1日2パック飲むと調子良いとのことであった。
患者さんの訴えが「かゆみ」なので、ここでも処方を変更して様子をみることにした。
湿疹は赤みがあり、熱をもっている。そこで冷やす薬である黄連解毒湯(おうれんげどくとう)のエキス剤を1日3回(1日7.5g)1か月分処方した。その後患者さんはしばらく来院しなかったが、別の症状で再び来院したときに話を聞いたら、「飲み始めたらまず、かゆみが治まった。そして2週間くらいで湿疹も完全になくなった。そのため2週間で内服を中断した。」とのことであった。かゆみが治まったために、掻かなくなり、そのために湿疹も落ち着いたのであろう。本当は「その瞬間の喜び」を分かち合いたかったが・・・まあ、喜んでもらえて一安心であった。
愛世会愛誠病院・下肢静脈瘤センター
血管外科の外来で漢方薬を使うようになってから、本格的に漢方を学ぶようになり、2010年より血管外科と漢方内科を兼務。
日本外科学会専門医、日本脈管学会専門医。