イライラすることが多いという女性
イライラすることが多いという女性
「最近子供のことでイライラしてしまうことが多い」という54歳の女性から相談を受けた。以前も一度同じ様なことがあり、近医でエキス剤の抑肝散(よくかんさん)を処方され内服していたことがあるという。その時は抑肝散を内服して気持ちが落ち着いたそうである。そのため今回のイライラも抑肝散で落ち着くかと思い、自宅に残っていた抑肝散を数日内服していた。しかし今回はあまり効果を感じないということであった。
実はこの患者さんは、前回に紹介した陰部静脈瘤(妊娠などの影響で腸骨静脈という腹部の静脈に逆流が生じ、陰部から下肢にかけて皮下の静脈が拡張・蛇行した疾患。月経や排便・性交時に痛みを感じることがある。)の女性。私の処方でエキス剤の桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を内服していた方である。
漢方薬は複数飲んだときにその効果がプラスに働くこともあるが、打ち消しあってしまい両方の効果が出なくなることもある。陰部静脈瘤の痛みは軽快していたため、今回は、イライラをおさえることを第1目標とした。そして桂枝茯苓丸の内服を一時中止し、エキス剤の加味逍遥散(かみしょうようさん)を処方することにした。加味逍遥散を処方した理由は、患者さんからの訴えに「肩こり」「不眠」「不安」といった更年期障害を思わせる訴えがあったことと、桂枝茯苓丸を中止するにあたってそれと同じ様な作用が期待できるものを処方したかったためである。
桂枝茯苓丸も加味逍遥散も漢方的には血(けつ)の異常、つまり血の巡りを良くする作用がある“いとこ”の様な存在である。そのため加味逍遥散に処方を変更しても、陰部静脈瘤の痛みが出ないことを期待した。
1か月間内服してもらったところ、「イライラ」「肩こり」「不眠」「不安」はかなり少なくなったとのことであった。何よりも喜ばれたのは、体が軽くなって元気が出たということであった。本当に更年期障害であったのかどうかは不明であるが、更年期障害を思わせる様な色々な症状が加味逍遥散によって楽になった症例であった。
ところが陰部静脈瘤の痛みについては、桂枝茯苓丸を中止してから悪化したとのことであった。そのため現在は加味逍遥散と桂枝茯苓丸を両方とも処方しており、それで本人は調子が良いと言ってくれている。この患者さんに加味逍遥散を処方してから不思議なことが起こった。それは、既に閉経しているのにもかかわらず加味逍遥散の内服を始めてから、月に1回排卵痛の様な腹痛が起こりその時期だけ“おりもの”が増えるということである。毎月定期的に起こるとのことであるが、全く不思議である。
愛世会愛誠病院・下肢静脈瘤センター
血管外科の外来で漢方薬を使うようになってから、本格的に漢方を学ぶようになり、2010年より血管外科と漢方内科を兼務。
日本外科学会専門医、日本脈管学会専門医。