漢方を活かす食養生 No.13 夜間にひどい発汗、翌朝めまいで起きあがれない
ここでは、食養生を実践するためのレシピや、食養生と漢方の関係について、水嶋クリニック院長で東洋医学研究所所長の水嶋丈雄先生が解説します。
めまいがして朝起きあがれない、食事もとれない、翌日もめまいがとれない…。こうした場合、脱水症状が原因と考えられることがあります。夏場に多い脱水症状に、循環血漿量を増やす食材や食事を指導した例を紹介します。
70代の女性が、朝起きるとめまいがして起き上がれない、動揺性のめまいで食事が摂れないと訴えられました。家人が心配して救急車を手配し、総合病院で脳のCT検査を行うも、異常はなく、帰宅しました。翌日、やはりめまいがすると当院を受診され、ひとりで歩いて入室できるものの、寝て起きるときにめまいがすると訴えられました。
血圧は、180/112mmHgで意識ははっきりとしています。知覚異常もありません。めまいの前後で特に変わったことはなかったといいますが、夜間にひどく汗をかいたといいます。めまいは血圧のせいかも、とおっしゃいました。体を診ると、しっとりと汗で濡れているが、足は冷えていました。他、血液検査などから、発汗による脱水症状と、頭位性めまいと考え、点滴を行いました。そして真武湯(しんぶとう)を処方し、食事指導を行いました。真武湯は、茯苓・芍薬・蒼朮・生姜・附子から構成される漢方薬で、茯苓・芍薬には循環血漿量を増やす働きがあり、脱水にも効果があります。また、食事には茯苓と同じきのこ類のきくらげ・しめじ、芍薬と同じ根菜類として葛の根・ユリ根・山芋などは循環血漿量を増やす働きがあります。さらに、トマト、桃、びわ、柿、梅、リンゴ、すもも、すいか、みかんなどの果実類や、夏に定番のうなぎ、どじょうなども循環血漿量を増やす働きがあります。そこで、以下のような食事指導を行いました。
ゴマ入り白和え
◇和え衣 | |
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豆腐 | 1丁 |
白ゴマ | 大さじ3 |
砂糖 | 大さじ1 |
みりん | 大さじ1 |
薄口しょうゆ | 大さじ1 |
◇具 | |
にんじん | 100g |
白滝 | 100g |
酒 | 大さじ1 |
薄口しょうゆ | 大さじ1 |
ほうれん草 | 150g |
- 豆腐はガーゼに包み、沸騰した湯に入れて一度ゆで、ガーゼごと引き上げる。ギュウギュウと強く絞らずに、少し余裕のある絞り方がおいしい。
- すり鉢に煎ったゴマを入れてよくすり、砂糖、みりん、薄口しょうゆを順に入れる。
- 1の豆腐も加えてすり混ぜる。
- 千切りにしたにんじんと、ゆでた白滝を鍋で酒、薄口しょうゆを加えて炒りつけ、下味をつける。
- ほうれん草は、ゆでて2cmに切る。3.のすり鉢に4.と一緒に加えて和える。
- ※詳しい作り方は文献1)に記載されています。
さらにもう一品、以前に紹介した葛粉のおやつです。
葛粉のおやつ
本葛粉 | 10g |
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水 | 250ml |
和三盆 | 大さじ1(砂糖でも可) |
- 葛粉を鍋に入れ、水を少しずつ加えながら粒々がなくなるように滑らかにする。
- 火にかけ、木ベらでかき混ぜながら、とろっとさせる。
- 器に盛り、上に和三盆をかける。
- ※詳しい作り方は文献1)に記載されています。
豆腐は循環血漿量を増やすには最適の食品で、また葛は葛根湯にも含まれ、循環血漿量を増加させます。これらを1週間食べていただいたところ、めまいが消失、喉の渇きもよくなりました。夏の間は脱水に注意して食事療法を続けるように指示しました。
- 文献
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- 水嶋丈雄ほか. 食べて元気になる 漢方ごはん. 信濃毎日新聞社, 2008, p.39.
(本記事は医療関係者向けサイト漢方スクエアに掲載された記事を元に、一般読者向けに再編集しております)
医療法人 水嶋クリニック 院長/NPO法人 東洋医学研究所
1981年大阪医大卒。1978年より麻酔科兵頭教授に師事、鍼灸治療を学ぶ。1998年長野県佐久市内に水嶋クリニック・東洋医学研究所開業。2010年WHO伝統医学部門委員、日本東洋医学会評議員、2012年日本プライマリケア学会認定医、2014年厚労省保険部会外部諮問委員。著書に『花粉症・アレルギーを自分で治す70の知恵』(主婦の友社)、『鍼灸医療への科学的アプローチ』(三和書籍)など多数。