めまいがなかなか治らないのはなぜ?めまいの専門医・五島史行先生に聞きました Vol.2 漢方ではどのように治療するか
めまいは非常に多くの人が悩んでいる症状です。病院へ行って検査をしても「異常がない」と言われ、めまい止めを処方されているという方も多いと思います。しかし、なかなかよくならないめまいに対して「本当は何か違う病気なのでは?」「めまい止め以外にももっと効く薬があるのでは?」と感じ、さまざまな情報を自身で調べているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。めまいには、漢方薬が大きな効果を発揮してくれる場合があります。今回は東海大学耳鼻咽喉科准教授の五島史行先生に、めまいの効果的なリハビリ法と漢方の関係についてお伺いしました。
リハビリでめまいを根本から改善
めまいは、バランスを司る感覚器の異常で平衡機能が低下したことによって起こります。平衡機能を直接改善する薬は残念ながらありません。医療機関では、めまいや吐き気を改善させる薬が処方されることもありますが、これらは根本的に治してくれるわけではありません。めまいを根本的に改善するために重要なのが、これからお教えするリハビリです。
めまいのリハビリは、目、耳、足裏という3つの感覚器からの入力を統合している小脳を鍛えるトレーニングです。落ちてしまった前庭神経(バランスを取る神経)の機能を補うために、小脳をトレーニングします。ここでは、座って行うリハビリと、歩いて行うリハビリのふたつを紹介します。
座って行うリハビリ
頭を左右に振るリハビリです。目の正面に親指を立てた状態で腕を伸ばし、親指の先を見つめたまま頭を左右に20回振ります。めまいが起きたり、気持ちが悪くなったりすることがあるかもしれませんが、途中で止めずに頑張って続けてみましょう。朝、昼、夜と1日3回行います。
五島史行:一緒に治せる めまいと頭痛. 金原出版. 2016
歩いて行うリハビリ
左右に首を振りながら歩くリハビリです。まっすぐに歩きながら、30度くらいに軽く左右に首を振り、目線は振った方向に合わせます。1歩進みながら1回首を振り、回数を声に出して数えます。10秒間で10歩(10回)進んだら10秒休憩し、もう10歩行いましょう。計30秒行います。こちらも朝、昼、夜と1日3回行います。
五島史行:一緒に治せる めまいと頭痛. 金原出版. 2016
漢方薬を併用し、リハビリの効果をさらにアップさせる
リハビリに合わせて漢方薬を服用することで、よりめまいの改善効果が期待できる場合があります。漢方医学では、めまいを「水毒」と考えます。水毒とは、体内の水分がアンバランスになっている状態のこといいます。例えば、むくみやおなかがチャポチャポするような感じは水分が過剰になっているような状態で、この状態とめまいを同じように捉えます。めまいの治療には、こうした水の流れを正す漢方薬が用いられます。
めまいの治療によく用いられるのは、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)です。苓桂朮甘湯は、パニック発作があるような場合にも用いられます。半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)は、身体全体を整えるために長期に服用する場合もある漢方薬です。頓服的に使用するのは五苓散(ごれいさん)です。他に、加味帰脾湯(かみきひとう)や抑肝散(よくかんさん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、片頭痛のある方は呉茱萸湯(ごしゅゆとう)などを用いることもあります。また、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、直接的にはめまいに効果を示すものではありませんが、体力や気力が低下した慢性疲労の状態に対して、数か月単位の処方を行うと、少しずつ回復し、効果を示すこともあります。それぞれ、めまいだけでなく、他の身体の症状や状態を診ながらその患者さんに合う漢方薬が処方されます。補中益気湯以外は、だいたい2週間程度の服用で効果が実感できると思います。
めまいの悪化因子を知って事前に予防を
めまいは、リハビリや漢方薬の服用によって、少しずつ症状は改善してくると思います。しかし、完全にゼロにすることはなかなか難しく、発作が起こることもあるかもしれません。めまいは、睡眠不足や体調不良、低気圧、疲れやストレスなどでも悪化することがわかっています。めまいの悪化因子になるものを知っておくことで、日頃から睡眠不足にならないように気をつけたり、ストレスがたまらないようにする、低気圧の接近している際は無理をしないなどの対策を取るようにするようにするとよいでしょう。
めまいの悪化因子
- 睡眠不足
- 風邪などの体調不良
- 寒くなったり、低気圧の接近
- 忙しい行事による疲れ
- 家族の病気などのストレス
- 人混み、デパート、ラッシュの交通機関などの視覚刺激
- 女性は月経の前後、更年期の時期
- 暗いところから急に明るいところに出る、またはその逆
- 狭いところや高いところ
めまいはつらい症状を伴う病気です。治らないと「なぜ自分だけこんなにつらいのか」と悲観的な気持ちになることもあります。しかし悲観的な気持ちを持ったままでは、生活そのものも楽しむことができなくなってしまいます。人生の質は、身体の健康よりも気分で決まります。「ゴキゲンな気分で過ごすこと」が楽しい人生を送るためには必要なのです。毎日、自分の病気をよくしよう、めまいは必ず治る、ゴキゲンに過ごそうという気持ちでリハビリをしたり漢方薬を服用してみましょう。結果にこだわらず、楽しんで毎日を過ごすことが、めまいを治し、ゴキゲンに生きるためにはとても大切なのです。
東海大学耳鼻咽喉科准教授
慶應義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科修了後、ドイツ・ミュンヘン大学生理学教室に留学。東京医科大学生理学第二講座へ国内留学後、日本大学医学部附属板橋病院心療内科研究員、日野市立病院耳鼻咽喉科部長、国立成育医療研究センター病院非常勤医師、独立行政法人国立病院機構東京医療センター耳鼻咽喉科めまい外来医師、東京医療センター臨床研究センター平衡覚障害研究室室長を勤めたのち、2019年より現職
めまいがなかなか治らないのはなぜ?めまいの専門医・五島史行先生に聞きました