抗がん剤の副作用予防に牛車腎気丸を使用することで、医療費抑制につながる可能性
少子高齢化が進んでいる日本では、医療費増大により、国家財政への圧迫が懸念されています。とりわけ、国民の2人に1人がかかると言われているがんでは、治療の進歩が目覚ましいものの、新薬が高額化しており、財政への負担増が危惧されています。
一方で、がんの薬物治療では、重い副作用のために標準的な治療を続けられず、高額な薬剤へと変更を迫られることも少なくありません。そのため、がんの薬物治療では、抗がん剤の副作用をいかに管理し、治療を継続していくかが大きなカギを握ります。
そうしたなかで、近年、がんの薬物治療の副作用を軽減するために、漢方薬が処方されるケースが増えており、薬価が安いことからも医療費抑制に貢献する可能性が指摘されています。
抗がん剤の副作用である末梢神経障害の予防に、牛車腎気丸
日本経済大学大学院経営学研究科教授の赤瀬朋秀先生は、抗がん剤のオキサリプラチンの副作用である末梢神経障害の予防を目的に、大腸がんの患者さんに対して、漢方薬の牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を使用することで、医療費の抑制につながる可能性があると、第70回日本東洋医学会学術集会で発表しました。
オキサリプラチンは白金製剤とよばれる分類の抗がん剤で、大腸がんの標準的な薬物治療として知られるFOLFOX療法(フルオロウラシル、レボホリナート、オキサリプラチンの併用)で使われる抗がん剤です。オキサリプラチンは以前から、手足がピリピリしびれたり、ジンジンと痛む末梢神経障害の副作用がでやすいことが分かっています。この副作用そのものは命を脅かすものではありませんが、歩いている最中につまずきやすくなったり、階段が上がれなくなったりと、患者さんの生活の質を著しく下げることもあります。
牛車腎気丸は、地黄(じおう)、牛膝(ごしつ)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)、車前子(しゃぜんし)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)、桂皮(けいひ)、附子(ぶし)の10種類の生薬から構成されています。一般的に疲れやすく、四肢が冷えやすい、尿量が少なくなっているまたは多くなっており、時に口渇がある人での下肢痛、腰痛、しびれ、老人のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみの治療に使われます。このような作用から抗がん剤の末梢神経障害の予防や治療で使われることが増えています。
牛車腎気丸使用群で、在院日数が短縮、内服薬剤費も減
赤瀬先生らは、包括医療費支払い制度方式(DPC)を採用する医療機関12施設の入院患者データベースから、2012年4月~2014年3月に大腸がん(結腸がん、直腸がん)でオキサリプラチンを処方された患者さん468人のデータを取り出しました。そして、牛車腎気丸使用群(以降、使用群)と牛車腎気丸未使用群(以降、未使用群)に分け、両群の平均在院日数(入院期間)と平均入院医療費を比較しました。
なお、牛車腎気丸を処方されていた患者さんの進行度分類はステージ3以上が多かったため、ステージ2までの患者さんは両群とも対象から外し、その他にも牛車腎気丸以外の漢方薬を服用した患者さん、入院期間中に手術を受けた患者さん、入院時の日常生活の活動レベルがわかる指標がない患者さんなども比較対象から除きました。
また、正確に比較するため、未使用群では性別、年齢、合併症、BMI、がん転移の有無の5つの要因で使用群の患者と同じ背景の患者を選び出して比較しました(傾向スコアマッチング法)。
その結果、平均在院日数は使用群が1.96日、未使用群が3.71日、平均入院医療費は使用群が18万6167円、未使用群が21万6882円となり、在院日数で約2日短く、入院医療費が約3万円低くなりました。
入院医療費の内訳をみると、とりわけ平均の内服薬剤費の部分で使用群が8240円、未使用群が1万5229円と、使用群で約半減していました。これについては、未使用群では牛車腎気丸の代わりに、薬価が比較的高い神経痛治療薬のプレガバリンや同じく鎮痛薬のロキソプロフェンの使用量が多かったことが原因と考えられました。(村上和巳)