牧⻆内科クリニック 牧⻆和宏院長
~漢方薬の新時代診療風景~
漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。
漢方に親和性の高い家庭環境で育つ
子どもの頃から針治療や漢方薬は身近にありました。祖父が医師だったので、家の中には漢方薬の百味箪笥(ひゃくみだんす)※が置いてあり、実際に私はその姿を見たことはないのですが、薪を焚いて半夏や茯苓などの生薬を煎じ、「お腹が痛い」と言う患者さんに飲ませていたそうです。
法医学者だった父には同級生に生理学の教授がおり、その教授のもとにどのように鍼灸が効くのかを研究するためにある鍼灸師が来ていて、父は彼とも知り合いでした。それで私の目が悪くなったときも、父が鍼を打ってもらったらどうかと言うので打ってもらっていました。気はすすみませんでしたが、父の言うことは絶対だったのです。目の周りのツボにたくさん鍼を打たれて、よくハリネズミみたいになっていました(笑)。
また、あるとき母親が椎間板ヘルニアになり、どうにも動けなくなって九州大学病院に入院しました。当時の整形外科の教授から「手術します」と言われ、母は心配でどんな手術をするのか看護師さんに聞いたんですね。そうしたら、看護師さんから「体温を測るために、肛門から体温計を入れます」と言われたそうで、母はそれが嫌でその日の晩、病院から夜逃げしたんです(笑)。だけど相変わらず腰が痛くて動けないから、近隣の整形外科に何軒か行くわけです。でも牧⻆教授の奥様が手術を嫌って夜逃げしたという話がすでに広まっていて、先生方皆さん「九大でオペと言われたら、オペですよ」と言って、誰も相手にしてくれません。それで結局、見よう見まねで民間療法の「温冷灸」を施したのが、中学生の私だったんです。家中に声が響き渡るほど痛がっていたのですが、それでも手術をしたくないばっかりに「やってちょうだい」と言うものですから・・・。
そのおかげかどうかはわかりませんが、そのあと立てるようになって、ちゃんと日舞まで踊れるようになりましたから、驚きでしたね。そういうわけで、子どもの頃から漢方診療に関してはなじみがありました。
※漢方薬を入れておく小引き出しが多く備わっている箪笥。
中医学の歴史を踏まえ、養生から指導
診療方針としては、まず生活環境を正すよう指導しています。漢方薬や鍼灸を使うもうひとつ前に養生という概念があるのですが、これは健康を維持するという考え方です。うちで漢方診療を受けたいと言って来られる人の大半は、運動と食事がうまくいっていなかったり、心の持ち方、呼吸の仕方がよくないことが原因です。ですから、そこを正すと漢方薬などはいらない場合も多いのです。
漢方での治療は、「なぜ、どのようにして効くか」といった理論がなくても、すでに経験則として出来上がったものがありますから、お腹や舌、脈を診て、症状をよく聞いて、それに合った薬を使うということです。私の専門分野は循環器疾患ですが、本態性高血圧や高脂血症、狭心症を漢方薬主体で診ることは難しいため、漢方薬を補助的に併用することで愁訴の軽減に役立てています。漢方主体で通院されている患者さんは、婦人科領域、小児科領域、精神科領域など多彩です。
幅広い漢方治療の可能性を知ってほしい
今後は、漢方が同じ形態で何千年も続くものではなく、その時代時代に合わせて変化する柔軟な考えを持っていることをわかってもらいたいと思います。日中の医学史を勉強していると、この薬はこういう時に使うとか、逆にこういう時にこの薬を使ってはいけないというのがだんだん無くなってくるんですね。というのも、時代や気候によって流行る病気が違ったり、薬の使い方にも違いがでてくるからです。特に中国史では、王朝が変わると民族も入れ替わり、以前行われていた医学療法さえ否定されることもあります。ですから、昔からの流れを知ると、もっと応用範囲の広いフレキシブルな漢方診療ができるのではないか、というのが私の考えです。
また、一方で「何もかも漢方でないと」という迷信的な誤解もなくなってほしいと思います。その点、日本では西洋医学を学んだお医者さんが保険診療で漢方薬を処方できるので、メリットが大きいですね。
また、読者の方には、病気になってからお医者さんにかかるより、病気にならないように健康を維持することがとても大事だとお伝えしたいです。そしてこれからも、皆さんの「食・息・動・想」のバランスを整える養生のお手伝いをしたいと思っています。
牧角内科クリニック
医院ホームページ:http://www.10man-doc.co.jp/hpinfo/makizumi-clinic/
福岡市地下鉄「藤崎駅」4番出口から1分。出口を上がって左手正面にあるビルの2階。診察室からは院長の“歴史好き”がにじみ出ています。
詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
内科、循環器科、東洋医学科
牧⻆和宏(まきずみ・かずひろ)院長略歴
昭和62年 九州大学第一内科循環器研究室 研究生・医員
平成3年 唐津赤十字病院内科 医師・副部長(循環器)
平成8年 北陸大学薬学部東洋医薬学教室 教授
平成11年 牧⻆内科クリニック院長
■所属・資格他
日本東洋医学会専門医・指導医、日本和漢薬学会評議員、日本臨床内科医会代議員、福岡医師漢方研究会理事、福岡市早良区内科医会監事、福岡県内科医会理事、早良区医師会理事福岡県東洋医会理事 等
■著書
「漢方基礎理論」-漢方生理学-、「宋以前傷寒論考」 共著 他