山下司内科クリニック 山下司院長
~漢方薬の新時代診療風景~
漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。
西洋と同じテーブルでは話せない。だからこそ使う意味がある
基本的に私は漢方専門医ではないので、あくまで処方の中心は西洋薬なのですが、患者さんのなかには症状はあるのに、検査データ上は正常だったり、症状と一致しないデータが出る方がいらっしゃいます。開業した後、そういう患者さんが結構いらっしゃいまして、「漢方薬はどうだろう」と思ったのが、使いはじめたきっかけだと思います。
西洋医学的には病名は付かないのだけれど、症状を訴える方を治療しようと思ったら、そういう選択しかなかったんです。異常がわかって、それに対しての診断をつけて治療する西洋薬では処方する薬がありません。でも、そうでないケースも、実際にはあるのです。
漢方薬は即効性のあるものもありますが、西洋薬と比べるとどちらかというとゆっくり効く薬が多いので、時間をかけて効果を診ていくというのが漢方薬を使う際の一番の方針です。逆に、西洋薬は効果が出るのは早いのですが、副作用などの問題もあります。患者さんによっては他のさまざまな症状を伴っている場合もあるため、疾患や状況によって使い分けています。
漢方薬は西洋薬と違って、その1つ1つの成分すら分析できなかった時代からある薬です。長い歴史のなかの経験則から成り立っていて、複雑な生薬を組み合わせているものですから、どれがどう効いているのかは、今のところわかりません。考え方としては、この症状を抑えるとか、この数値を抑えるとかでなく、身体全体、全身のバランスの異常を調節することで、正常になるだろうという考え方です。ですから西洋医学とは同じテーブルについてはできない話なんですよね。だからこそ、使う意味があるのではないかと思います。
使うのはメジャーな薬がほとんど
使う頻度が高いのは、メジャーなものが多いです。話せばきりがないくらいありますが、例えば、お腹の不定な症状、便はある程度出るけれど、腸の動きが悪くてお腹が張ると言われる方には、大建中湯などを処方します。西洋薬もあるのですが、西洋薬だとお腹が痛くなるとかで合わない方もいらっしゃるんです。
胃カメラをしても、ピロリ菌もいない、何にもないのに胃がもたれる、食欲が出ないなど訴える方には六君子湯。免疫力や体力が低下している人には、合うのであれば補中益気湯などを処方します。これらは非常にメジャーな漢方薬です。あとは、口腔乾燥症(ドライマウス)には、麦門冬湯など。
風邪の漢方薬も色々あります。めまい症にも西洋薬もありますが、慢性的になるとなかなか効き目がはっきりしなくなります。そんなときは、漢方薬に切り替えてみます。他にもよく使うのが、芍薬甘草湯。これは筋肉を弛緩させる薬で、よく足がつる人とか、肩の筋緊張が強い人などによく使われる薬です。婦人科系のものでは、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸。これがだいたい更年期障害とか、生理不順などで使われる漢方薬で、内科でも使うことがあります。
糖尿病患者で、合併症のある方に対しても漢方薬を使います。ネフローゼ症候群で、足がむくむ人には柴苓湯。神経障害で足がジンジンする人などには、牛車腎気丸を使ったりして、他の治療でうまくいかないときに、併用なり切り替えたりしています。
直接「漢方薬を使って欲しい」という患者さんもいらっしゃいます。もともとアレルギーが多い方とか、化学薬品に弱い方は、漢方薬を好まれる傾向があると思います。漢方薬でも絶対に薬物アレルギーが起こらないということはないのですが、西洋薬に比べると起こりにくいため、そういう方にはより積極的に使っています。
今後は空白地帯を埋めるべく、西洋と東洋の融合に期待
西洋薬もどんどん開発されて、より発達してきています。それは患者さんの恩恵につながっていると思うのですが、西洋薬にも狭間というか、空白地帯といったカバーしきれない部分もあって、100%網羅できているわけではありません。たとえば検査には異常が出ないけれど症状があるケースなど、異常がみつからないから治療しなくていいのかというと、それでは困るわけです。開業医をやっていると、西洋医学ではうまくいかないケースとか空白地帯にあるようなケースが結構あるんです。でも、「それは私の専門じゃないから治療できません」と言ったらそれまで。かかりつけ医であれば、それはそれで何とかしなければならない。そこで漢方薬が空白地帯を埋めてくれる強い武器になるわけです。漢方専門医ならまったく逆の考え方をするのかもしれませんが、要は、患者さんがそれで恩恵を受けられればいいわけで、体調が良くなって治っていけばそれで良いと思っています。今後は、今まで「わかりません」で終わっていたのを、きちんと治療できるようになりたいと思っています。
最近では、アメリカでも一部の漢方薬が認められて論文になっています。有名雑誌に載ったりして、西洋医学的分析という方向からのアプローチもかなり進んでいるようです。だから、今後はだんだん融合していくのではないかと思います。さらに、ツボとか経絡なども融合していく可能性がありますよね。それを楽しみにしたいと思っています。
山下司内科クリニック
医院ホームページ:https://www.yt-clinic.jp/
博多駅近くのビル1Fにある。そのため、忙しいビジネスマンにも通いやすいロケーションといえる。
詳しい道案内は、医院ホームページから。
診療科目
総合内科
山下司(やました・つかさ)院長略歴
1985年3月 産業医科大学医学部卒業
1985年5月 九州大学医学部第3内科入局
1985年6月 国立小倉病院内科
1986年6月 九州大学医学部付属病院
1987年4月 福岡県立嘉穂病院内科
1988年4月 九州大学医学部第3内科
1989年4月 北九州医療センター内科糖尿病センター
1990年4月 九州大学医学部第3内科
1992年4月 済生会福岡総合病院内科
1997年4月 同上内科部長
1998年1月~現在 山下司内科クリニック院長
■資格・役職
医学博士、日本内科学会認定総合内科専門医、日本医師会認定産業医、日本糖尿病協会療養指導医
日本内科学会、日本糖尿病学会、日本臨床内科医会