ニキビや紅斑など…皮膚の病気に有効な漢方薬は
漢方で応急処置と体質改善から
皮膚のトラブルにも漢方による治療が有効です。東洋医学では、病気の原因に対処することを本治と呼び、その原因によって生じる症状を治療することを標治と呼んで区別しています。皮膚化領域の疾患の漢方治療では「標治(ひょうち)」が中心になりがちですが、「本治(ほんち)」を行わなければ症状の改善が認められない場合も少なくありません。
本治ではヒトの体を構成する要素である気・血・水のどれに異常があるかを見極め、それぞれの異常に対応した方剤を使用することが最も重要です。また、五臓と呼ばれる肝・心・脾・肺・腎の、どの臓器が失調しているかを診て、標治とあわせて、本治を行わなければなりません。
一般的には紅斑に黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)、直径1センチ以下の発疹が起きる丘疹では十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)、桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)、水疱に五苓散(ごれいさん)、浮腫に猪苓湯(ちょれいとう)を使うことが多いです。また、苔癬化(たいせんか)と呼ばれる皮膚が乾燥してごわごわした状態には猪苓湯と三物黄ごん湯(さんもつおうごんとう)の併用や駆お血剤、糜爛(びらん)・潰瘍には生薬の人参(にんじん)と黄耆(おうぎ)を主として含む参耆剤(補剤)を用います。
アトピー性皮膚炎では年齢、性別によって頻用される方剤は異なります。幼児の場合、顔面の浸出液や紅斑に治頭瘡一方(ぢづそういっぽう)や胃苓湯(いれいとう)、全身性症状では桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)と排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)を併用することが一般的です。成人の場合、女性には駆お血剤を使用することが多いのが特徴です。
乾燥した皮膚では地黄剤(じおうざい)が基本となりますが、より乾燥がひどく肌が色黒にみえる時には温清飲(うんせいいん)を用います。軽度のジクジクしている滲出の傾向があり、明るい紅斑で口渇があるような症例では消風散(しょうふうさん)が適しています。顔面の紅斑は浸出液があれば治頭瘡一方、のぼせがあれば桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)などの桂枝の入った方剤、眼瞼浮腫があれば越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)を使用します。また、若年男性で色黒の筋肉質、胸脇苦満と腹直筋の緊張があり、蓄膿症、中耳炎、慢性扁桃炎、ニキビなどの併発や手に脂汗などの特徴があれば、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)の証になります。かゆみには黄連解毒湯を第一選択薬とします。
尋常性ざ瘡、いわゆるニキビでは、清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)が第一選択薬ですが、他には桂枝茯苓丸加よく苡仁、排膿散及湯、荊芥連翹湯などが頻用される方剤です。やや虚証気味の女性のニキビでは当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)とよく苡仁湯(よくいにんとう)を併用します。
円形脱毛症では柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)、加味逍遥散(かみしょうようさん)など自律神経の緊張をほぐす方剤の他に、漢方では「髪は腎の華」と呼ばれ、五臓のうちの腎の状態が良いと髪の状態も良いとされるため、腎虚の基本処方である六味丸(ろくみがん)を使用します。
尋常性乾癬は、壮年期の症例では温清飲、高齢者では当帰飲子(とうきいんし)が第一選択薬となりますが、駆お血剤や小柴胡湯(しょうさいことう)と黄連解毒湯の併用が有効な場合もあります。
(2017年6月開催 第68回日本東洋医学会学術総会「漢方入門講座3 皮膚科領域の漢方治療(桜井医院 桜井みち代先生)」をもとにQLife漢方編集部が執筆)