【補中益気湯】新型インフルエンザA感染予防効果/論文の意義
西洋医学では対処法に乏しく困っている領域
新型インフルエンザ感染に対する予防効果が期待できる―補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
2009年に新型インフルエンザA(H1N1)の世界的大流行が起こったことは、皆さんの記憶にも新しいと思います。今回は、新見正則先生(帝京大学医学部外科准教授)の研究報告を紹介しましょう。『補中益気湯』には、新型インフルエンザA感染に対する予防効果が期待できるという内容です。2009年12月に世界で最も権威ある医学誌のひとつ『British Medical Journal』誌のオンライン版に速報が発表され、また2010年4月に開催された日本内科学会総会・年次講演会では優秀15演題に選ばれました。
背景:新型インフルエンザA感染予防に、抗ウイルス薬やワクチン以外の手段が求められている
世界的な流行により注目された新型インフルエンザA(H1N1)は、日本では2009年8月下旬より急速に感染が拡大しました。しかし当時は、新型インフルエンザワクチンや季節性インフルエンザワクチンの供給体制はまだ整っていませんでした。また、インフルエンザ感染の治療薬である抗ウイルス薬オセルタミビル(タミフル)を予防的に投与することは、耐性インフルエンザ株を作り出してしまう心配があったため、躊躇される状況でもありました。
一方で、ワクチンが十分供給されるようになっても、アレルギーなどによって使えない方がいることも事実です。そこで、インフルエンザ感染予防では、現在もワクチンや抗ウイルス薬以外の手段が求められています。
『補中益気湯』は、「人参(にんじん)」、「黄耆(おうぎ)」、「蒼朮(そうじゅつ)」、「柴胡(さいこ)」などを構成生薬として、胃腸の働きをよくすることで体力を回復させる作用があります。医療現場では、特に虚弱体質や疲労などに用いられています。他方、これまでの基礎的な検討から、『補中益気湯』は免疫力を高めることが報告されており、感染症予防に有効な可能性が指摘されていました。実際に医療現場では、術後の体力低下や細菌・ウイルス感染を起こした患者さんへの投与も行われています。
そこで、新見先生は、『補中益気湯』が新型インフルエンザA感染を予防できるのではないかと考え、健康な方たちを対象にその効果について検討を行いました。なお、予防投与のため、医療保険は使用されていません。