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なぜ漢方薬の名前は難しいのか~第65回日本東洋医学会学術総会市民講座

公開日:2014.09.03
カテゴリー:漢方ニュース

 第65回日本東洋医学会学術総会市民講座が東京国際フォーラムにて行われました。
 近年、漢方薬は90%近くの先生が診療に使っており、西洋医学の治療では難しい疾患で治療ができる場合がある、科学的メカニズムが発見しつつあるということで、一般の方々も効果を期待していると言われています。その中で漢方についての理解を深めるため、第一部では三浦於菟(みうらおと)先生より「なぜ漢方薬の名前は難しいのか」についての講演がありました。

漢方薬の難しい漢字にも法則がある

 三浦先生は「漢方薬は漢字だらけで難しいですが、そこには漢方薬を理解するための秘密が隠されています」と話し、「お経のようですよね」と言いながら様々な漢方薬を紹介。「漢字で書くと難しいけれども、カタカナで書くとさらによくわからなくなってしまう」とユーモアを交えての解説がありました。
 「漢方薬の名前にはいくつかのパターンがあります。例えば「〇〇散」「〇〇飲」というのは煎じ薬のこと。中国で「湯」はスープのことを指します。また「〇〇丸」は粉末を蜂蜜で練って丸めたものを言います。ですが最近はどの漢方薬もエキス剤、カプセルになどになり、飲みやすいよう工夫がされています」と三浦先生。
 古く中国から伝わった当時の名残はあるものの、日本独自の発達を遂げてきた漢方薬。
 どれも読みづらく難しい漢字ばかりではありますが、命名法には以下のような共通点があると言います。
 「命名法には大きくわけて4つの分類ができます。1つめは、構成生薬によるもの。重要な働きをする生薬に由来する名前をつけたものが多く存在します。例えば葛根湯(かっこんとう)。葛根湯は7つの生薬からできていますが、主薬となる「葛根」から名付けられました。それ以外にも半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などがこれに当たります」
 この半夏厚朴湯は、喉が使えるような感じのあるときに用いる漢方薬ですが、その昔は泥棒の妙薬だったとの話がありました。
 「商人の父親が万引きのクセがある息子をどうしたらいいかと漢方医へ相談にいった際、手渡されたのが半夏厚朴湯。この漢方薬にはシュウ酸カルシウムが含まれているので、症状のない人が飲むと喉がチクチクするのです。万引きをしようと思っても喉がおかしくて万引き行為ができなくなってしまうので使われていたようです」

働きや効能がそのまま名前になっていることも

 そして命名法の2つめは、働きや効能によるもの。
 「胃腸の働きをよくして、消化を助けるために用いる啓脾湯(けいひとう)は、啓が『閉じた戸を手で開く』そして脾は『消化器』という意味です。つまり消化機能を目覚めさせるという意味で、慢性下痢、消化不良法、消化機能低下による疲労などに用いられます」
 また更年期障害などに用いる加味逍遙散(かみしょうようさん)の「逍遙」がふらつく、自由きまま、こだわらないなどの意味があり、いろいろな症状を解き放ち、自由きまま、快適に過ごせるようにするという効能を持っているそうです。
 「そして3つめは、方剤の適応状態による命名です。当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)という漢方薬は『四』が四肢、手足という意味、『逆』が抵抗があるためにスムーズに進めないという意味です。『加』は漢方薬に生薬を加えることを表しますので、当帰四逆湯(とうきしぎゃくとう)に呉茱萸と生姜の二種類の生薬を加えたものという意味になります。適応は手足の冷えを感じる方でそれに伴う腰痛や頭痛、しもやけなどです」
 そして4つめは、中国の思想による命名です。
 「中国には、東西南北に神様がいると言われています。北の玄武、東の青竜、西の白虎、南の朱雀を合わせて『四神』といい、これに基づいた漢方薬も存在します。その名前は、真武湯(しんぶとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、白虎湯(びゃっことう)です。また女神散(にょしんさん)など『神』がつくものもあります。このように一見難しい名前でも、意味を知っていくとそれぞれの漢方薬の用途や効能などが見えてくるのです。これからはただ『難しい』ではなく、こんな意味もあるのかと名前をよく見ていただければと思います」
 と話を締めくくりました。
 その後は講談師の神田香織さんが、近代漢方復興に多大なる貢献をした和田啓十郎先生の一代記を講談。お二人のわかりやすい話に会場も大いに盛り上がりました。

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