5種類試して「やっと私にあうお薬が見つかった」と喜んだ、ホットフラッシュの患者さん
5種類試して「やっと私にあうお薬が見つかった」と喜んだ、ホットフラッシュの患者さん
55歳の女性が「毎日1回は顔がほてって、大量に汗をかいてしまう」と言って来院した。この症状はホットフラッシュであると考え、エキス剤の加味逍遙散(かみしょうようさん)を処方した。1か月ほど内服してもらったが、ほてりは全く改善しないと言う。そこで次のチョイスとして、女神散(にょしんさん)のエキス剤を処方することにした。しかし女神散は全く口にあわず、「これは不味くて、1回しか飲めなかったです。」と言われてしまった。
ホットフラッシュは、漢方的に考えると“気の上昇”と考えられる。つまり、気が頭のほうに昇ってしまい、その影響で顔がほてったり、のぼせたりする。そんなときに使われることが多い生薬が桂枝(けいし)であり、桂枝を含んでいて更年期障害によく処方される漢方薬は女神散や桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)である。そこでこの症例にもエキス剤の桂枝茯苓丸を処方したが、残念なことにこれも無効であった。これまで処方した3種類の薬で、一番効いた気がするのはどれか?と尋ねると、「女神散は飲めないから解らない。他の2つは飲めるけど・・・」と言われた。少しでも良いというものがあれば、その薬を長めに飲んでもらうことで少しずつ症状が改善することがある。しかし全く効かない薬を長く飲んでもらうわけにはいかない。
そこで発想を変えてみることにした。ホットフラッシュは顔が暑くなるのだから、冷ますための薬を処方することにした。
冷ます薬の代表格は黄連解毒湯(おうれんげどくとう)なので、エキス剤の黄連解毒湯を2週間処方した。2週間後外来に来た患者さんの顔に笑顔はなく、「やっぱり効かなかったです。しかもすごく苦いですね。」と言われてしまった。
これで4種類も薬を試してもらい、しかも全て効かないという。薬は、西洋薬だろうが漢方薬だろうが、患者さん別にある程度は効く/効かないがある。でもさすがにこれ以上自分が処方するのは、患者さんのためにならないかなと思ったが、この患者さんは「ここまで来たら頑張る」と言ってくれた。そこで祈るような気持ちで白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)を処方した。
エキス剤の白虎加人参湯を1日3回で処方した。祈りが通じたかどうかは解らないが、白虎加人参湯は有効であった。患者さんには、「飲むのが辛ければ、回数を減らしたり中止しても良いよ。」と伝えておいた。その結果患者さんが選択した飲み方は、白虎加人参湯の頓服であった。出かける前や、自宅でほてりが強いときに飲むようにしたが、非常に有効であると言ってくれた。
やっとのことで症状が楽になる漢方薬を見つけることができた。患者さんの忍耐強さに感謝しつつも、内心“ほっ”とした経験であった。漢方薬は初めから効くとは限らない。患者さんと一緒に、体にあった薬を探すことでお互いに良い気分になることができた。
愛世会愛誠病院・下肢静脈瘤センター
血管外科の外来で漢方薬を使うようになってから、本格的に漢方を学ぶようになり、2010年より血管外科と漢方内科を兼務。
日本外科学会専門医、日本脈管学会専門医。