漢方医学教育の現状と課題 “卒前教育から初期研修までの一貫性”への取り組み 前編
今回で11回目となる『KAMPO MEDICAL SYMPOSIUM2011』((株)ツムラ/(株)日経メディカル開発共催)が2月、東京・新宿の京王プラザホテルで行われ、全国の大学病院・地域医療に携わる850名を超える先生方が集まりました。今回のテーマは『大学卒前教育から初期研修までの一貫性のある漢方医学教育を目指して』。
シンポジウムでは、北村聖先生(東京大学医学教育国際協力センター教授)と天野隆弘先生(国際医療福祉大学大学院副大学院長・教授/山王メディカルセンター院長)の司会の元、漢方医学での卒前教育のあり方や、大学間でのネットワークの試み・地域連携を含めた研修医の漢方医学教育の導入についての具体的な事例が報告され、卒前教育から初期研修へどのようにつないでいくか、漢方医学教育の方向性について討議されました。
「医学教育モデル・コア・カリキュラム」から10年
東京有明医療大学 学長
東京医科歯科大学 名誉教授 佐藤 達夫 先生
まず、佐藤達夫先生(東京有明医療大学学長/東京医科歯科大学名誉教授)から『医学教育モデル・コア・カリキュラム』(MCC)について10年前に策定された時の基本理念の振り返りがありました。MCCとは様々な医師養成の問題点を解決するため、医学教育での必須要件を定義したもの。基本教育内容の精選・標準化とその統合的編成、参加型臨床実習前に到達すべきレベルの設定、倫理・安全管理・コミュニケーション能力の充実などを核としており、漢方教育の普及・充実化にも寄与してきました。佐藤先生は、MCCは学生の「受け身・無気力・指示待ち」的傾向の解消を目的として策定されたという点を力説。各大学がそれぞれの理念に従って、多様なカリキュラムを用意し、「学生がそれを主体的に選択し積極的に学習できるようにすること」が最も重要、としました。医学教育を2階建の建物になぞらえ「1階部分は医師になるための必須項目としての共通カリキュラムであり、2階部分は大学独自の工夫した上級・選択科目。これからの漢方医学教育も、2階部分での充実で課題探求・解決能力向上を目指すべき」と提言されました。
学生サークル活動の熱意が後押し
北海道大学大学院医学研究科
神経薬理分野 教授 吉岡 充弘 先生
次に吉岡充弘先生(北海道大学大学院医学研究科/神経薬理学分野教授)が北海道大学における漢方医学卒前教育について報告しました。北海道大学は、平成23年度より「漢方医学」(8~15コマ)を4年次に開講します。「漢方医学」をEBMに対応可能な理論体系を有する学問と位置付け、表舞台に推し進めます。その背景には学生サークル活動の後押しがあったそうです。現在全国の多くの大学には漢方医学関連の学生サークルが存在し、様々な情報発信活動を行っており、北海道大学にも「東洋医学研究会」というサークルがあって、彼らの熱意が教員の背中を押すことになったのです。吉岡先生は、「今後はサークルの同窓会活動も始めたい。サークル出身の医師を教員としてリクルートすることも検討する。大学としても、こういった課外活動を含めて漢方医学を広く学べる環境作りを目指したい」とまとめました。
大学間連携で、教育の質は効率的に高められる
熊本大学 教授
附属病院医療情報経営企画部長
宇宿 功市郎 先生
同じく大学での取り組み事例として、宇宿功市郎先生(熊本大学教授/附属病院医療情報経営企画部長)からは、南九州大学5大学(大分大学、宮崎大学、鹿児島大学、琉球大学、熊本大学)間ネットワークでの試みについてお話がありました。過去3年間、毎年1回5大学の漢方教育担当者が集まり、教育内容や・教員確保上の問題点を共有し、お互いの経験を持ち寄ることで解決策を見出す効率を高めているそうです。さらには共同での講義資料の作成を目指し、情報共有のためのHPを立ち上げ、互いの教材を交換できるようにしています。複数の大学がお互いの取り組みを確かめ合うことで、より良い教育を実現するスピードを上げているのです。(後編へ »)