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Vol.2 更年期と漢方養生 ~“処方ありき”ではない漢方薬の使い方~

公開日:2022.11.30
カテゴリー:病気と漢方

女性なら誰しも通る閉経前後の「更年期」。Vol.1 更年期と漢方養生 ~消化力を整える“養生”で症状は改善できる~では、この時期に出てくるさまざまな不調には、忙しさやストレスによって引き起こされた“脾胃失調”(胃腸機能の低下)が隠れている場合が多いこと、それを整える“養生”を行うことで症状が軽減されていくことを伺いました。後編となるVol.2では、そのような更年期の不調に対して行う漢方薬の処方について、また覚えておきたい季節ごとの養生の仕方について、引き続き、泉州統合クリニックの院長・中田英之先生に話を伺います。

誰ひとりとして同じではない症状。更年期障害=この漢方薬、ではない

更年期に現れる、ほかの病気に伴わないさまざまな症状を「更年期症状」、中でも症状が重く日常生活に支障を来す状態を「更年期障害」といいます1)
Vol.1でお聞きした通り、「更年期を迎えた女性にホルモンのゆらぎが多少あっても、土台である脾胃(胃腸機能)を整えれば、不調は軽減できる」という考えから、中田先生のクリニックでは通常、初診では漢方薬の処方はしないといいます。しかし、仕事や家庭の事情などですぐに不調を和らげたい場合や、症状が重く「養生」に加えてあと一押しが欲しいときなどは、処方を行うとのことです。

「“更年期障害には漢方治療が有効”ということは、広く知られてきました。しかし、必ずしも“更年期障害だからこの薬”と決まった処方をするわけではありません。実際に悩む女性たちの症状は非常に多岐にわたり、その背景や生活事情もさまざま。不調が始まった経緯をお聞きし、現状に至ったストーリーが判明したら、その方の置かれている状況に応じて、適切な漢方薬を選びます」(中田先生)

更年期における症状タイプと処方薬の例

肩こり、冷え、のぼせがあるタイプ→→ 大柴胡湯(だいさいことう)

緊張が強く、肩に力が入っているときは、血が上半身に集まり、のぼせやホットフラッシュが起こりやすい。逆に下半身の血流は悪くなっていて、便秘を伴うことが多いので、大柴胡湯を用いると効果的。

手足がほてって眠れないタイプ→→ 三物黄ごん湯(さんもつおうごんとう)

疲労が強く、体が熱を持ってしまうと、手足がほてって落ち着かず、気持ちも高ぶり、睡眠障害を訴えることが多い。熱を冷ます作用を持つ三物黄ごん湯によって、眠りの改善が期待できる。

焦り感や不安が強いタイプ→→ 女神散(にょしんさん)

職場や家庭などで疲労やストレスが増え、強い焦りや不安を抱えると、不眠、食欲不振、イライラなどが募りがち。血行と水分循環を改善し、漢方でいう「気」の巡りをよくする女神散を用いると、症状を軽減できる。

「これを飲めば治る」では改善しない。的確に効かせるには?

更年期のつらい症状を抱えて病院やクリニックに行き、いざ処方薬をもらうと、私たちはついそれに頼って『これで治る』『これさえ飲めばいい』と安易に考えてしまいがちです。しかし、それでは漢方薬の効果を得ることができず、不調も治らないと中田先生は警鐘を鳴らします。

「手軽に漢方薬が手に入るようになったこともあって、『とりあえず漢方だけ飲んでおけばいいや』という人も多いです。でも、体を冷やす飲食、夜更かし、運動不足など、体調を崩すような生活習慣を続けながら漢方薬を飲んでも効果が出るとはいえません。また、仮にその場はしのげたとしても、結局そのツケを後から払うことになってしまいます」(中田先生)

そもそも更年期の不調は、漢方治療で改善しやすい得意分野だといわれています。しかし、ただ漠然と服用するだけでは、一時的に治ったとしてもまた別の症状として出てきてしまうことが多いといいます。そのような“モグラ叩き状態”にならないためにも、医療者とともに「不調の原因を自分の中に見つけ、それを改めていくことが大切」だと中田先生は話します。

「まず薬ありきではなく、『どのように不調が始まったのか』『原因となっている行動・習慣はないか』をよく思い出し、主治医と話しましょう。原因を見つけて、それを患者さん自身が気づき、理解できるようにアシストするのが漢方医です。本人が理解できれば、考え方や習慣を改めようとか、仕事のやり方を変えてみようとか、そういう気持ちが芽生えてくるはず。ゆくゆくは自分の身体のケアが自分自身でできるようになることが目標です」(中田先生)

季節ごとに訪れる体の変化を知っておく~春夏秋冬の養生~

「更年期の不調を根本的に改善していくためには、普段の生活習慣を見直すこと、そして人間の体調と密接な関わりを持つ“暦”とともに生活することも大切です」と話す中田先生。自分の体をしっかり観察し、四季の変わり目での体の変化に敏感になること、そして、それに対する上手な対処の仕方を知っておくことが必要だと言います。

以下、季節に応じた過ごし方の一例を伺いました。毎年訪れる四季を肌で感じることは、自分の体と向き合うことにもつながるはずです。

季節に応じた過ごし方の例

春の養生

すべてのものが止まっている冬から動き始める春。木々は芽を出し、虫は地面から這い出してくるように、冬から春への変化にはエネルギーが必要です。体を動かすエネルギーの源は「消化力」。年末~正月にかけて不摂生をして、消化力が低下したまま春に突入すると、変化に必要なエネルギーが不足し、めまいや嘔気、頭痛などの不調が表れがちです。気候が少し暖かくなっても油断せず体を温め、食事を軽くし、消化力の維持につとめましょう。

夏の養生

東洋医学には「冬の間に体に溜まった“寒”を、夏に汗とともに出す」という考え方があります。日本の夏は湿気が多く、汗をかくのは嫌かもしれませんが、それでも夏は汗をしっかりかくのが正解です。アイスやかき氷などの冷たい飲食物、オフィスや電車内での強烈なクーラーなどで、体の内と外が冷えると、胃腸が冷えて体力が落ち、夏バテを起こします。夏でも温かいものを食べ、冷たいものは控えつつ、適切な水分・塩分補給を心掛けましょう。

秋の養生

1日の中での気温差が徐々に開いてくる頃、体調に異変を感じる人が増え始めます。体がまだ夏仕様でいるところに突然寒気がやってきたことで、体内に熱が取り残されてしまうのが原因です。体の中心部に残った熱は、出口を求めて穴を探します。一番大きな穴は肛門。熱が肛門から出るときは下痢(軟便)になります。肛門から出られない場合は、熱は逆流して体の上方へ。胸を通過する際に動悸を起こし、口の中に口内炎をもたらし、顔にニキビを生じさせて、最後に頭痛やめまいとなって行き止まると考えられます。10月の秋分の頃には軽くなりますが、もう少し早く脱出したい場合は、できるだけ体を動かして汗をかくようにすると、熱を外に発散することができます。

冬の養生

この時期は無理に元気にしようとせず、気分が落ちても気にしないことが大切です。冬至は1年で一番昼が短い日です。その冬至まで1日ごとに日が短くなっていくため、徐々に陽気(元気)は落ちていきます。つまり、冬至までは自然環境が陽気を減らす方向に変化しているため、無理に元気を出そうとすると体調不良を引き起こすのです。冬はじっくり気力・体力を蓄える時期と捉え、無理して動いたり、頑張ったりしなくても大丈夫です。気持ちを無理に上げる必要もありません。足元を温めながら、食を減らして(活動量が減るため)、ゆっくりマイペースで過ごしましょう。

更年期で生活をリセットして、人生の後半を謳歌しましょう

女性が更年期を迎えるというのは、そろそろ踏みっぱなしだった人生のアクセルを緩める時期が来ている、ということ。「ブレーキを緩やかに踏み、このときをうまく乗り越えれば、閉経によって気力・体力を消耗することがなくなり、人生の後半を健やかに生きることができるはず」と中田先生はおっしゃいます。

「更年期を迎え、不調が出る人もいるし、調子よく過ごせる人もいるでしょう。でも、もし不調が出たとしても、しっかり養生をして、生活を一旦リセットすれば間に合います。そして、体が再び限界シグナルを出さなくて済むように、それまでの生活を振り返り、自分の体を自分でしっかりと感じて、いきいきと過ごしてほしいと思います」(中田先生)

参考
  1. 日本産科婦人科学会│更年期障害<2022年10月19日閲覧>

中田 英之(なかた ひでゆき)先生
泉州統合クリニック 院長
1995年防衛医科大学校卒業。防衛医科大学校病院産婦人科、慶応大学漢方医学講座、練馬総合病院 漢方医学センターを経て、2021年に泉州統合クリニックを開院。ライフワークである「養生」を重視した臨床を行っている。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本産科婦人科学会専門医。

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