いまづ先生の漢方講座 <ビジネスパーソン編> Vol.1 肩こり
現代を生きる私たちは、仕事に家事、育児と忙しい日々を送っています。最近ではさらにコロナ禍ということもあり、小さな不調を抱えつつも病院から足が遠のいている人も多いのではないでしょうか。
しかし、この慢性的な小さな不調が、あなたのさまざまなパフォーマンスの発揮を邪魔しているかもしれません。エナジードリンクやサプリメントに頼ってしまいがちな人は、これを機会に漢方の力を頼ってみてはいかがでしょうか。
筋肉疲労が肩こりの原因に
一日中パソコンに向かって仕事をしている人にとって、首や肩の「こり」は大きな悩みの種です。自宅でのリモートワークも一般的になりましたが、長時間の作業に向かない机やいすでの作業による肩こりに悩まれている人も多いのではないでしょうか。
ずっとパソコンの前にいると、同じ筋肉を使い続けることになります。同じ筋肉を使い続けることで、首や肩に運動の後に起こるような筋肉疲労が起こり、それがこりにつながるというわけです。ただ、運動と違うのは、その疲労が気分の悪いものであるということです。集中力の低下につながることも考えられます。
首や肩のこりの原因は、筋力の弱さや体の柔軟性のなさ、血行不良、頸部椎間板の加齢(老化)、心体の緊張などです。つまり、筋肉の疲労が大きな原因です。肩こりの解消にはストレッチとウォーキングがよいとさまざまな研究結果からわかってきていますが、その回復効果には個人差があると考えられています。
また、マッサージで解消しているという人も多いと思います。体をほぐしてもらうととても気持ちがよいものですが、残念ながらマッサージの持続性は72時間程度しかありません。
肩こりに効く漢方
そんなときにおすすめしたい漢方薬は、トリカブト(附子)が入った漢方薬です。
トリカブト、と聞き、毒薬を連想した人も多いことと思います。昔の推理小説などにもよく登場しますね。
トリカブトに含まれるアコニチンは神経毒です。少量で心拍数を増やす一方、死に至る心不全を引き起こすことがあります。
しかし、トリカブトは熱処理をすることで、毒性が弱くなり、薬として用いることができます。漢方薬で用いられているトリカブトは附子と呼ばれる、熱処理をして弱毒化させたアコチニンです。首や肩のこりの痛みや血流の改善が期待できます。
上半身のこりに効く漢方薬のひとつに、この附子が含まれている桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)があります。桂枝加朮附湯には附子のほかに、筋肉の緊張を緩めてくれる芍薬と甘草、附子との組み合わせで炎症によって起こるむくみを改善してくれる蒼朮(そうじゅつ)、さらに血流の改善効果がある生姜(しょうきょう)などが含まれています。
ただし、附子の効き方には個人差があり、1万人に1人程度、ほんのひと舐めで動悸がしたり、顔が真っ赤になったりする場合があるとされています。そのため、初めて服用するときは、指先にほんの少量をつけて舐めてみるとよいでしょう。もし過剰反応してしまう体質だった場合には、30分以内に心拍数が上がり、顔が赤くなってきます。その場合は服用を中止すれば30分以内に症状が改善します。
また、附子はアルカリ性のため、胃酸がある場合は吸収率が下がります。一方で胃酸を抑える薬を飲んでいる人は吸収率が上がってしまうので、注意が必要です。
今回の処方
桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)- 参考
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- 今津嘉宏:仕事に効く漢方診断, 星海社, 東京, 2016
今津嘉宏(いまづ よしひろ)先生
芝大門いまづクリニック院長