八味地黄丸(はちみじおうがん)
構成生薬
- 地黄(じおう)
- 山茱萸(さんしゅゆ)
- 山薬(さんやく)
- 沢瀉(たくしゃ)
- 茯苓(ぶくりょう)
- 牡丹皮(ぼたんぴ)
- 桂皮(けいひ)
- 附子末(ぶしまつ)
作用の特徴
老化や下半身の機能低下に効果的。従来言われているような胃腸の丈夫さは、服用する上での必要条件ではない
効果判定には、1~3か月の長い期間を必要とする
対象となる症状
- 坐骨神経痛
- 老化による腰痛
- 排尿障害
- 不妊症(男女共)
- 老化による疲れやすさ
解説
八味地黄丸はその名の通り、8種類の生薬で構成されています。老化予防薬として古くから用いられており、江戸時代には精力増強剤の代名詞として川柳にも詠まれたという、比較的知名度の高い漢方薬です。
現在でも高齢者の泌尿器、生殖器、下肢筋の衰えなどの改善に用いられることが多いですが、これらの目的で用いる場合は長期間の服用が必要になるため、八味地黄丸が本当に症状の改善に役立ったのかどうかの判断が難しいことが少なくありません。
ただし、服用することで老化がゆるやかになったり、下半身の機能低下が改善されて疲れにくくなったりするといった応答が引き出されることは確認できています。また最近では、不妊治療の受精率を高めるために用いられるケースも見受けられます。
エビデンス情報
八味地黄丸の子宮脱の術後不快感に対する有効性
子宮脱に対する補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の投与が無効であり、腟式子宮脱根治術を施行した19例を2群に分け、一方の群にのみ八味地黄丸を投与するランダム化比較試験(RCT)を行ったところ、投与開始時から1~2週間後、八味地黄丸投与群では1日の平均残尿量が有意に低下しました。このことから八味地黄丸には、子宮脱手術後の残尿量を減少させる効果が期待でき、膀胱およびその周囲組織の回復に有効だと考えられます1)。
八味地黄丸による難治性不妊加齢女性の回収卵子数、受精卵数の有意な増加
不妊専門クリニックと漢方内科で連携し、治療周期に合わせ決まったパターンで漢方薬を処方した20例を対象としました。体外受精・顕微授精の採卵までの期間において卵子の成熟を促し瘀血を改善する目的で八味地黄丸と桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を投与し、妊娠継続群と非妊娠群でAMH(アンチミュラー管ホルモン)値、子宮内膜厚、回収卵子数、受精卵数などを比較したところ、回収卵子数と受精卵数で、漢方薬投与後に有意の数値改善が認められました2)。
また、加齢に伴う卵巣機能の低下に対して八味地黄丸を用い、妊娠に至った難治性不妊50症例の検討では、八味地黄丸を治療周期前もしくは治療周期から内服開始し、妊娠判明まで連日内服したところ、内服後にFSH(卵胞刺激ホルモン)、回収卵子数、受精卵数の有意な増加が認められました3)。
これらのことから体外受精の段階に合わせた八味地黄丸などの漢方薬の使用は、不妊治療の補助的な治療として有効である可能性が示されています。