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新型コロナウイルスに負けない体を作るために漢方ができること

公開日:2020.08.05
カテゴリー:漢方ニュース

 世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。日本では緊急事態宣言解除後も感染者数はいまだ増え続けており、東京都では1日の感染者も連日100人を超えています(2020年7月7日時点)。
 COVID-19の治療にあたっては、アジア各国で伝統医療が積極的に活用されています。日本で用いられている漢方医学でも、まだ病気が重症化していない段階から漢方薬を適切に使用することで、ある程度の予防も可能と考えられています。
 今後訪れるかもしれないCOVID-19の再流行に備えて、私たちはどのような対策を行っていけばよいのでしょうか。漢方医学の観点から、漢方産業化推進研究会代表理事・横浜薬科大学特別招聘教授で、大塚医院(漢方専門外来)院長である渡辺賢治先生に伺いました。

COVID-19とはどんな病気? 主な症状と流行の状況

免疫 ウイルス

 COVID-19は「新型コロナウイルス」と呼ばれるウイルスを原因とした感染症です。コロナウイルスは、一般的なかぜ症状を引き起こすものから重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)の原因となるものまで、さまざまな種類があります。COVID-19の原因となっているのは、これまでに報告されていなかった新しいタイプのコロナウイルスであることから、新型コロナウイルスと呼ばれています。

 新型コロナウイルスは鼻やのどの粘膜などから体内に入り込み、増殖して症状を引き起こします。初期の主な症状は発熱、せき、のどの痛み、頭痛、倦怠感といった、かぜ様の症状です。そのほか味覚や嗅覚に異常をきたす人が多いのも特徴です。初期の症状はかぜやインフルエンザと似ており、その時点でCOVID-19か、それともかぜ、インフルエンザなのかを区別することは困難です。

 COVID-19の日本国内の感染者数は20,000名を超え、死亡者数も1,000名に届こうとしています(2020年7月7日現在)。COVID-19は感染者のくしゃみ、せき、つばなどと一緒に放出されたウイルスを口や鼻などから吸い込む飛沫感染や、ウイルスが付着した手で口や鼻を触り、そこからウイルスが体内に入り込む接触感染により広がっています。WHO(世界保健機関)によると、新型コロナウイルスの潜伏期は1~14日間で、曝露から5日程度で発症することが多いとされています。感染可能期間は発症の2日前から発症後7~14日間程度であり、感染しているものの、症状がまだ出ていない人、もしくは軽微な症状の人から感染するおそれもあります。

 感染を防ぐためには3密(密閉空間・密集場所・密接場面)を避けること、人との間隔を意識しソーシャルディスタンスを取ることのほか、屋内にいるときや会話をするときはマスクを着用するなどして飛沫感染を防ぐ、積極的な手洗いや手指の消毒などを日常生活に定着させ、感染の拡大を持続的に防ぐことが大切です。

COVID-19から身を守るポイントは「免疫力」

 著名人が亡くなったニュースが大きく報道されたことなどから「新型コロナウイルス感染症は怖い病気」というイメージが強いかもしれませんが、多くの方は軽症のまま治癒すると言われています。厚生労働省の調査によると、感染者のうち軽症のまま治癒する人が約80%、肺炎症状が増悪し入院する人は約20%で、集中治療室での治療が必要となる人は、この約20%のうちの約5%とされています。

 重症化のリスク因子として、高齢であることや糖尿病などの持病が考えられていますが、これらのリスクがなくても重症化、あるいは死亡するケースもあります。渡辺先生は「これはもともとの免疫力が高いか、または病気などを持っていて免疫力が下がってしまっているかなど、身体が持つ免疫力の差です。“ウィズコロナ”の時代に“免疫力を上げる”ということは、これから大事なポイントになってくるでしょう」と話します。

 では免疫力を上げるにはどうしたらいいのでしょうか。

「そもそも『免疫』とは、ウイルスや細菌が体の中に入ったときに、その異物を排除しようとする生体防御システムのことを言います。免疫には、生まれつき備わっている自然免疫と、外からの敵との戦いによって身につけていく獲得免疫がありますが、防御システムが強固であれば免疫力は高いと言えますし、逆に防御システムが弱いと免疫力も弱いと言えます。COVID-19だけでなく、病気予防のためには免疫力を上げることが大切ですが、免疫が誤った方向に過剰に反応してしまうと、外敵ではないものに対しても攻撃してしまう、アレルギーのような免疫異常を起こすこともあります。ですから、免疫はただ上げればいいというわけではなく『正しく機能させる』ことが重要なのです」(渡辺先生)。

「免疫力を上げる」ために漢方薬を

 免疫力を正しく機能させ、COVID-19などの病気から身を守るためには、日々の養生が大切だと渡辺先生は言います。

「漢方医学では、養生を何より大切としています。養生とは、日々の生活習慣を見直し、健康を維持しようとする考え方のことです。栄養バランスのとれた食事、適度な運動、ストレスを溜めず充分な休養を取ること、冷えを防ぐことなどが挙げられます。暑い日が続くと、冷たい飲み物や食べ物をつい欲してしまいますが、これらは内臓を冷やします。内臓の冷えは漢方医学が最も嫌うところで、免疫力を下げる要因ともなります。冷たい飲食物はなるべく控えめにし、生野菜よりは温野菜、また体を温める効果が期待できる生姜や根野菜などを積極的に摂るようにしましょう」(渡辺先生)。

 また、免疫力を正しく機能させるために漢方薬を用いるという方法もあります。

「一般的に、薬は病気になってから用いるものですが、漢方では予防の段階からも薬を服む、という発想があります。2000年前に書かれた『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』にある「上薬」がそれに当たります。漢方では、病気になる前の軽い症状がある『未病』の段階から体を整えておくことが重要という考え方が根付いているのです。未病は、病気と健康な状態の間のことで、自覚症状はないけれど健康診断の値が悪かった、またはふだん調子が悪いけれど検査をしても異常がなかったような状態のことを指します。養生に加えて漢方薬を使うことで、免疫力を正しく機能させれば、たとえウイルスが体の中に入ったとしても、増殖しないように抑制することができます。『神農本草経』とならぶ古典の一つである『黄帝内経 (こうていだいけい)』には、「正気が内に充実していれば外邪が侵入できない」とあります。この正気こそ、感染症においては免疫力とも言えます」(渡辺先生)。

「正気を充実させる」漢方薬

 では「正気を充実させる」ためには、どのような漢方薬がよいのでしょうか。漢方では生命エネルギーを維持するための重要な要素として、「気」と「血」があります。「気」が不足すると疲れやすくなり、「血」が不足すると栄養状態が悪くなります。これらを補うのが「補剤」です。

「基礎疾患がなく、これから初めて漢方薬を服用するという場合は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や生脈散(しょうみゃくさん)がよいでしょう。補中益気湯は、体力が落ちていたり、疲労が溜まっている人に、名前の通り『気を補う』ものです。生脈散は体力がなく、胃腸が弱くて、汗をよくかくような人に向いています。このほかにも、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)や人参養栄湯(にんじんようえいとう)などは、気と血を補う漢方薬です。体が弱ったときに服用すると免疫力が下がるのを防いでくれます。

 一方、現在何らかの症状があってすでに服用している漢方薬があるという場合は、医師への相談が必要です。ただ、ふだん処方されている漢方薬を継続することで、結果的に重症化を防ぐことにつながったケースもあります」(渡辺先生)。

「扶正去邪」でウイルスに負けない体を目指す

 漢方薬は生薬の組み合わせでできており、ひとつの漢方薬の中には数種類の生薬が入っています。そのためひとつの症状だけでなく、さまざまな症状に対応してくれるのが漢方薬のメリットでもあります。

「漢方医学に『扶正去邪(ふせいきょじゃ)』という概念があります。『扶正』は体を守る力を高めること、『去邪』はウイルスなどの敵を撃退することを言います。予防として用いる漢方薬は、この『扶正』の役割を果たしてくれるものです。もし発熱があった場合は、『去邪』の役割を果たしてくれる葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)をすぐに服用すると、ウイルスの排除を促進してくれます。

 ただし、残念なことに、現在の保険診療では、予防としての薬の投与は認められていません。そのため、基礎疾患のない人が漢方薬を予防的に服用したい場合には、漢方薬に詳しい薬局で服薬上の注意をよく聞いた上で、体を健康に保つことを目的としたOTC(一般用医薬品)を上手に使うとよいでしょう。

 中国・武漢市でCOVID-19の治療にあたった伝統医療の医師は4,900人ほどいましたが、彼らはそれぞれ自分にあった漢方薬を服用していたため、1人も感染者が出なかったといいます。

 COVID-19は、急激に悪化することもあるため、中国の先生方は日頃からの『扶正』が大切だと強調されています。漢方薬を上手く活用し、ウイルスに負けない体を作っていきましょう」(渡辺先生)。

※漢方産業化推進研究会による漢方薬局リストはこちらからダウンロードできます
https://kampo-promotion.jp/topics/2020/05/20200508140850.html<2020年7月10日閲覧>

参考

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