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【学会レポート】漢方薬に医療費削減効果はある?ない?

公開日:2017.07.12
カテゴリー:漢方ニュース

医療機関の入院患者データベースから分析


東京大学大学院医学系研究科
公共健康医学専攻 臨床疫学・経済学教授
康永秀生先生

 東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 臨床疫学・経済学教授の康永秀生先生は、6月に名古屋で開催された第68回日本東洋医学会学術集会のシンポジウムで講演し、包括医療費支払い制度方式(DPC)を採用する医療機関の入院患者データベースから、大腸がん術後イレウス(腸閉塞)によりイレウス管を挿入された患者で胃腸障害に用いられる漢方薬・大建中湯(だいけんちゅうとう)、慢性硬膜下血腫で穿頭血腫洗浄術を受けた患者で利水作用を有する漢方薬・五苓散(ごれいさん)をそれぞれ使用したケースでは、同じ条件でこれら漢方薬を使用しなかったケースに比べ、有意な入院医療費削減効果があることを明らかにしました。

 大建中湯に関しては、消化管運動促進作用、腸管血流増加作用、消化管ホルモン分泌作用、イレウス抑制作用などの作用機序があるとされていますが、このうちイレウス抑制作用については動物実験では確認されているものの、ヒトでのデータはほとんどないのが実態でした。

 そこで康永先生は、DPCデータから2007年と2008年の7月~12月に大腸がん術後イレウス(腸閉塞)によりイレウス管を挿入された患者603例を抽出。このデータを大建中湯非使用群453例と大建中湯使用群150例に分け、患者背景をそろえるために傾向スコアマッチングを用いて各群144例に抽出、両群間で在院日数、再手術率、イレウス管挿入期間、イレウス管挿入から退院までの期間、入院医療費の5項目を効果指標として比較を行いました。

 調査の結果、イレウス管挿入期間は大建中湯非使用群が10日、大建中湯使用群が8日。イレウス管挿入から退院までの期間は大建中湯非使用群が25日、大建中湯使用群23日。入院医療費は大建中湯非使用群が269±170万円、大建中湯使用群が231±94万円で、いずれも大建中湯使用群で有意に良好な成績でした。

 康永先生は「大建中湯群では当然ながら大建中湯の薬剤費が余計にかかるが、この結果ではイレウス管の挿入期間を短縮する上に、大建中湯の薬剤費分を相殺するにとどまらず、お釣がきてしまう」と調査結果を評価しました。

慢性硬膜下血腫の再発予防で使われる五苓散

 慢性硬膜下血腫では、従来から穿頭血腫洗浄術を受けた患者では約1割が再発し、その防止を目的に五苓散が一部で経験的に使用されてきましたが、有効性を示す大規模な臨床試験結果はやはりほとんどありませんでした。

 そこでDPCデータから2010年7月~2013年3月に慢性硬膜下血腫で穿頭血腫洗浄術を受けた患者3万6,020人を抽出。これを五苓散使用群3,889例と五苓散非使用群3万3,121例に分け、傾向スコアマッチングにより両群で3,879例ずつを抽出した。そのうえで穿頭血腫洗浄術の再手術率と総入院医療費を複数の統計解析手法で比較しました。いずれの解析でも五苓散使用群では再手術リスクが低下していました。また、総入院医療費の平均は五苓散使用群が64.3万円、非使用群が67.1万円でいずれも有意に五苓散群の方が優れていました。康永先生は「今後さらに多くの漢方薬使用例について、効果および医療費への影響に関するエビデンスの蓄積が必要である」と強調しました。

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