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スマホやPC、タブレットの連続使用による疲れ目、肩こり、イライラ…VDT症候群の実態と漢方治療のメリット

公開日:2024.11.20
カテゴリー:病気と漢方

かつては職場に一台というケースも多かったパソコンですが、今やサブ機やスマートフォン(以下、スマホ)なども含めれば、ひとりで複数台を駆使する時代となりました。仕事のオン・オフを問わず情報機器に接する現代において、VDT(Visual Display Terminals)機器を長時間使用することで生じる「VDT症候群」に悩まされる方が増加傾向にある中、青山杵渕クリニック院長で産業医も兼任される杵渕彰先生に、その傾向や対策などについてお話を伺いました。

VDT症候群の定義と症状

「VDT」という名称は、厚生労働省が昭和60年に公表した『VDT作業のための労働衛生上の指針について(現:情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン1))』が発端とされます。

「同指針は労働におけるVDT作業の安全衛生対策の最初の指導基準です。厚生労働省によると、VDTとはVisual Display Terminalsの略であり、出入力装置(ディスプレイ、キーボード、マウス等)で構成されるパソコンやスマホ等の情報機器端末を意味します」(杵渕先生)

VDT症候群とは、VDT機器を使った長時間の作業で生じる多様な症状・病気のことで、急速なIT化とともにVDT症候群の可能性がある患者数は増加傾向にあります。

「VDT症候群では、同時に複数の症状が起きるという特徴があります。主なVDT症候群の症状には、①眼に関する症状(疲れ、痛み、かすみ、乾燥など)、②腕や肩、腰など筋骨格系の症状(身体各部の痛みやこり、眼精疲労(※1)含む)、③メンタルに関する症状(イライラ、不眠、憂鬱な気分など)、④頭痛、などが挙げられます」(杵渕先生)

(※1)視作業(眼を使う仕事)を続けることで、眼痛・眼のかすみ・まぶしさ・充血等の眼症状や頭痛、肩こり、吐き気等の全身症状が現れ、休息や睡眠をとっても十分に回復しない状態

また、同指針は導入以降、社会情勢の変化に伴って幾度かの改訂が行われており、時代とともにVDT症候群の主症状、患者象にも変化が生じているといいます。

「指針作成当初はVDT機器も今ほど普及しておらず、業務内容もキーパンチャー的な単純作業が多かったため、先述した②の筋骨格系の症状が主流でした。しかしその後、VDT機器の急激な普及に伴い、現在では眼に関連する症状(眼自体の症状に加え眼精疲労など)が増えていると感じます。
また、眼以外の症状として特徴的なのは、スマホの普及とともに親指の関節痛、腱鞘炎の患者さんが増加している点です。これはスマホなどで両手を使ったフリック入力を行う、かつてない指の使い方をする人たちが増えていることが要因と考えられます。また、これに関連して、かつてはその患者さんの多くが現役世代の社会人に限られていましたが、現在では学生などのより若い世代にも広がっています」(杵渕先生)

漢方治療は「根本的な改善」のうえで

「VDT症候群の治療では、その大前提として、職場環境や仕事内容など、最も根本となる要因の見直し・改善への取り組みが必要不可欠です。実際、症状が軽度なら、そうした取り組みだけで特段の治療を要さず快方に向かうこともあります。何らかの違和感があれば、まずは医師に相談することをお勧めします」(杵渕先生)

治療に関する話の冒頭でこう述べられた杵渕先生は、「そのうえで」と、VDT症候群の治療における漢方(東洋医学)の優位性を示します。

「私の場合、VDT症候群の治療は漢方薬がメインになります。理由として、体質改善を目指す根本的な治療が行える点は大きいと考えるからです。一般に用いられることが多い筋弛緩剤、鎮痛剤、眼精疲労用の点眼薬などを否定はしませんが、いずれも対症療法である点は否めません。また、治療が長期に渡ることも多いため、西洋薬の鎮痛剤などは使用しづらいという側面もあります。
さらには、ひとつの要因から複数の症状が複合的に現れやすいVDT症候群は、まさに漢方(東洋医学)の力を発揮できる分野であると思います。
これらの観点と、実際に漢方薬治療で効果が出ていることから、基本的にVDT症候群の治療には漢方薬を優先的に用いています」(杵渕先生)

西洋薬との併用を行うケースとは

薬物療法としては漢方薬を基本とする杵渕先生のVDT症候群治療ですが、例外についても伺いました。

「VDT症候群と判断して治療を始めたものの、なかなか良くなる兆しが見えない場合、VDT作業以外の原因が隠れていることがあります。例えば、毛様体のけいれんなど、通常の眼精疲労以外の要因が考えられる場合、ドライアイの症状がある場合、特に痛みの強い腰痛がある場合などについては漢方薬だけでは改善しないこともあるため、関連する症状の専門医に検査や診断を依頼し、西洋薬も用いながら協同して治療を進めていくケースもあります」(杵渕先生)

このほか、VDT症候群が長期化することでうつ状態が引き起こされることもあるそうですが、そうした際も、漢方と併用して抗うつ剤を用いることがあるとのことです。

(取材・文 岩井浩)

参考
  1. 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン│厚生労働省<2024年10月21日閲覧>

杵渕 彰(きねぶち あきら)先生
漢方医学研究所 青山杵渕クリニック 所長

岩手医科大学卒。東京都立松沢病院(都立広尾病院兼務)、東村山福祉園、柏木診療所、財団法人日本漢方医学研究所所属 日中友好会館クリニック所長などを経て、2001年4月に青山杵渕クリニック開設。日本精神神経学会専門医。日本東洋医学会専門医。日本医師会認定産業医。

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